立川透という人間
久し振りに葉山さんの名前を聞いた。行方がわかった。あの世だった。自殺。死因は溺死らしい。学校に行くときに使うカバンを背負ったまま入水したらしい。
彼女の死についてはあまり驚かなかった。
彼女は死ぬ時、周りの人のことを考えなかったのだろうか。友人やご両親が哀しむこと―担任の私を含め多くの人が動くことを考えなかったのだろうか。浮かんでさえ来なかっただろう。きっと彼女は私を人間ではなく担任として見ていたのだから。
自殺は善くない。
私は悲しんだ。私は人して見られたかった。自分が“その役割を持っている人”として見られるのがどうしても悲しかった。私は生徒からの評判も悪いらしく、たまに生徒が私の悪口を言っているのが聞こえるときがある。それが私の悲しみを助長させた。そんな時は嫌いな芸能人のSNSにそいつの悪口を書く。そいつの悪口を書くことでこいつは大したことないやつなんだ、俺より下なんだと自分を守ることができたから。
私は一度、彼女の手記を見たことがある。その時初めてイジメがあったのを知った。もちろんすぐに、生徒たちに問い詰めた。だが、彼らは何も知らないというではないか!私は初めて生徒に怒った。私が怒っていると、学級委員長が、
私達のほとんどが葉山さんをいじめるどころか、喋ったこともありません。しかも、彼女の机はいつもきれいで休み時間中もずっとカバンを背負っていたから、ノートに落書きするのは無理です。
と言ってきた。後のイジメアンケートでもそのような結果はでなかった。どうやら本当に知らないらしい。
私は葉山さんを疑うしかなかったのだが、当の本人はもういないのでどうしようもなかった。
彼女は周りを見てたのだろうか。そして、私のことは見えていたのだろうか。自分のことしか考えていない様に感じた。
私はまた悲しくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます