ラッチと呪いの鍵

綾音 リンナ

ラッチと呪いの鍵

「おばあさーん!!ごめんくださーい!」

「あら。いらっしゃい、遠い所からよく来たね~。」

私、ラッチ!

今日はリリカちゃんと馬君と私で親戚のおばあさんの家に遊びに来たの!おじいさんが他界していて、今はおばあさんだけでゆっくりと暮らしているみたい。

「ラッチちゃん、おっきくなったねぇー。今日は友達をつれてきたんだね。さ、お入り。」

「「「失礼しまぁーす!」」」


「はい、夏は暑いからお漬物さんでもお食べ。」

おばあさんは木製の器に胡瓜きゅうりとカブのお漬物を盛り付けて、床に寝転んでる私たちに持ってきた。

「わあ!おばあさんのお漬物だあ!私、昔から好きなんだよ!」

私がテーブルに起き上がるとリリカちゃんと馬君も「大好きです。」と起き上がった。

「そうかい。そりゃ、嬉しいねぇ。それじゃ沢山食べてもらわないとね。」

おばさんはにっこり言うと、三人分の皿に盛りつけた。

私達はいただきますと言ってお漬物を口に運んだ。

「美味しい!」

「でしょう?夏にはピッタリだよ。ぬか漬けにしてるから味がよくしみってるんよ。」

だからこんなに美味しんだ・・・・。

酸っぱくってぬかの味がしていてとても美味しい。

やっぱり、おばあさんが作る料理は大好き。

どこか懐かしい味がしていて、胸が温かくなるの。


「「「ごちそうさまでした!」」」

私達が元気いっぱいに手を合わせると、おばあさんが「そうだ!」と手を叩いた。

「家の裏にある物置を掃除してくれるかい?掃除と後は片付けかな。紙を渡すから、手伝ってほしいんだ。」

「うん!喜んでだよ!」私が胸を叩くと、おばあさんが鍵と紙を渡しながら言った。「あたしの物置にはおかしな物がいっぱいさ。好奇心で触っちゃダメだよ。」

「うん!分かった。」


今思えばちゃんと話を聞いておけば良かった。


私達が物置の鍵を開けると、中は綺麗だったけど、物が多かった部屋だった。少しホコリが立っていたぐらいだから、掃除は短時間で終わると思った。

初めて入ったからドキドキする。

なんか秘密な感じが良さそう。

「ラッチ、掃除道具は?」馬君が聞く。

「三本のほうきとちりとりだよ。」

「広そうだけどすぐに終わりそう!早く終わらせたいなあ!」リリカちゃんが言った。

「そうだね。早く終わったら、ちょっとだけ見ていこうよ。」私はホウキを手に取って答える。


「よっしゃー!終わったー!」

リリカちゃんが叫んだ。私と馬君も終わらせられた。

「それじゃあなんか見ていこっか。」


「いろんな絵画があるね。」

「アメリカの人形がある!フランス人形も あ!ロシアの人形も!」

「まりとか、百人一首もあるね。」

私達は広い物置の中を回っていた。

私があるところを歩いていると「ちゃりっ」と音が聞こえた。なんだろう。そう思って踏んだ物を手に取ってみると。


かぎだ・・・・。」


黒色で金属の素材みたいで、鍵穴が無くて、びていて、古びた鍵だった。

「二人ともっ。ちょっといい?この鍵って落としていない?」リリカちゃんと馬君がなーにと振り返る。

「この鍵なんだけど・・・・。落としてない?」

「え?なにこれ。馬君、知ってる?」

「いいや。これは僕のものじゃないな・・・・。」

二人のものでは無いみたい。

「じゃあおばあさんのかな。古い鍵みたいなの。」

すると馬君がその言葉に弾かれたように「ねえラッチ、その鍵見せてもらわない?」と、頼み込んだ。

馬君に見せると馬君は鍵を動かせながら、まじまじと見る。

どうやら鑑定かんていしているみたい。


一分経つと、馬君が喋りだした。

「これは…、大正時代の鍵みたいだね。」

「えっ?確か大正時代の鍵って鍵穴があったよ!」

「僕もそう思ったんだけどどうやらこの鉄の素材からして大正時代の鍵らしいんだ。」

結構、歴史がある鍵なんだ・・・。


(あれ?おばあさんは昭和時代に生まれたんじゃなかったっけ?)


