2
玄関の前で花束を鞄にそっと仕舞ってからドアを開けた。
「ただいま」
小さく一応程度の声。だけどドアの音でかリビングから母さんが顔を出した。
「遅かったわね」
「うん」
突発性の反抗期にでもなったように素っ気なく返すと真っすぐ部屋に向かった。
鞄から花束を出しベッドへ倒れるように寝転んだ。何故か手に持ったままの花束と一緒に。
僕はその手を顔の前まで持ってきて花束を眺める。真っ暗な部屋に差し込む月明りにライトアップされた花束は神秘的でより一層美しかった。
「はぁー」
だけど零れるのは心内を何ひとつ吐き出すことのできないため息だけ。
岬に居た時より溢れる激しい感情は落ち着いたみたいだけど、今度はその分苦しさと切なさが胸を締め付けるのをひしひしと感じる。思い知らせるようにハッキリと。こういう時は泣けば少しは楽になれるのだろうか? でも涙は流れてこない。
僕は暗い部屋の中で胸の辛さに抗うことが出来ずまるで赤ん坊のようにただ耐え過ぎ去るのを待つしかなった。
それから何度新たな朝を迎えようとも僕の心では依然と太陽が雲に覆われたまま。一生完治しない病にでもかかったようにずっと心は辛いままだった。
だけどそんな僕を取り残し夏姉は結婚を報告して成瀬家を含め周りはお祭り騒ぎ。もちろん僕も「おめでとう」と一言言ったけど上手く笑えてたかは心配だ。
* * * * *
それから式までの間は辛いというよりはずっとモヤモヤとしたものが心を包み込んでいた。夏姉が幸せになることを嬉しく思う自分とやっぱり好きな自分がまるで人の内に住まう天使と悪魔のように睨み合う。出来る事なら晴れなやか気持ちで――夏姉の結婚を心の底から祝える状態で結婚式に臨みたい。
だけど式当日、僕は式場へ向かう後部座席で窓に映る自分を見ながら変わらずため息。僕はまだ夏姉のへの想いが忘れられずにいた。
そんな結婚式に参加するにしてはあまり良いとは言えな心持ちで車に揺られ式場へ。
式が始まるまでの時間に僕は夏姉へ連絡を(再開した夏姉と岬に行った後に交換したLINEを使用して)した。すぐにきた返事を読むと僕は1人両親の元を離れる。そして何度かスマホに視線を落とし、壁にあった地図を見ながら目的の場所へ。
「ここかなぁ?」
僕は不安になりながらももう一度確認をする。そしてちゃんと合っていることを確かめるとノックの後にドアを開けた。右手は後ろに回して。
「失礼します」
小声でそう言いながら中へ入るとそこは広々としていてソファなんかが置いてあった。思ってた以上にいい部屋だったから少し瞠目してしまったけど――でも僕の視線は奥のドレッサー前に座る人影へ向いた。
「ん? あっ、ちょっと待ってね」
「......うん」
鏡越しに一瞬だけ目が合った夏姉にそう言われた僕はただその場で立っているしかなかった。場所もそうだが複雑な気持ちもあり手持ち無沙汰のように落ち着かない。だけどそれでも雰囲気の違う夏姉の後姿が気になり頻りに視線を向けていた(鏡越しにバレていたら恥ずかしいけど今日は大丈夫なはず)。
夏姉の言ったちょっとは本当にちょっとだったから僕はその何とも言えない状況にあまり長居せずにすんだ。
「よしっと」
そう呟き立ち上がった夏姉は(慣れない服装だからだろう)ゆっくりと振り返る。
既にその後ろ姿は立ち尽くしてしまうには十分過ぎる程だったが向き合った夏姉の姿に僕は思わず息を呑んだ。まるで美の象徴であるかのようなその純白のウェディングドレスは僕の知っているしモノより華やかで煌びやかと。それを身に纏っている夏姉はとても――綺麗で、素敵で。どんな詩人でさえ表現する言葉が見つからず黙り込んでしまう程に
そしてその姿を瞳に映した瞬間から恍惚としていた僕は瞬きをすることも忘れ、1人時間が止まったように立ち尽くしていた。夏姉が近づいてくるのが視界では捉えていても頭では理解出来て無くて――それどころか何も考えられなくて。それ程に心奪われいた。
