陰キャのグルメ

四志・零御・フォーファウンド

第1話 牛丼事変 前編

 

 僕の名前は陰之頭いんのがしら五浪ごろう。何処にでもいる陰キャの大学生だ。


 今日は大学のレポートを提出する為に外出をしてた。


 日曜日だって言うのに、どうして外へ出なければならないのか。一日中ゲームをしているつもりだったが、教授からの急な呼び出しには敵わない。しかし、課題さえ提出していれば単位を貰えるのだ。そんな全生徒から信仰対象になるようなに文句は言えまい。


 提出BOXへ書類を入れると、今日の仕事は終了した。


 廊下にあった壁掛け時計を見上げると、時刻は12時を指していた。朝食を抜いた為腹の虫が忙しなく騒いでいる。


――腹が減ったな。


 いつも通りカップ麺を頬張るのも良かったが、せっかく外に出たのだ。外食でもよかろう。


 僕の中に浮かんだ選択肢は2つ。


 大学近くにある家系ラーメン。あるいは、家の近くにある牛丼チェーン店。


――んーーー、迷うな。


 どちらも捨て難い。だが、2つに1つ。


 思考を巡らせて考え抜く。途中で陽キャと出会ってしまい、廊下の隅を歩き何とかやり過ごす。


 校舎を出て、ようやく決めた。ほぼ日ラーメンを食しているのだから、偶には牛丼でもいいじゃないか。


「いらっしゃいませー」


 店員の元気な挨拶に一瞬だけ身体を震わせて食券販売の機械へ足を進める。


 笑顔の女性店員を見て、高校生の頃にコンビニバイトしていたのを思い出した。


 それなりに業務はこなせていたのだが、店長から元気が無いと言われ、タイムカードを切った後に発声練習をさせられていたのは今でもトラウマになっている。


 まったく、嫌なことを思い出してしまった。意識を現実に戻してタッチパネルを操作していく。


 ジャンルは大きく分けて、牛丼、豚丼、定食、サイドメニューとなっていた。牛丼屋に来たのだから、シンプルに牛丼で良いだろう。だが、牛丼大盛のボタンに触れようとして手を止めた。


――なんだ、こんなメニューもあるのか。


 視界の隅に写り込んだのは、『カレー』という賞味そそられる文字だった。ボタンを押すと、サイズの選択へと切り替わった。


――なるほど。カレーは一本勝負しているわけか。面白い。


 大盛りのボタンを押して千円札を機械に入れた。「ありがとうございます。食券を店員へお渡しください」というアナウンスと共にお釣りと食券が吐き出された。


 さて、ここからが陰キャの見せどころ。席取りだ。


 昼時の為、空いている席は少ない。問題はその場所だ。


 1つはカウンター席の一番奥。狙い目ではあるものの、隣の席に座わるおじさんがやけにテーブルの面積を多く使っている。快適な食事を望むのであれば避けて通りたい。


 もう1つは大学生ぐらいの男と、スーツを着た若いサラリーマンらしき男の間だ。一見、何の問題もなさそうに見えるのだが、大学生ぐらいの男に問題がある。あの後ろ姿、同じ講義を受けている自分と同じ大学の人間ではないだろうか。仮に、彼がそうなのだとすればとても気まずい。何かの拍子に挨拶してきたらと考えると鳥肌が立つ。


 とまぁ、喋ったこともない人に牛丼屋で話かけるイベントなど有り得ない。そんな「ザ・陰キャ」の思考が爆発していると、大学生らしき男が席を立ちあがった。すれ違い様、彼の顔を確認すると思っていたと通り、同じ講義を受けている者だった。臆病な質も役に立つ。


――よし、今日はツいてるぞ~。


 優雅に席に座る。


「食券、お預かりしまーす」


 食券をテーブルに置くと、店員が回収して代わりに冷水を差し出された。


 速い、美味いをモットーにした牛丼チェーン店だ。しばらくスマホでも触っていれば料理が提供されるはず。


 時間を持て余した僕は、最近流行りのゲームアプリ「シカ娘」を起動した。



                        ――後編へ続く――


                           いんの、がしっらぁ~♪



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陰キャのグルメ 四志・零御・フォーファウンド @lalvandad123

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