第18話
◆
「はふ……! 楽しかったぁ……!」
「はは。そうだな」
結局、夕方になるまで触れ合いエリアにいてしまった。
恐るべし、小動物の魅力。いいモフモフでした。
時間も時間でズーランドを後にした俺達は、ホームに並んで電車を待つ。
夕日が射し込む中、ホームには家族連れやカップルが多くいる。
非日常から日常へ。
こういった時間が、割と好きだったりする。
夢葉は興奮し過ぎて疲れたのか、ちょっと口数が少ない。
気持ちはわかる。俺も今日は疲れたからな。……主に鈴乃が来たせいで。
全く。夢葉に『実は甘えん坊なお姫様』って知られたらどうするつもりだったんだか。
帰ったら説教だな。
そんなことをぼーっと考えていると。
「ねえ、しょーご。しょーごってさ、鈴ちゃんのことどう思ってる?」
「っ……」
不意に、夢葉がそんなことを聞いて来た。
丁度鈴乃のことを考えていたから、思わず反応できなかったけど、気持ちを切り替えて夢葉を見る。
「どう思ってるの意味がわからないけど……まあ、客観的に見て美人だとは思う」
「じゃあしょーごは、鈴ちゃんみたいな美人さんと、私みたいなちんちくりん、どっちが好み?」
……? なんだ、それ。どういう意図の質問だ?
意味がわからず夢葉を見る。
俺の方は向いておらず、足元を見てモジモジしていた。
「……人の趣味はわからないが、二人とも魅力的な女の子だと思う。二人ともいいところがあって、二人とも可愛い」
「人の趣味じゃない。しょーごの趣味」
う……言いにくいことをズバズバ聞いて来るな。
夢葉の質問の意図は謎だけど……こういう時、どう答えるのが正解なんだろう。
俺は鈴乃が好きだ。
幼馴染だし、あいつのいいところもダメなところも、全部わかってるつもりだ。
でも夢葉も好きだ。鈴乃とは違う意味にはなるが、大切な人の一人には違いない。
この一年、夢葉と行動するようになって、夢葉のいいところもダメなところも、少しずつだけどわかって来た。
どっちがよくて、どっちがダメ。
そんなの選べる訳がない。
どう言葉にするか濁していると、不意に夢葉が思い切り伸びをした。
「んーーーー……っ! ぷは! ごめん、しょーご! 変なこと聞いた!」
「え?」
「しょーごは優しいからさ。しょーごにこんなこと聞いたら悩んじゃうってわかってたのに……私、ダメだなぁ」
にへへ、と苦笑いを浮かべる夢葉。
夢葉の質問の意図はわからないし、それを撤回した真意もわからない。
でも、夢葉にこんな顔をさせるなんて……ダメだな、俺は。
「んまっ、私は鈴ちゃんになら負けてもいいと思ってるけどね。……それでも負けたくないとも思ってるけど」
「月宮と勝負してるのか?」
「勝負というか、レースみたいな?」
「なんだそりゃ」
「しょーごは知らなくていいの」
よくわからんが……あまり考えてもよくわからないし、いいか。
そのまま、なんとも言えない空気で電車を待っていると、ホームに電車が入って来た。
ゆっくり減速し、俺らの前で扉が止まる。
人が下りるのを待って乗り込むと、ちょうど二つ分の席が空いていた。
「夢葉、こっち」
「にゃっ……!?」
夢葉の手を引っ張って席につく。
ふう、助かった。疲れてる中ここで席に座れなかったら、ちょっときつかったし。
「夢葉、着いたら起こしてあげるから、今は寝てていいぞ」
「…………」
「……夢葉?」
「……ひゃいっ!? え。な、なに……?」
「いや、疲れてるなら寝てていいぞって。……ぼーっとしてるみたいだけど、大丈夫か?」
「う、うんっ。だ、大丈夫、大丈夫……!」
とか言いつつ、全然大丈夫そうに見えない。
ずっとソワソワしてるし、落ち着きがないように見えるけど……。
「じゃ、じゃあ私、寝るからっ。しょーごは今は私の枕ね……!」
「ん? ああ、いいぞ。おいで」
「ぐ……言い方がなんかエッチ……」
「なんでだよ」
「知らない。ふんっ」
納得のいかないキレ方をされた。
夢葉はぷいっと目を閉じると、宣言通り俺を枕にして寄りかかって来た。
身長が低いから俺の肩ではなく、腕を枕にしている。
そのまま電車に揺られることしばし。夢葉から気持ちよさそうな寝息が聞こえた。
「……お疲れ様。今日は楽しかったぞ」
聞こえていないだろうけど、そんな言葉が口をついた。
……って、あ、しまった。夢葉の手を繋ぎっぱなしだった。
そっと手を離そうと力を抜く。が、夢葉の方が離してくれなかった。
仕方ない、このまま寝かせてあげよう。
夢葉の気持ちよさそうな寝顔を横目に、電車は進んでいく。
ゆったり、ゆらゆら。
心地いい疲労感と静かな車内に、俺もなんだか眠くなってきた。
そんな眠気を紛らわせるように、窓から外を眺める。
日も落ち、建物に灯りが点いているのが見えた。
非日常から日常へ。
帰ったら、鈴乃にお菓子でも作ってやるか。
【あとがき】
作者からのお願い。
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☆☆☆→★★★
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