「おーい?」
目の前を何度か行き来する手と辛うじて聞けた言葉にハッと我に返る。
「――ごめん」
「大丈夫?」
「あ、うん。いや、その......。夏姉があまりにも――綺麗だったから...」
少し照れ臭かったけどこれは伝えなきゃいけない気がしたから勇気を出して言葉にした(声は小さくなってしまったけど)。
「ありがとう」
でも夏姉の嬉しそうな笑顔を見たらそんな恥ずかしさなんて大したものじゃないんだってことが分かった。
『笑顔は最高のメイク』。そういう言葉があるが僕はそれをまさに今、体験していた。ウェディングドレスを着た夏姉はそれだけでもすごく綺麗だけど燦々と輝く太陽の下で咲き誇るひまわりのような笑顔を浮かべると美しさに可愛さが加わり僕の胸を締め付ける。胸の内で膨れ上がる恋をどうにかして発散したいけどどうすることもできない。痒い所にあと一歩で手が届かないような、喉まで出かかってるのに思い出せないような――そんなもどかしさが僕を弄ぶ。
今すぐ夏姉を両手で力一杯抱き締められたのならどれだけいいだろうか。僕の恋は少しぐらい落ち着くかもしれない。だけどそれは出来ない。もし今、何も言わず衝動に駆られ抱き締めたのなら――きっと夏姉は優しく抱き返してくれるはず。だけどそこにあるのは弟や家族を想う気持ち。僕のモノとは違う。それは何だか夏姉の優しさを利用してるようで嫌だ。
「冬真もかっこいいじゃん。いつもより大人っぽい見えるよ」
感覚的にはいつもと変わらないが着慣れないスーツを見ながら夏姉はお返しをするようにそう言ってくれた。少しだけ照れる。
「ありがと」
僕はそんな気持ちを誤魔化すように言葉の後ずっと後ろに回していた手を差し出した。
「これ」
僕が握っていたのは少しだけ豪華な花束(今日新しく買ったものだ)。
「わぁ......綺麗」
ふんわりとした綿あめのように軽くて甘い声と見惚れるような表情。僕は夏姉の反応を見ながら少し花束を羨ましく思った。
「わざわざ買ってきてくれたの?」
「うん。――ご祝儀の代わり、ってやつ」
何故か僕は言い訳をするように付け足してしまった。それを聞いた夏姉はふふっと笑った。
「ありがとう。――あっ、そうだ。折角だから久しぶりに『なつきおねえちゃん』って呼んでもらおうかな。あの時みたいに渡して欲しいな」
「えぇ...」
「ほら、良いでしょ。お願い」
こっちの気も知らないで。正直、少しだけそう思った(なつきおねえちゃんと夏姉。言葉だけ見れば大して変わらないが僕にとっては大きな違いがそこにある。昔と今の僕に大きな違いがあるのと同じで)。本当は今更昔には戻りたくない。けど僕はその要望に応えることにした。だって喜んでもらいたいし。
でも昔の呼び方で呼ぶのは普通に恥ずかしいものだ。
「――な、なつきおねえちゃん。結婚おめでとう」
名前の途中で恥ずかしさに負け顔を逸らしてしまったが、その後の言葉が小さくなったのは言っててちょっと落ち込んでしまったから。
「ありがとう、冬真。やっぱり私はそっちの呼び方が好きだなぁ」
「もう受け取ってよ。夏姉」
僕はもうその呼び方はしないと強調するように今の呼び方で呼んでやった。
そしてやっと僕の手から花束を受け取った夏姉は愛でるように視線を落とす。
「これで冬真から花を貰うのは2度目だね」
本当は夏姉の為の3つ目の花束だけど。
「でもあの時のはただの野花だけど」
「どっちも同じぐらい嬉しいよ」
そう言うと夏姉は僕の頬に手を伸ばした。
「だって冬真のくれた花だもん」
