第11話 暴露
五人は燃え広がる拠点から離れ、近場の廃屋にお邪魔することにした。
「物資の中にパスタが入ってた」
「お、西の方の料理だな。こっちまで持ってきたのか」
アキは鍋に火をつけながらパスタを輝かしい目で見た。
「その感じだと、乾麺ですね。保存に聞くタイプで、私も地元でよく食べてました」
「……味付け用の調味料でもないかな」
ドロシーは物資をがさごそと探り、使えそうな調味料を出してきた。
「塩、味噌、醤油……塩以外は馴染みがないですね」
「西のほうじゃ、醤油とか味噌は見慣れんか……ウスターソースとかは?」
「ああ、それなら少しだけ。昔、輸入で入ってきたものを食してたことがあります」
「ほぉー……」
正和は世間が広いことを実感しながら、パスタをアキに渡した。
結局、パスタは塩で茹でて醤油で味付けすることになった。材料こそあるが、奮発するより備蓄することにしたのである。
「うん……シンプルだけどおいしいな」
「腹の足しにはなるね……」
五人はズルズルとパスタを食していた。
「正和さんと明日香さんって、名前からして東洋の国の家系だと思うんですけど、フォークとかの使い方、結構慣れてるんですね」
「まぁ、こっちはいろんなとこ旅してきたしな。東西南北大抵のとこは行ったと思う」
「私もだ。最も、彼ほど旅の歴は長くないがね」
明日香も正和も、浪人としていろんな場所を巡っている。特に正和は身元不明になるほど長い。
「……そういやなんだけどさ、味方には文を送れたりしないのか? 信用できる人とか……」
「ああ……みんな、傭兵の知り合いに匿ってもらってるので、そちらの住所に送れば、連絡が可能かもしれません」
「…………まさかこの資源使って拠点つくろうとか言わねえよな?」
アキが完食したのちにそう言った。
実際、ここに余ってる物資は食べ物だけではない。倉庫内にあったものは全て取り出し、没収された半分以外は全て手中にある。
拠点の補修用の資材、予備のベッドやら制服やら、沢山あるのだ。
「まぁ、あくまでもここを拠点として活動するというのは悪くないんだが……レナトゥス君たちは持ってないのかい? そういうの」
明日香がそう尋ねると、ドロシーが手を挙げた。
「知人に文を送ってみたところ、戦争の爆撃に巻き込まれて燃えたそうです……」
「えっ」
レナトゥスは目をがん開きにしてびっくりしていた。知らなかったのだろう。
「マジかー……」
「なんか大事なものとか、置いてあったのか?」
「いえ、全く……純粋に寝泊りくらいにしか使わなかったので……」
そうは言うものの、彼女は結構落ち込んでいた。寝泊りだけに使うとはいえ、結構愛着あったのだろう……
「じゃあ、ここに作るか……?」
「はい……ホームレスは流石に嫌ですし……」
「まぁ、この廃屋の一部改築くらいなら、できなくはないだろう……この量なら……」
実際、そこまでこの廃屋は広くない。この資材で多少なりとも改築は可能だろう。
「よし、とりあえず今日は寝るか……」
正和はそう言って、すぐに横になって、目をつぶった。
「……せめてテントくらいは建てようじゃないか。買ってきた意味がないだろう」
「そういやそうだった」
そうして、五人は明日に備えるべく、テントを張って寝るのであった。
一方そのころ、組織もといオルカは、名前が変わっても平常運転であった。
「よぉヘイゼル。こんな夜遅くまでトレーニングかよ」
「……ああ」
「おいおい、いつもじゃ、『貴様のような怠け者とは違う』とか言うのに、今日は突っかかってくれないのかよ」
「ああ……すまない、ちょっとショックなことを知ってしまってな」
「え? ショック?」
「いや……こっちの話なんだ。別に……大丈夫だ。早めに寝ろよ」
「……???」
トーリスはいつもと態度が170度くらい違うヘイゼルを見て、困惑しながらも去って行った。
「…………クソッ!」
ヘイゼルは壁を叩いた。こうなったのには、時を少し遡る必要がある。
「おかえりなさいませヘイゼル様、オープニング様がお待ちしております」
「ああ……そういえば、後でお話をしようと思っていたんだ……ありがとうヌル」
「仕事ですので」
ヌルと呼ばれた中性的な人物は、軽くお辞儀をした。
「申し訳ございません、オープニング様、お待たせしてしまい」
「大丈夫だとも。ところで、トーリスのことを私が特別扱いしているように見えると思うが、これには理由がある……これを見てくれ」
オープニングが手渡したのは、レントゲンの写真だった。それに加えて、おそらく体の構造をスキャンしただろう画像だった。
「これは……?」
「彼の人体の様子を記録したものだ。悲しいことに、診断結果で、病にかかっていることかわかった」
「病……そんなに、重いのですか」
「ああ……このままでは、彼は、全身の細胞が崩壊し、壊死する」
「え…………?」
オープニングの口から放たれた言葉は、想像以上のものだった。
態度を改めさせるほどに。
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