第12話 平穏

 ヘイゼルはトーリスの病のことを知り、卒倒しそうになっていた。


「なぜなのです……なぜ、彼はそのような病に」


「生まれつきだよ。彼は幼少から、魔力の生産量が異常なほど多かった。だから、定期的に発散せねばならない」


「じゃあ、いつも魔力を糧とするビームの剣を使っているのも……」


「あの異常なまでの魔力を消費する、できる限りの延命手段だ」


 ヘイゼルはますます卒倒しそうになった。立ち眩みがするほど、ショッキングなことだったのだろう。


「大丈夫か? そこに座るといい」


「ありがとう……ござい、ます……」


「ふむ……よほど、驚きの事実だったようだな」


「ええ……いつも言うことを聞かない、何を言っても改善しない……世間知らずのガキだと思っていたんです……」


「そう思うのも無理はない。しかし、彼は戦うことでしか生きられん。いや、戦うことこそが生き永らえる唯一の方法だ、皮肉だがな」


「……ありがとう、ございます」


「これからどうするんだ?」


「……気晴らしにトレーニングにでも」


「そうか……早めに寝るんだぞ」


 そして、今に至る。


「私は……非道な人間だ……!」


 ヘイゼルはこれまでの自分の行いを恥じた。知らなかった、しかし、彼女からすれば、それだけでは済まなかったのだろう。


「……知っちまったのかよ」


 それを、裏でひっそりと聞いているトーリスの姿があった。


 時は流れ場所は変わり、正和たちは早速廃屋を改築していた。と言っても、一部だけだが。


「これ元は何だったんだろうな……アパート?」


「こんな辺境に建てるかね、普通」


「一軒家にしては扉の数多いし、アパートにしては部屋と部屋の間に扉があるし……不思議なとこだな」


「にしても、結構そのままで使えそうな部分もありそうでよかったです。掃除してなんとかってとこですけど」


「……さて、文も送りました。あとは返答を待って、この廃屋を改築するだけ!」


「やけにやる気あるな。新築じゃないけど」


「まぁ、かつての住居は燃えたらしいので……新しい家になるとなれば、俄然やる気が出ますとも!」


「ああ……まぁ、新しい家ってことになるもんな……」


 五人はせっせと物資を運んだり、外装を組み替えたりしていた。魔法によって、外装をちょっとだけ変えたりしたりして、なんとなく外見を変えたりしていた。


「おれ狙撃兵なんだけど、建設したらボーナス出るか?」


「うーん……自分の部屋をスイートルームみたいにしてもいいんじゃないか、強欲にならない程度に」


「レナトゥスさんよ! 俺の部屋豪華にしていい!?」


「他の部屋に物資が行き渡らなくならない程度にはどうぞー!」


 そんなことをぴーぴー話しながら、彼らは改築を続けた。


「ふむ……まぁ、こんなんでいいんじゃないか?」


「多少質素なくらいで、ちょうどいいのではないだろうか」


「ですね」


「よし、各員の部屋を飾り付けするか」


 というわけで、五人は部屋を選んで、各種家具の配置やらなにやらを入れていた。


「このでっかい机……どっちの部屋に持っていくか、じゃんけんで決めないか」


「そうですね……」


 レナトゥスとアキはその場で腰を落とし、構えの体制をとる。


「最初は!」


「グー!」


「あんなに真剣にじゃんけんしてるやつら初めて見たぞ……」


「同じく」


「じゃんけん!」


「ぽんっ!!!」


 勝負はレナトゥスが勝って、大きな机はレナトゥスの部屋にせっせと明日香が運んでいった。許可は出されても、運は味方してくれなかったようだ。


「くっそー……このちゃぶ台で我慢するか……」


 そんなこんなあり、五人の部屋への家具供給は間に合い、気づけば夜になっていた。


「よくよく考えたら昨日今日会った連中が同じ屋根の下にいるんだよな……事案とかにならない?」


「部屋は違うし文句は言われんだろう。というか、アパートみたいな構造のわりに、ここだけつながってるのはなぜなんだろうな」


「さぁな。誰かがこうやって改装したんだろう」


 正和はもう寝たくて仕方なさそうな顔をしていた。ボロボロのランプの光を消して、箱から出したての枕に頭をのせて目をつむった。


「……まぁ、いいか。おやすみ」


「はぁい……」


 こうして、五人はすぐに寝た。

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刃が無くても斬れる浪人は、新天地でも戦います 軽沢 えのき @gackman

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