第5話 こんな世界

体を竜に変化させてその女の子はカノンに襲い掛かる。そして、カノンは竜人がここにいるのを見て、何となく悟った。この子は、脱走してきたんだな、と。

そもそも今の時代、竜人というのは普通に生活していれば見かけない。何故なら、人でもなく、竜でもない、竜人の種族は、今の時代は奴隷として私達人間の労働源と化している。昔は人と竜との親密さの象徴と言っても間違いではなかったが、人と竜が対立している今の時代では、邪魔扱いされるのは誰でも分かる話だ。

 「痛っ…ぐっ…」

そしてその竜はカノンの腕に噛み付いた。激痛が走る。血がポタポタと地面に落ちるのが見える。そして離れたと思ったら今度は翼でカノンを打とうとしたが、ロガが咄嗟に阻む。

 「どうして…皆んな…私達を嫌うの?私達は、何もしてないのに…ただ…皆と同じように生きてたい…それだけなのに、それもダメなの?」

「違うよ!そんな事ないよ!」

 と、カノンは説得しようとしたが、

「じゃあ、なんで!何で私達はこんな扱いをされるの!こんな世界、もう要らない!皆消えちゃえば良い!」

カノンには返す言葉は見つからなかった。たしかに、カノンには竜と人とが共存出来る世界を作り、竜人たちも皆仲良く暮らせるようにしたいという目標もある。木竜皇であるノアールの説得にも成功した。

 でも、それで何か世界の認識は変わったか?

 …カノンは考えた。直ぐに答えはいいえと出た。

「じゃあ、貴方は…。こんな事して変わると思ってるの?」

「…それはっ…。」

「貴方は、どんなことがしてみたいの?」

「普通の暮らしをしたい、起きて、ご飯食べて、お風呂入って、寝る…。そんな生活がしたい。」

「じゃあ、こんな事、辞めようよ…。」

「っ…うるさい!」

女の子は鋭く尖った爪をカノンの目前に突きつける。

 「もう、どうでも良くなったよ…。こんなクソったれな世界、嫌になったんだよ、、もう、こうする事しか、できない…。」

「カノン!」

ロガは止めようとするが、カノンは

「待って。」

と、ロガを止めた。

「やってみてよ。…私は、抵抗しないよ?」

「え?…死んじゃうよ?」

「…分かってるよ、でも、貴方は人殺しなんかする様な酷い人じゃないってのは、分かるよ。」

「なんで、なんで、、、。」

女の子の手は震えて止まったままだ。

「なんで、そんなに私なんかに優しく出来るの…?」

「決まってるでしょ。」

 カノンは女の子を抱きしめた。

「貴方が、大事だからだよ。」

「あ…あぁ…。」

女の子の体が徐々に人間の様になる。そしてそのまま泣き崩れた。

 「よしよし、辛かったね…。」

カノンはそのまま女の子を撫でて、続けて聞いた。

「貴方の名前は?」

「名前…。720番って、あそこでは呼ばれてた。」

「うーん、、それ名前じゃないからね…。よし、私が名前つけてあげるね!えーと…リア、なんてどう?」

「リア、リア…良い名前…。ありがとう…。お姉ちゃんの名前は?」

「私はね、カノンって言うの。それじゃあよろしくね、リアちゃん。」

「うん!カノンお姉ちゃん!」

カノンと、リアは二人で笑い合った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

竜と人との二重奏 フェノン♬ @insanity

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