その笑顔が、その言葉が、その温もりがどれだけ今の僕を複雑に――苦しくさせてるかなんて想像もしてないんだろうな。でもそれは未だ伝えることのできてない僕の所為。夏姉が笑う度に。夏姉が名前を呼ぶ度に。夏姉が触れる度に。僕と夏姉の関係性を強く感じてしまうのは僕の所為。
僕は湧き上がる涙を必死で堪えながら頬に触れる夏姉の手に自分の手を被せた。
「本当におめでとう」
何を言えばいいか分からなかったから。変に言葉を口にしたら心が漏れてしまいそうだったから。
僕は今に消えそうな声でそう告げると逃げるように部屋を後にした。もしかしたら声が震えてたかもしれないけどそんな事を気にしてる余裕は無かった。
そのまま外まで出た僕は人目の付かない場所へ。そこで気持ちを落ち着かせた。こんな状態じゃ結婚式をちゃんと祝えるのか、目の前の―夏姉が僕じゃない人と幸せになる事を―受け入れられるのか幸先不安だ。
だけど僕の気持ちなんて流れる時間の知った事じゃない。気が付けばスマホに母さんから連絡が入っていた。
「戻らないと」
それから何事もなく挙式、披露宴と始まり、結婚式は進んでいった。その間、結婚相手の人の隣で幸せそうに笑う夏姉を僕は自分の席から眺めていた。
その場所に座るのが――その場所に立っているのが僕ならどれだけ良かっただろうか。そんなことが頭をチラつく度に自分が嫌な奴に思えてくる。結局、僕は好きな人の結婚式に参加しその幸せそうな姿を見ているだけ。
でも想いすら満足に伝えられないからこそ――スタート地点にすら立ててないからこそ今ならまだそっと引き返せるのかもしれない。今からでも目を瞑り気付かなかったことに出来るかもしれない。
夏姉の幸せそうな姿を見ているとこれが――僕がこちら側に座りあの人が隣に座ってるこの状況が正解のような気がして段々と恋心が視界から消えていくような気がした。それは諦めというよりは仕方ないという、その道しか選択肢はなくそこを進むしかないという感覚。
こんなことならもっと早く想いを伝えて潔く断られていた方が良かったのかもしれない。その方がもっと心からこの状況を祝えたのかもしれない。そんな何の意味もない後悔が今更僕の胸にずっしりと落ちて来た。
「ここで急ではございますが花嫁の夏希様から一言あるとのことですので――」
何だろう。僕はそう思いながら言葉の最後の方は右から左へ流しながら夏姉の方を向いた。披露宴も終盤に差し掛かってると思うし最後の挨拶かななんて思ってた。
そしてマイクを片手に立ち上がる夏姉に会場中の視線が集まる。
「皆さん改めまして今日は私達の為にありがとうございました。もうそろそろ終わってしまうんですが皆さんのおかげで忘れられない結婚式となりました。ありがとうございます。それで少し時間を頂いたのは皆さんにお礼を言いたかったというのもあるんですが、それだけじゃなくて――挙式の後にブーケトスをしたんですけどこのもう1つのブーケをある人に渡しておきたくてお時間を貰いました」
夏姉はそう言うとブーケとマイクを手に
「ほら立って」
マイクは下げたままで聞こえるぐらいの声に操られるように頭が真っ白だった僕は素直に立ち上がった。
「私の家族と向かいの成瀬さん夫婦は私が物心ついた時から既に仲が良くて家族同然でした。彼はそんな成瀬さんたちの息子さんで赤ちゃんの時から知ってます。泣いた彼をまだ小さな私が抱きかかえると安心したように泣き止んだことは今でも忘れません」
それは初耳だったがそれよりこんなにも大勢の人に注目されているというこの状況が恥ずかしくてあまり気にはならなかった。
「そんな私を本当の姉のように慕ってくれて、私も本当の弟のように可愛がってきた彼にこれはあげようと思います」
周りは仲睦まじい姉弟を見るような視線を向けていたが、僕は言葉の破片が秘かに胸へ刺さるのを感じていた。改めて釘を刺すように今更変えようのない――変えるべきじゃない事実だと言われているようで...。
