第9話 ギラギラ系上司③
M市の商談は無事契約が完了し、春はプロジェクト準備で忙しくしていた。来週には顧客とのキックオフミーティングがあるので、それに向けての資料準備をしているのだ。
「僕たちの仕事って、仕事取る前も取ってからも資料作成ばっかりですよね?」春の状況を見ていた山崎が声をかけてきた。
「そうだよな。なんか今や実作業より資料作る時間の方が多いよな。特別な技術とかより、タイピングとかワード、エクセルの技術が求められる仕事とさえ思うよ。」
「それは一理ありますね。僕エクセルマクロとか得意なんで、これから活躍の道がありそうですね。それはそうと、なんか来週の本部会でM市の件、なんか報告するんですか?」
「報告?いや、何も聞いて無いけど。」
「あ、そうなんですか。なんか本部会のトピックス商談にあがってるっぽいですけどね。」
「あれ、何も聞いて無いけど、野原支店長あたりが発表するのかな?だとしたら、豊本さんが対応してんだろうな。」
群馬支社はGSS社の「東日本ビジネス統括本部」の配下にある支社である。3ヶ月に1回本部配下の支社長や幹部社員が集まり、「本部会」なるもの開催し、予算進捗の確認などを行うのだ。
本部会には役員を兼務する東日本統括本部長他、他の本部の幹部も参加するため、予算進捗が悪い支社は戦々恐々としながら報告を行い、好調な支社は意気揚々と発表を行い、今後の自分の昇進に向けたアピールとするのだ。
そのため、本部会が近づくと、各支社では発表資料の作成に膨大な時間をかけ、失点の挽回や得点効果の倍増を狙うのであった。
「というか「資料削減」「効率化」という割には、あの本部会の資料作成の儀式はなんだろうね。ああいうのが残ってるから、社内の効率化が進まないと思うんだよね。」
「そうですよね。まーでもきっと西島さんもそのうち偉くなって、同じように資料作成に人生をかけるようになりますよ。」
「そんときは得意のエクセルマクロで仕事手伝ってな!」
そのような事を話していると、やはり本部会でトピックス商談としてあげるなら、それなりの資料作成が必要であり、プロジェクトに携わった豊本もしくは春の力が必須になると改めて思った。
そんな時、ちょうど宇山課長から呼び出しを受けた。
「忙しいとき、ごめんな。本部会でM市の件を発表することになったんだけど、商談全体像とかの資料どっかあるかな?」
「あ、提案書を15回くらい書き直しているので、その歴史も含めて、クラウドのファイルサーバにあげてますよ。」
「ありがとう。ちなみに今回の提案の中でなんか危なかった事とかあった?」
「そうですね。つい最近というか業者決定の直前でJapan Systemが攻勢しかけてきて、お客様の上層部がJapan Systemの提案に流れてた瞬間がありましたね。」
「なるほど。それはどうしたの?」
「Japan Systemの提案も確かに凄くよかったんですけど、改めてうちの提案内容・製品のメリット/デメリットを説明しましたね。結構Japan Systemは自分たちの良いところをかなり押してきてたのと、逆にうちの提案の穴みたいなところを色々吹き込んでたらしいんですけど、うちは先行で提案していて顧客の要望を一番深く把握出来ていた自負もあるので、あえて「デメリット」もきちんと説明し、その対策まで説明したことで、より顧客の信頼を得ることが出来たと思います。あとは競合業者ではあるんですが、Japan Systemの提案の一部を褒めたりもしましたね。」
「ほぅ。それが顧客に受けたの?」
「そうですね。この辺の対応でGSSは「顧客を考えてる」としっかり伝わったので、顧客の信頼は確実につかめたと思います。また大きなプロジェクトであるからこそ、企業側の営業トークで良いことだけ言われて決めるのは危ないかも…という心理がM市側で働いたんだと思います。」
「確かにそういうのはあるかもな。俺もそう思うし、そうするべきだね。ありがとう。参考にさせてもらうよ。」
納得した顔をして、宇山は自席に戻った。
春も自席に戻り、システム設計書の準備に戻ったが、ふと(宇山課長はやっぱり本来の担当分野である技術的なことは何も聞いてこないな)と思ったのであった。
上司ガチャ ずもきち @masa53k
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