第8話 ギラギラ系上司②

「乾杯!!!」

 野原の発声で宴会がスタートした。

 今日は豊本と春で対応していたM市の商談獲得を祝う宴会だった。豊本と春で作成した提案書は非常に高い評価を得て、提案コンペにて無事採用されたのだった。

「豊本さん、西島さんおめでとうございます!」おじさんキラー担当女性社員伊達あゆみがビールを片手に近寄ってきた。

「おー、ありがとう!でも俺はだまされないからな!」おじさんキラーと言われつつ、実は毒舌である伊達の正体を知っている豊本が笑顔で軽口をたたく。

 春も「俺もだまされない!というか伊達さんが近くに来ると、自分がおじさんになったかと不安になるよ!」春も続ける。

「いや、それ本当の「おじさん」の前では言わないでくださいよ!色々得してるんんですから!」

 伊達は冗談に付き合う器量もあり、軽く受け流しつつ、話を返してくる。

「でも、本当おめでとうございます!かなり他社攻勢もきつかったですし、多分お二人じゃなかったら、獲得できなかったですよ。この件で私たちも他市町村に提案しやすいですし、本当群馬支社にとって大きな商談だと思います。」

 おじさんキラーと言われるのはこのあたりの言葉のチョイスだろうか。伊達は嬉しいことを言ってくれる。

「まー喜ぶのは管理職連中だけだけどな」

 豊本が嬉しい顔をしながら言った。実はシャイな豊本はこういう反応をするのだ。

「いやいや、本当凄いことですよ。西島さんはお酒を飲むだけの人じゃなかったんですね。」山崎も近寄ってきて、軽口をたたいてきた。

「さすが豊本と西島だな。メンバーの実力でいえば、他の支社により、断然うちの支社だよ~」上機嫌で酔っ払ってる支社長の野原も会話に参加してきた。


 このような雰囲気でみんな宴会を楽しみながらも豊本と西島を褒め称えていた。そして、色々ないじりがありながらも実際このコンビで無ければ獲得出来なかったであろうという事も理解していた。

 

 酔っ払っていても皆サラリーマンである。GSSでの宴会においては、特に若手層を中心に自発的に席を移動し、色々なメンバー(特に目上の人間)と会話をしていくのが習慣となっていた。

 春は若手というわけではないが、春自身人と会話をするのが好きであるため、ちょこちょこ移動しながら、色々なメンバーと会話をしていた。

 そうしていると、宴会の半ば頃、宇山と同じ席になった。

「宇山課長お疲れ様です。」ハイボールのグラスを片手に宇山に話かける。

「おー西島。今回はおめでとう!本当良かったな。」

 宇山は焼酎の水割りを飲みながら、賛辞を述べる。

「ありがとうございます。結果獲得出来たので良かったですが、結構長い時間もかけていたので、獲得出来なかったら、やばかったですね。」

「確かにそうかもな。ただ、他への波及も含めて、取り組む価値のあった商談だったよね?」

「そうですね。ありがとうございます。群馬において、M市を獲得するのは今後を考えると、とても大きな事ですし、ライバル会社である「Japan System」を退けたことも大きいと思ってます。」

「あ、競合は「Japan System」だったんだ。それは大きいね。良かったよ。おめでとう。群馬支社として…というより、東日本本部としてもトピックスになる商談かもしれないね。これは豊本・西島コンビのおかげだね。さすがだよ。」

「ありがとうございます。」

 褒められて悪い気はしない。お酒の力もあり上機嫌な春は「宇山課長は良い上司かもな…」と感想を持ったのだった。


 しかし春がそんな宇山の事を良い上司ではなく、「単純にギラギラ系上司だな」と思い直すのは翌週の事であった。

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