でも僕はその2文字を呑み込んだ。内側を傷つけながら落ちて行くのを感じながらもそれを受け入れようと自分に言い聞かせる。夏姉にとって僕は弟なんだと。
そして夏姉はそう言うとマイクを置いて僕に1歩近づいた。
「2回も貰った花束のお礼。って訳じゃないけど受け取ってね」
差し出されるブーケ。それが僕があげたどの花束より綺麗に見えたのは今は僕がもらう側だからだろうか。
「ありがとう」
お礼は言えたが顔は微笑む事しか出来なかった。ブーケを受け取ると僕の握る手を包み込むように夏姉の手が覆い被さる。
「こっちこそありがとう。家を出てからは全然会えなかったけど、それまではいっつも私のとこに来てくれたから一人っ子だったけど全然寂しくなかった。それに冬真は覚えてるか分からないけど中学とか高校の時、落ち込んでる私のとこに『大丈夫?』って来てくれくれて何回も元気貰ったんだよね」
確かあの頃は自分の家みたいに勝手に入って夏姉の部屋まで行ってたっけ。
でもある日いつもみたいにドアを開けたら夏姉、泣いてて。理由は分からなかったけど子どもながらに何か悲しい事があったんだろうなって思ったからまた笑てもらおうとしたんだよな。最初は何でもないって無理に笑ってたけど僕を後ろから抱き締めながら泣いてた。
結局、僕は何も出来なかったけど次の日また夏姉が笑ってたから嬉しかったのを覚えてる。
「今改めて思い返せば、川とか海とか花火とか――冬真との想い出の方が学校のみんなよりあるかも。あっ、みんなには内緒にしてね」
口元に人差し指を立てながらヒソヒソ話をするように小声で付け足した。
でもそれは僕も同じ。思い出すのはほとんどが夏姉との想い出。一緒に遊んで、笑って、ご飯食べて、お泊りも何度もした。庭にテントを張ってキャンプ気分で寝たりも。1年中、想い出が尽きない。僕にとって1年を彩っていたのは四季じゃなくて夏姉だった。
「いっつも私の後ろについて来てたけど私の方が沢山助けられたし元気貰ったし......。だから私の方こそずっとありがとうね」
そう言って笑みを浮かべたそれは何度も見てきてどの想い出にもいる世界で1番――大好きで、綺麗で、かけがえのない夏姉だった。
でもその笑顔であの日の光景を。その声であの日の言葉を。思い出してしまう。僕の恋した夏姉が笑顔で僕を見つめていた。
「これから先、色々ある思うけど冬真ならきっと良い人と出会えるから。だから......」
すると夏姉は更にも1歩近づき僕を両腕で包み込んだ。
その温もりであの日の感情を思い出す。
それらの所為であの頃の夏姉が目の前にいるように鮮明に。胸が苦しい程に締め付けられる。今更遅くてもうダメだと分かってるからこそ、その想いが強くなればなるほど呼応するように胸の痛みが苦しみが増していく。
「ちゃんと幸せになるんだよ」
だから夏姉の結婚を知ったあの時からずっと忘れようとしてきたのに。諦めようとしてきたのに。折角、仕方ないって無理矢理納得しかけてたのに。
昔みたいに笑顔で笑いかけられたら。昔みたいに抱き締められたら。
僕はもう目を逸らし切れない。無かった事になんて出来ないよ。
想えば想うほど苦しいはずなのに、辛いはずなのに――それでもやっぱり僕は......。
「大好きな冬真の幸せを私はいつでも願ってるから」
どうしようもなく夏姉に恋をしている。
その笑顔や些細な表情も笑い声や話し声も香りや温もりも。その優しさも。全部がどうにもできないほどに大好きだ。
それは僕の意志ではどうすることもできない絶対的な感情。環境や状況に左右されない素直で正直な感情。忘れるにはあまりにも強すぎて、目を逸らすにはあまりにも大き過ぎる。
「――夏姉......」
今更伝えるつもりはないけれど、最後に1度くらいならいいのかもしれない。気づかれないようにこっそりと――我が儘をしても。
