第10話 覚醒・後
レジーナはレナトゥスを連れて、燃え盛る拠点から600メートルほど離れた場所にレナトゥスを連れていき、投げ捨てた。
「さぁ、その闘争心を鎮めるために、私にかかってきなさい」
「どうして……そんな……うっ……」
再び、レナトゥスは光りだした。それに共鳴するように、レジーナも輝きだす。
レナトゥスは苦しんでいたが、レジーナは苦しむ素振りすら見せない。完全に制御できている。
「その光は、もう名前さえ忘れられた種族の血が流れる者の骨に入っている、特殊な成分が反応しているからだそうです」
「その……種族って…………私は……普通の……にんげ、ん……がっ!」
見る見るうちに、レナトゥスは丸まって、どうにか抑えようとしている。しかし、湧きあがる闘争心がそれを許さない。
「我慢しなくても良いのですよ。闘争心とは、誰にだってあるものです。抑えても、何もいいことはありませんよ、この世界では」
レナトゥスは立ち上がり、異空間からグリップを取り出す。トーリスが使っていたものと原理は同じで、ビームの刃を形成する剣だ。
グリップは丸くなく、四角い形をしていた。
「ふぅ……はぁ……」
「……驚きましたね、多少制御できている」
「……行くよ!」
レナトゥスは背中に魔法陣のようなものを発生させ、魔法陣からは光が飛び散り、レナトゥスに推進力を与える。
「ふっ!」
そのビームの刃は、周囲のものが余波で蒸発する程の高熱を発し、レジーナに襲い掛かった。
「……ふむ、オーバーパワーですね」
レジーナは素手でビームの刃を止めた。まるで痛みを感じていないようだ。いや、実際彼女は感じていないのだ、痛みを。
「なっ……!」
「お粗末な攻撃……」
その時、彼女の周りに泥のようなものが発生した。
その泥はやがてレジーナを飲み込み、レナトゥスのビーム刃も飲み込まれかねないほどに膨張していった。
「なんなの、これ……」
「はぁぁぁぁぁ…………」
数秒後、泥は急速に硬化し、内部から爆発するように割れる──
「こんどは、私の番ですよ」
そこにいたレジーナは、全身に、サンゴの死体のような白を基調とした、禍々しくもどこかヒロイックさを感じれずにはいられない、軽装のアーマーを装備していた。
一方そのころ、ヘイゼルは四人を一斉に相手しながらも、ビームを発射するライフルと、グリップの形状が独自のビーム剣でなんとか踏ん張っていた。
(落ち着け、あくまでも私は時間稼ぎを命じられたのだ! こんなところで焦っては、末代までの恥というもの!)
特に結婚相手もいないのに末代までのことを考えているヘイゼルであった。
「流石は幹部を名乗るだけあるな、質の高い一般兵を統べる幹部なら当然っちゃ当然か!」
正和は正確無比な動きでヘイゼルに襲い掛かっていた。
(おそらく、あの発光現象を止められるのはあの親玉くらいなんだろうが……殺されたりしないよな?)
正和の不安は、ヘイゼルの後ろからレナトゥスが吹っ飛んできたことで杞憂に終わった。が、その後ろからもっと不安を煽るレジーナが出てきた。
「れ、レジーナ様……」
「すみません、ちょっとカッとなってしまいまして……」
カッとなったどころの話ではない。レナトゥスは外傷こそ少なそうに見えるが、血を噴き出して木にもたれかかっている。
「内臓破裂してんじゃねえのか……?」
アキが小さくそう言った。実際、その予想はだいたい当たっている。
「くっ……ふぅぅぅぅぅ…………」
レナトゥスは体から鳴ってはいけない音を鳴らしながら、立ち上がった。
そこにいる誰もが驚愕し、戦慄した。彼女の生命力に。
「はぁ……はぁ……」
「レナトゥス! 大丈夫?」
「身体は大丈夫だと思うけど多分もうダメ……今日はもう戦えない……」
レナトゥスは元気そうではあるが、脚は生まれたての小鹿のように震えて、息づかいも荒かった。
「まぁ、今日はこのくらいでいいでしょう。別に根絶やしにしたいわけでもありませんし」
レジーナは積まれていた荷物の半分を念動力で自分の方へ持っていき、地面に沼をつくってそこに入れた。
「帰りましょうヘイゼル……そうだ、名前、付けなきゃですね」
「あのトーリスとかいうやつ、ちゃんと伝えたんだな……」
正和は呆れと感心が混じったような声でそう言った。レジーナは顎に手を当てて、考えていた。
「だいぶ呑気だな……」
「まぁ、レナトゥス君も無事そうだし、いいんじゃないか……? 今のところ」
「いや、個人としては今すぐ頭突きしたいんですが」
アキと明日香がこそこそと喋っている中、ドロシーが自分の角を磨いてそう言った。こっちの呑気さも大概である。
「そうですね……強いってこと誇示したいので……シャチ……オルカ……オルカにします」
「オルカ……?」
「ええ、オルカにします。我々は今から、”オルカ”です」
レジーナはポーズだけ高々とした感じで、人によっては棒読み判定されそうな声で宣言した。
「さて、名前をつけるのも終わりましたし、今度こそ帰りましょう。そちらの物資はすきにして構いませんよ」
「敵に塩を送っていいのか?」
「ええ、敵だと思ってませんので」
レジーナは無表情でそう言い、物資を入れた沼にヘイゼルと共に入って、姿を消した。
「……さて、敵もいなくなったし、どうする?」
正和はすぐに気持ちを切り替え、レナトゥス達の方を見た。
「まず物資を持てるだけ持って、ここから離れて、レナトゥス君の味方を集めていこうというのは、どうだい?」
「そうですね……そうしましょう……っと!」
と、言うわけで、五人は協力して物資のまとめに入った。
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