立花理香の汚れ
葉山さんが失踪した。
昨日ホームルームの時、先生からそうとだけ伝えられた。教室はその話題で持ちきりで様々な憶測が飛んでいた。
「あいつ、ノートに酷いこと書かれてたらしいぜ。」
「なにそれイジメじゃん。絶対それが理由でしょ。」
うるさかった。
そんな時、私の友達の渡部が話しかけてきた。
「葉山さんいなくなったね。」
「そうだね。」
「なんとも思わない人だけど、学校で飛び降りしないところだけは、ちゃんと考えてるんだって感心しちゃた。あっそろそろ授業じゃん。席戻るわ。」
彼女はずっと笑っていた。
意外だった、彼女は学級委員長もしていて、人助けとする人だったから。
思えば、人助けの時よりその話をしている時のほうが笑顔だった気がする。前々からそんなところはわかってたいたかもしれない。しかし、それを強く思うことはなかった。
悪い人とは思わなかった。
私は彼女も汚く見えた。
今日過ごしていても誰も葉山さんの話をしなかった。
私だけが葉山さんのことを考えている。昨日からずっと考えている。
私と葉山さんとの関係はただのクラスメイトだった。
葉山さんが私と私の友達とに好意を持っていたのはなんとなくわかっていた。
友達にはならなかった。彼女が対物愛者だからではなく、彼女が嘘をついている様に感じたから。彼女と話している時、彼女は興味がある様に聞くが彼女の目を見ると教室の隅を真っ黒な目でぼんやりと見ているのみだった。だから友達にならなかった。彼女が対物愛者と私に告白した時もなんとも思わなかった。ただ、悪い人ではないのに汚く見えた。彼女本人が見えた気がした。
とはいえ、残念だ。失踪したことを渡部は褒めていたが、私は飛んでほしかった。
私は墓が好きだ。墓石も好きなのだが、静かな石の下に人だったものがあると考えると興奮が抑えきれなかった。だから飛んでほしかった。
おそらく私も汚いのだろう。それでも私は私の美しさの為に葉山さんに死んでほしい。いまどこかで野垂れ死んでいるかもしれないがそれより、私の目の前の方が美しい。
だから飛んでほしかった。コンクリートか砂の上に横たわっている真っ白な葉山さんを見て初めて私は、葉山さんを美しいと思えただろうから。
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