Aの手記
私が葉山を殺した。なぜやったのか、そんな事は決まっている。あいつが邪魔だったから―そう感じ始めたのはいつからだろうか。それは忘れた。邪魔な理由は、学校で私より目立っているから。そして、一番の理由はあいつが対物愛者だと告白したから。気持ち悪かったからではない。私もその類の人間だからである。―私は対物愛者というのはあまり認められていないと知っていた。だから、あいつが立花に対物愛者だといったとき、焦った。もしあいつが私も対物愛者だと言われたらいよいよ学校に行けなくなる。
あいつは友達はなんでも受け入れてくれると思っていたが、そんなわけない。相手も人間だ。全てを許す神ではない。
だからイジメた。イジメたらあいつが学校にいかなくなるから。そしてついでにあいつへのメッセージを残したかった。
あいつは、誰も分からないと思っていたところにノートを隠していたが、すぐにわかった。私はそれを個室に持って行き、ボールペンでメッセージと落書きをしておいた。メッセージとして、「お前はニセモノだ」というのをいくつか書いた。これだけで気分が晴れた。
それでもあいつは学校に行った。ただ、明らかに元気はなくなっていった。クラスの連中が離れていったのもあるだろう。日に日にあいつの元気がなくなっていく様子を見るのが何よりも楽しかった。
ある日あいつは学校に行かず、山に行った。そこは私の知る限り、このあたりで一番自然に溢れているところである。熊が出る、猪が出る、雨の日にはよく土砂崩れが起き、よく暴れるが川一本、そんなところだ。あいつは死のうとしているのだ。そしてあいつが、近くの石に自分の手記を置くのを最後に見た。
こうなれば私のやることも失くなってしまった。だから、私もこの手記を持ってこの川に入って死のうと思う。
この事件は自殺だ。誰も他殺だなんて言いやしない。クラスの奴もあいつのことを狂人だと思って一生を過ごすだろう。だから私の野望も果たされることになる。
もしこの手記が警察の懸命な捜査によって見つかることがあっても、自殺だと決めてしまうだろう。そうだ、自殺だ。何度も言うが自殺なんだ。誰もこの苦しみはわからない。
―世間様、もしこれを読んでいるならまた来世。
秘密に生きる 月下美花 @marutsuki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます