第7話 不明

冴えない自分の部屋。

大好きなネットサーフィンでとにかくBDについて調べていた。

よくよく考えてみればすごく気持ちの悪いことだ。

自分の彼女の素性をネットで調べるなんて本人に知られたら破局ものだろう。


結局、僕の検索能力では特になにも出てこなかった。


疑問点は色々なるのになにも出てこない。


彼女は有名アーティストで今大事な時期なのに彼氏の存在を明るみにさせてよかったものだろうか。 


考えすぎか。


そもそも、記者に僕の存在がバレていた可能性も十分に考えられる。


だか、彼女の所属する事務所は基本的に恋愛を許可していないとなにかで読んだ記憶はある。


女性の嘘を受け入れるのが男だって誰かが言ってたから本人に詮索することはしなかった。


最近は彼女に会えていない。


僕は彼女の職業を理解しているし、忙しいこともわかっている。


逆に、今まで週1という頻度で会えていたことが奇跡である。


今思えば、時間帯がバラバラという点で疑問を持ってもよかった。

だが、僕は他人に興味が持てない性格なのだ。


好きの反対は嫌いではない。

無関心だと誰かが言っていた。


嫌いというのは相手を意識するから嫌いなのである。

もちろん、好きというのも同じく意識するからなのであって、逆に無関心は意識すらないのだから対義語といえるのだろうか。


つまり、僕は彼女の表面しか愛せていないのか。


他人に無関心というより、自分のことで精一杯という余裕のない人間なのだ。


自分さえ良ければそれでいい。


そんな、自己中心的な考えだから彼女のことがなにもわからないのだ。


ネガティブ思考に入ると止まらなくなる。


そんなときは散歩だ。


決まったコースを決まったペースで歩く。


途中のベンチで腰かけて妄想する。


犬の散歩コースでもあるから頻繁に見かける。

犬種は様々。


タワマンに住めるほど経済的に余裕のある人間たちが家族ほしさに飼うのだろう。


犬が欲しいと思ったことが1度もないことはないが、とにかく余裕がない。


余裕がないのは、貯金がないからだろう。


もっといえば、稼ぐ能力を持ち合わせていないからである。


反対に変なプライドは持っている。


とにかく、誰にも頼らないということだ。


若いときはとにかく甘えすぎた。


周りに生かされていることを理解せずに生きてきた。


その延長が僕である。


おそらく、高校生くらいで精神年齢は止まっている気がする。


結局どうでもいいことを考えているといつの間にか夜になる。


夕日が沈んで月がでる。


せっかくの日曜日。


何の成長もせずに明日を迎える。


1日1%でも成長すれば1年間で37倍だとか聞いたことがあるけれど、僕には縁のない話だ。


何を継続すればいいかわからない、空っぽの存在は生きる理由を探し続けている。


懲りずに自分探しだけは継続するだけましだと自分に言い聞かせて無理やり納得する。


妄想の後はすぐに家に帰らず、辺りを疲れるまでブラブラする。


気づかなかったお店、行き交う人々、人生でおそらく通ることのなかったであう道。


座ることのなかったベンチ。


眺めることのなかった景色を。


何もかもが新しい。


同じ散歩コースでも前と全く同じ景色だなんてことは絶対にないのだ。


だから、面白い。


そう思うと、人生も同じように思えてくる。


絶対に同じ1日なんてことはあり得ない。


1日1日を大切に生きよう。


そう考えると、スマホで優子に連絡していた。


もっと、知りたい。


一緒に過ごしたい。


明日は月曜日だから仕事があるとか関係ない。


「は~い、優子です。」


「僕だけど!いまから会える?」

 

「ごめん!いまから収録なの!終わったらメッセージいれるね!」


「了解!頑張って!」


そりゃ都合よく会えるわけがない。


わかっていた。


忙しい優子にはこの未来が見えていたからBDだってことも言い出せなかったのだと悟った。


BDの由来を考えることにした。

が、一瞬でわかった。

優子の名字は青戸だから

青=blue

戸=door

それぞれの頭文字だろう。


単純すぎておかしくなった。


薄暗いなか橋の上で独り笑っていた。


周りからはおかしなやつだって思われたに違いない。


そんなことはどうだっていい。


優子のことが前よりいっそう、いとおしくなっていた。

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本気で生きればよかった 成原良樹 @detectived4869

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