第19話

「ただいまーっと」



 はぁ、ようやく帰って来れた。

 夢葉を家まで送り届けてたら、20時を回ってしまった。

 ま、女の子の安全を守るのも男の役目だからな。これくらい、問題ないさ。


 荷物を玄関に置いて靴を脱ぐ。

 と、リビングの扉が開いた音が聞こえてきた。



「……正吾?」

「ん? おー、鈴乃。……何してんの?」



 開いた扉から、顔を半分だけ覗かせてるけど。

 なんか、いたずらして怒られるのを怖がってる子供みたいだ。



「……怒ってない……?」

「え、なんのことだ?」

「今日、正吾と夢葉の邪魔をしちゃって……」



 邪魔?

 ……あ、あー、そういうことか。

 つまり、今日俺と夢葉が遊ぶのを邪魔しちゃったから、俺が怒ってると思ってるのか。

 別に怒ってないし、夢葉も気にしてないみたいだったからなぁ。



「怒ってないよ」

「……本当に?」

「ああ、本当だ」



 俺の言葉に安心したのか、鈴乃はホッと息を吐いてとことこと近付いて来た。



「正吾、荷物持つよ」

「そうか? ありがとな。それとこれ、お土産」

「そ、そんなっ。私も行ったから、別にいいのに……」

「気にすんな。俺が買いたいと思って来たから買って来たんだから」



 でかめの紙袋から顔を覗かせているのは、雌のライオンのぬいぐるみだ。

 鈴乃は猫科の動物の中でも、特にこれが好きだからな。

 夢葉にこれを見られた時は、「意外と少女趣味だね」とからかわれたけど。


 それを見た鈴乃は目を輝かせて、紙袋からぬいぐるみを取り出す。



「か、かわっ……! む~~~~っ……!」



 ぬいぐるみに顔を埋めてぴょんぴょんと跳ねる。

 どう見ても幼稚園児のリアクションである。可愛い。

 あとぬいぐるみ、そこ代われ。



「ありがと、正吾! これ大切にするね!」

「ああ、大切にしてやってくれ」



 その方が、俺も買って来た甲斐があったってもんだ。


 鈴乃はぬいぐるみと俺の荷物を持ってリビングに行き、俺もその後を追う。

 ぬいぐるみを抱き締めてソファに寝転ぶ鈴乃。余程気に入ったのか、足をぱたぱたと動かしていた。



「あ、そうだ。飯ってどうした? 残ってるか?」

「んーん、全部食べたよ。とてもおいしかったです」

「それはよかったです」



 結構な量があったと思うんだけど、帰ってから食べきったのか。

 食べ盛りだなぁ。これからはもう少し量を増やしてみてもいいかもしれない。


 手洗いうがいを終え、俺もリビングの椅子に座って一息ついた。

 なんだかんだ言っても一日中外を歩いてたからな。慣れないことをして疲れた。

 俺もどちらかというとインドアだし。主に鈴乃のお世話で。



「ねえ正吾。今日楽しかった?」

「ん? ああ、楽しかったぞ。久々に外で遊んだからな」

「……ふーん、楽しかったんだ」



 ……? なんだ? 何を聞きたいんだ?


 ソファで寝転ぶ鈴乃を見る。

 何かを考えているのか、気難しい顔をしていた。



「どうしたんだ?」

「……ねえ正吾。私って、正吾のお荷物なのかな」

「……え?」



 な、何を言ってるんだ……? お荷物、って……え?



「正吾だって年頃の男の子だし、友達と遊びたいでしょ? それなのに、私のわがままで正吾の行動を制限してるなって……」

「ま、待て。それは違うぞ。俺はやりたくてやってるだけだ」

「でも、今日楽しかったでしょ? 友崎君とかとも遊びたいでしょ?」

「そ、それは……」



 確かにあいつとは遊んだことはない。

 どっかのタイミングで遊びたいとは思ってるけど、それでも俺の優先順位は鈴乃が一番だ。



「鈴乃のことをお荷物とか、今まで一度も思ったことない。何せ鈴乃は俺の大切な……っ」



 ——人だから——。


 この言葉が出ない。

 大切な人なのは間違いない。

 でも鈴乃には想い人がいる。それなのに俺が告白したら、この関係が壊れてしまうかもしれない。


 それが怖くて……言えない。



「……大切な?」

「た、大切な……大切な、幼馴染だから」

「…………」



 あれ、鈴乃? なんか怒ってない?

 俺の言葉に納得いってないのか、むっすーとした顔をしていた。



「ふーん。幼馴染ね~」

「だ、ダメ、か?」

「……んーん。それでいいよ。……今はね」



 ……今は? それってどういう……?


 聞こうとしたけど、鈴乃はすでにぬいぐるみに顔を埋めてこっちを見ていなかった。



【あとがき】

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 ☆☆☆→★★★


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学園の王子様ヒロインは、誰にも見せない裏の顔があることを俺だけが知っている。 赤金武蔵 @Akagane_Musashi

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