時とともに眠る「晦」
残された男など残滓のようなものだ。女やもめには花が咲くのに男やもめには蛆がわくのだから。一人で籠るより旅でも、と思って出かけてはみたけれど、どこへ行ってもむなしいだけだった。帰ってきてみれば、ここが一番落ち着く。
北海道の真ん中あたりにある歌志内。息をひそめるようにあるこの町には、建て替えられた郵便局だけが、廃校にポツンと置かれた新品のハモニカみたいに横たわっている。
定年で仕事を辞めてから集めたがらくたが溢れかえり、私はその隙間に間借りするように暮らしている。骨董なんて価値のあるものじゃない。大部分はあちこちからもらってきた時計だ。ねじを巻いてやれば動くものもあるだろうけれど、私の方にねじをまく気力がもうない。
たくさんの止まった時計たちとともに、町のすべてが寧静なる時に身を委ねている。
柱時計に寄り掛かり、私は目を閉じる。
このままここでひっそりと、朽ちてゆくのも良かろう。
《了》
朔望 涼雨 零音 @rain_suzusame
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