「・・・何かスゴイもの発見しちゃったね。」

「うん・・・・。」

リリカちゃんは鍵をじっと見つめる。すると目を丸くした。「?どうしたの?」


「ブ、ブラックキー・・・・!」


「え・・・?」

リリカちゃんの声がボソッとしていてよく聞こえなかった。   

だけど、私にはリリカちゃんが『ただならぬもの』を感じてるように見えた。


「「「ありがとうございました!さようなら!」」」

「はいはい、またおいで。」

午後6時。私たちはおばさんに手を振って駅までの帰り道を歩いていた。くしゃみが出そうだったから、ポケットからティッシュを取ろうとして、手を突っ込んだら、何か硬い物に手が当たった。

(ん・・・?何これ・・・。)


「ああっ!鍵を結局持ってきちゃった!!」


どうしよう。

今、返しに行こうかな。

でも、暗いし、もう遠くなっちゃったし・・・・。

仕方無い。

預かるしかないかも。

そうだよね。

後日、郵便局に届ければ良いの。

大丈夫!

おばあさんなら許してくれる!


この時の私はまだ知らなかった。


まさか、あんなことになるなんて・・・・。


「ただいまってあれ・・・?誰もいない。」

トイレ中かな?

お風呂中かな?

どうしたんだろう。

メイドさんや執事さんは、この時間は帰る時間だし。警備員もだよね。

「あっ!今日は出張だったんだ!だからか・・・・。」


(さみしい・・・・・。)

私はベッドに潜り込み、眠れなかった。

静かすぎて悲しいっていうか…、怖いっていうか・・・・。なんだか気味が悪くなる。


「ジカ・・・ジカ・・・ジカ・・・。」


(・・・・・ん?何の音・・・・?)


ベッドから起き上がってみると、さっきから知らない音が聞こえてくる。声みたいな音が聞こえてる。


(ジカ・・・ジカ・・・ジカ・・・?そう言ってるの?)

どういう意味なの?

ジカって何・・・?


(嘘・・・!音が近くなってる・・・!誰かいるの・・・?)


私は目を見開いた。

女の人が頭から血を流していた。

そして、不気味に「ジカ・・・ジカ・・・ジカ・・・。」と笑っている。


(近づかないで・・・来ないで・・・!)


笑っている。

笑っている。

わらっている。

ワラッテイル。


あれアレ・・・?


ワタシモ ワラって イル ?


私の口が勝手に動いている。

そして・・・・。


「ジカ・・・ジカ・・・ジカ・・・。」


涙を流しながら


私は笑っている。


ごめんね

ごめんね

ごめんね


嫌い

嫌い

嫌い


あんたのこと


嫌い


愛とか


いらない


いらない


いらない


消えろよ


消えろよ


消えろよ


(何?この思い・・・。)

重い気持ち・・・悲しそうに・・・・。


あの女の人に何か・・・あったの?

怨念なの きっと?


この思いは


あの女の人のものなの?


プルルルルルルルルルルル


「わああああ!びっくりした!」

あれ

電話?

携帯から電話が鳴っていた。

「もしもし。あっリリカちゃん!?」

『ラッチ!あー無事だった!?』

無事・・・?

「ぜ、全然無事じゃない!」

『やっぱり!ラッチ!今すぐに私の家の隣の寺にきて!!』

「う、うん!」

なんだか良くない事が起こりそうな気がする。

今でも。


「リリカちゃん!!」

「ラッチ!良かった!」

リリカちゃんの隣に馬君もいた。

「君がラッチさんかな?」後ろから声が聞こえてきて振り返ってみると、険しい顔をした住職さんが立っていた。一礼をして、さっきの事を話してみると。

「なるほど、お祓いは出来そうです。説明は後にしますので、わたしについてきてください。」

私の後に二人もついてくる。

関係者だからかな・・・・。


「では皆さん札をお持ちください。では始めます。」

そう住職さんがいうとお祓い棒を振って、念仏を始めた。何を言っているのかよく分からなかったけど、女の人を祓っている事だけは分かる。


「ふう。終わりましたよ。札を集めますね。」

(あ・・・・。終わった・・・・。)

