暁の空と「有明」の月

前略


 あなたが旅立ってから初めて、ここへやってきました。あなたに連れられて何度ここへ来たでしょうね。ここへ来るとあなたは子どものようでした。目に見えてはしゃいで、興奮して、いい年をしてと呆れもしましたが、そんなあなたを見るのは好きでした。

 私一人では、ここには何の用もありません。いつも私は、風と睦び合うあなたの翼を見上げているだけでした。

 滝川がグライダーの町だと教えてくれたのもあなたでしたね。私の残りの人生は、飛ぶあなたを見上げて過ごすものと思っていました。それなのに、あなたはあっけなく逝ってしまいました。若いころの不摂生が祟ったのでしょうか。働きすぎだったのかもしれませんね。

 北海道のこのあたりを空知と呼ぶそうですね。空を知ると書いて空知。あなたは空へ行かれたのですか。

 今日も誰かの翼が風と遊んでいますよ。あなたも見ていますか。

 もうしばらく、待っていてくださいね。


かしこ

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