僕は両手を上げると夏姉の背に回した。そして昔とは違う。初めて夏姉を抱き締めた。胸に溢れる想いを伝えるように強く抱きしめた。
「ずっと大好きだったよ。これからも」
それは同じ姿をした別の言葉。昔の僕のように服を引き陰に隠れたそれは全くの別物だったが夏姉は気づいてない。
でもそれでいいんだ。
通じ合っていないこんな抱き締め合いでも構わない。僕は今この瞬間を忘れない。いつか謝るその時が来るまで。
そして夏姉の純粋な想いにこんな気持ちで応えて――ごめん。これもいつか謝れたらいいな。
「うん。ありがとうね。これからもよろしく」
出来る事ならあともう少し。そう思っていたが夏姉がゆっくりと離れ始めると僕も腕の力を緩めた。最後に頬へ触れた手は温かくも儚くて。切なく離れていった。
* * * * *
結婚式も無事終わり両親と帰宅したけど、少し1人になりたくて僕はそのままあの岬に来ていた。貰ったブーケを片手に。
足を進め欄干まで向かう途中、ジャケットのボタンを外しネクタイを緩める。ひとつ大きな呼吸をして新鮮な空気を肺へ、和やかさを全身に送り込むと欄干に凭れた。
ここでは相変わらず太陽が煌めき、海は揺れている。
僕は相変わらず恋を――している。
太陽が昇って沈むように。海がずっとそこにあるように。結局は何も変わらない。
僕は夏姉を好きなままだ。どれだけもがこうとも抗うことの出来ない恋心は僕の中で叫び続ける。
まだ好きだから―――あの笑顔を思い出すと、名前を呼ぶ声を思い出すと、僕を力一杯抱き締めてくれたあの感覚を思い出すと...。
酷く胸が苦しい。苦しくて辛くて、好きで。大好きで。たまらない。
「好きだよ――夏姉」
今日だけでも幾度となく零れそうなった悲しみが――胸の苦しみが辛さが目から雫となって頬を流れる。止まらない泪は地面へ涙雨のように落ちていった。
多分、僕は分かってたんだと思う。夏姉と僕との関係が変わらないことを。分かってたんだけど夏姉が大学でここを離れてから自分の想いを伝えることが出来なくなった。それを良いことに1人自分の想いに浸ってた。その気になれば夏姉の連絡先なんていつでも教えてもらえるのに。僕はずっとこの想いのまま夏姉を見てたかったんだ。あの日、花束を渡した時のように。結末なんて見ずにずっと好きなまま、もしかしたらに縋って夢を見てたかった。
いくら啜ってもいくら流しても止まらない。まるで溢れた恋心が流れ出しているように次から次へと流れる。多分、顔はもうぐちゃぐちゃ。夏姉が隣に居なくて良かった。
するとそんな僕を慰めるようにそよ風が頬を撫でた。心の苦しみや辛さを少し攫ってくれるように――全身を包み込むようにそっと通り抜けていく。
昔から大好きだったけど気が付いたらその笑顔や声や温もりを悶える程に愛おしく感じてて。思い出に耽ってると思ったらただその姿を見たかっただけで。そんな想いが恋だと気づいて――僕の初恋が始まった。
だけどそれももう終わった。勝手に恋して、勝手に想い続けて、勝手に終わった。まだ好きでたまらないけど僕の恋は失恋という結果を迎えたんだ。それが望んだ結末じゃないとしても。
まだこの気持ちを忘れるには時間がかかるだろうけど僕はこの恋を忘れないはず。苦しくて辛いハッピーエンドとは程遠い――だけどその分胸がはち切れそうな程に大好きでたまらない想いがそこにあったことを僕は忘れない。
僕はまだ泪が溢れる双眸を右手のブーケへ向けた。大好きな夏姉から貰ったブーケ。
「これで僕の自分勝手な恋は終わった」
―――でも僕はまだ恋をしている。
花束を片手に恋をしてる 佐武ろく @satake_roku
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