第6話 明かす

二十歳を越えたらあっという間と昔、誰かから聞いたが、本当にその通りだ。


優子とは基本的に週に1度会う程度だが、相変わらず仲良しだ。


それでもお互いに知らないことはたくさんある。


まず、優子の仕事は詳しく知らない。

何度か聞いたことはあるが、そのたびにうまくかわされるので無理に深入りするのをやめた。

優子は僕が手品が好きだなんて知らない。

優子に誘われてマジックバーへ行ったことはあるが普通に一般客を演じた。

それなりに楽しめたが、もう少し演出を変えた方が盛り上がるところもあったと感じた。


家族構成はお互いに知っている。

優子は二十歳のときにご両親を亡くしており、今は独りで暮らしている。

叔父や、叔母はいるそうだが疎遠になっているらしい。


親戚を亡くしたことのない僕とは真逆の人生である。


ある日、優子からBDのライブが近くであるから一緒に行こうと誘われた。


もちろん僕はOKした。


ライブのデートは初めてのことだったのでワクワクしていた。


ライブ当日、優子は仕事上のトラブルで遅れるかもしれないから先に行ってくれと連絡が来た。


独りでライブ会場に向かう僕。


ライブが始まった。

 

ギターが鳴り響く。


「♪過去のすべてをこの涙に洗い流して~♪」


キレイな歌声でBDがステージの奥からゆっくりと歩いてくる。


中央に止まって照明がフェードインする。


そこに立っているのは


優子だった。


僕は衝撃を受けた。


なにより、今まで気づかなかった自分に驚いた。


オープニング曲が終わって優子が皆に語りかける。


「皆~今日は来てくれてありがとう~」


辺りを見ると女性の比率が高い。


黄色い声援が会場に響く。


「今日はなんと、会場にあたしの大切な人が来てくれてます。しかも、彼は自分の彼女がBDだってさっき気づいてめちゃくちゃ驚いてると思いま~す。ドッキリ大成功~!実は、彼ね誕生日なんだけど、今月誕生日の人~?」


ちらほら手が上がる。


もちろん僕は手をあげることはなかった。


「それでは聞いてください。【誕生の日】」


ライブは盛大に盛り上がった。


最後の最後で有名な曲がかかる。


「♪ごめんね~僕でなんの期待にもそえずにぃ~♪」


ライブは終わりに向かっていた。


どんな感じで今後、優子に会えばいいかわからなかった。

まさか、自分の恋人が世間から話題を集めているアーティストだとは夢にも思わなかったからだ。


会場を後にするとスマホに彼女から通知が来ていた。


「このあと会える?」

 

僕はOKの旨を返信した。


彼女の家に行った。

 

「お邪魔しま~す。」


戸を開けると優子が僕に抱きついてきた。


「騙し討ちみたいなことしてごめんね。ただ、自分がBDだってことを言い出せなくて、あんな形で打ち明けてしまったの。」


僕はただ、彼女を抱きしめることしかできなかった。

彼女の気持ちがさっぱり分からなかったからだ。

有名人には有名人の悩みがあるのだろう。


「正直、人生で1番びっくりしたよ。君が何者だろうと君は君だろ?」


「ありがとう、竜。」


僕は何か引っ掛かっていた。


僕がBD=優子ということに気づかなかったのは鈍感過ぎたというか、まさか自分の恋人が有名アーティストだとは夢にも思わなかったことで片付けられるとして、なぜ、優子が泣きながら抱きついてきたのかわからない。


彼女自信に聞こうとしたが、止めた。


スマホで調べたら簡単に分かる時代だから、後日自分で調べることにした。


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