「ラッチの身が安全で良かった。」

馬君が安堵あんどの息をつく。

「あっ!そういえば二人は何であのとき私が危ないって分かったの?それにあの女の人は誰?」二人は顔を合わせた。

「そのお話は住職さんから話してもらったほうが良いよ。」そう言われた住職さんは前に向き直って、「はい。」と返事をする。


「ラッチさんが見た女の人の事をブラックキーといいます。」

「え!キー!?鍵!?」

「さよう。彼女はラッチさんが持ち帰った鍵に封じ込められていたのです。そしてその鍵は何者かによって呪われてしまいました。鍵を長く触った者だけが彼女に襲われてしまうのです。」

「じゃあ私は・・・・。」

「ええ、あなたは無事でしたよ。あなたには今、身につけている黄色のリボンがあるのでね。彼女も黄色のリボンを好んでいましたから、助かったのです。」

じゃあ、あの人の気持ちは・・・?

「あの、私。視界が真っ暗になったとき、彼女の思いが伝わったんです。」

「そうですか・・・・。悲しい思いをして怨霊になりましたからね。同じく自分とリボン好きだったからあなたに相談できたと思いますよ。」

もしかしてジカの意味って「悲しい」っていう意味・・・?

「ここからは私が話すよ。私とね、おばあさんが知っていることなんだけどね。」とリリカちゃんが口を挟んだ。

「ブラックキーと呼ばれる彼女だけど、本名は梅子さんっていうの。梅子さんは裕福な家に生まれて、人形のように肌が白くて、茶色の髪で小顔でとりわけ、綺麗な女の子だったの。だけどね、それ以外はダメダメで・・・。梅子さんの家族はそんな娘はいらないって力ずくで追い出したの。そして梅子さんは捨てられた。通りかかる人から惨めだって笑われて…、まだ十四歳だった梅子さんの人生は崩れた。それから家族に向けての恨みを背負い始めたの。そして、家族以外にも・・・。今日も一人で道端にいるとき、ある黄色の物を見つけたの。汚れていたけど、それは黄色のリボンだった。フリルがついていて、髪飾りだったの。梅子さんはそのリボンを気にいった。

死ぬまで付けていたの。

そして、次には 鍵 を見つけた。

梅子さんは鍵を手に入れて 良くない事 を考えた。

う、梅子さんは家に侵入して・・・・・

家族を・・・殺した・・・。

普段使っていた悲しいっていう言葉をジカに変えて・・・『ジカ・・・ジカ・・・』って笑いながら、人を殺し続けた。」

「そ、そんな・・・。」

「梅子さんは悲しくて、苦しかったと思う。だから、不気味に笑いながら、ジカって表したと思うよ。そして梅子さんは怨霊になって鍵に封じ込められた。」

リリカちゃんの話は悲しくて、気の毒な話だった。

あんたっていうのはこの世の人の事だったんだろう。

梅子さんが・・・可哀想・・・。

「梅子さんは寂しかったんだね。私なら少しぐらいはお金をあげたいぐらいなのに。」

「ラッチったら、そんな法律はないよ。大正時代では働くか、飢え死になるか・・・だけの選択肢だから。」

リリカちゃんの目は悲しそう。

っていうか!

「なんでリリカちゃんが知ってるの!?おばあさんもなんでっ・・・。」

私は思わず立ち上がった。

リリカちゃんと馬君と住職さんが驚いた表情を見せたけど、リリカちゃんがすんなりと答えてくれた。

「私とおばあさんが小さい頃から知っているだけだよ。おばあさんから伝言で『ごめんなさいね』だって。明日、おばあさんが取りに行くって。」

「分かった、ありがとう。リリカちゃん、馬君、住職さん。」


それから梅子さんは出てくることはなかった。

別に異変も起きてないし、笑い声も聞こえなくなった。

変わった事?といえば、成仏したこと。

天国で幸せだったらな・・・。


また会いたいな  梅子さん



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ラッチと呪いの鍵 綾音 リンナ @akanekorin

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