第9話 覚醒・前
レジーナたちが会議を終えた頃、正和らは近場の組織の拠点を潰していた。
「なんかこいつら練度高くね?」
正和は斬れない刀で敵の肉を切り裂きながらそう尋ねた。
「シンとやらの部下が三下なだけだったのだろうな。ここの連中、随分とまぁ手慣れた動きをしている」
「確かに、ドロシーたちといるときと、シンの部下の能力は、かなり違ったと思います」
「……死んだ後に能力の低さが分かるの、一番悲しいな」
正和が苦笑いしながらそう言った。
「敵ながら哀悼の意を表するよ……」
明日香は沢山倒した敵の亡骸の山の上で手を合わせ、合掌した。手には血まみれの小太刀が握られていた。
「いつの間にあんなに……」
「ああいやいや、これは分身する人を相手にしていたら、全部実体のある奴だったらしくてね。全員倒したら、見事に血を出して消えずに死んだよ」
「そんな人材もこんな一般兵扱いだもんな……すげえよ組織は」
アキはそう言いながら、ライフルを使って零距離射撃を繰り返していた。
発射した弾丸は何もない場所で急に跳弾し、外れた敵を執拗に追いかけ、喉元を貫通する。
貫通した後、ソニックブームが発生し、再加速する。それが何人も殺害するまで続いた。
「お前も大概だよ」
「評価してくれてうれしいよ」
そんな中、ドロシーとレナトゥスも己の武器を振るって戦っていた。
「はぁぁ!!!」
「てぇぇぇい!!!」
ドロシーは巨大なサーベル一振りとプロレス技で、特殊能力も使わずに、あらゆる特殊能力を持つ相手をねじ伏せていた。
ある相手は空間を削り取り、またある者は時を操って、自分だけ超高速で動いているように見せたり、身体をばらばらにして個別に襲ってきたりする、文字通り魑魅魍魎の集まりだった。
しかし、ドロシーはそんな相手の行動を間一髪の所で避け、もう一度その行動が来た時に反撃する──いわば、初見殺しを間一髪で回避して、敵の技を見破る、といったところだろうか。
「おらぁ! おんどりゃあ! うおぉぉぉぉぉあぁぁぁぁぁ!!!」
闘牛のごとく無双し、技を出し切って疲弊している敵にジャイアントスイングをかけているドロシーを横目に、レナトゥスも鮮やかに舞っていた。
異次元から出てくる武器は槍だけではない。剣、ナックル、ハンマー、モーニングスター──それ以外にも、マスケット銃や弓などの飛び道具も沢山あった。
「行けっ、ビット!」
特に、異次元から出てくる武器には特異なものもあった。手に持たず、空中浮遊する武器だ。きまった形は持たず、何かと言えば基本は石ころのような形状で、状況に応じて一時的に形状を変える。
「ぐあっ!」
「ほげぇ!」
「あべしっ!」
敵は本人の戦闘能力と、ビットの強力な突撃によって、なすすべもなくその場に倒れた。
「ふぅー……敵は、これで全員でしょうか」
「見た限りはな。逃げたやつは……追わないでもいいんじゃないか? また来ても、殺せば全部同じさ」
正和はそう言った。レナトゥスたちも、その意見に反対というわけではなさそうだった。
「……まぁ、今回の目的は拠点潰しなんだろ? なら、追わずにとっとと焼き払って、次の味方のとこまで逃げおおせようじゃねえか」
アキは正和の意見にのり、周りの人物らもそれに頷いた。
数分後、拠点は見るも無残に焼き払われていた。蓄えられていた物資を除いて。
「ホントにこいつら自警団の同類かよ……」
正和の後ろに山盛りの物資は、どう考えても政府などの公的機関以外の組織が持っているには、おかしなほどの量だった。
「申し訳ない。少し考えを改めるべきかもしれん」
明日香がそう言った瞬間、全員は上から殺気を感じ取った。
「見つけたぞっ! 我ら組織に仇名すものどもよ!」
上から飛び降りてきたのは、組織の幹部ことヘイゼルだった。
「我が名はヘイゼル・レヴニール! 組織の幹部第六位! 覚悟しろ!」
「なんか強がってるガキがきたぞ……」
正和は苦い表情でそう呟いた。アキはこくこくと頷いていた。
「貴様っ!? 報告がないと思えば、寝返っていたか! このコウモリ男め!」
「元はと言えばお前らの待遇が悪いからだろうが! この金髪貧乳メスガキが!」
アキがこれまでにないほど低いトーンでそう叫んだ。来れには思わず正和もびっくりしてしまった。
「なっ……貴様ぁ! 乙女に向かってなんたる言いようを! 許せん!」
「はぁ? 誰がお前みたいな奴を女と思うかよ! この青二才!」
「私が思いますよ」
「ん……?」
アキたちが上を見ると、そこには一人の仮面をつけた女性が立っていた。レジーナだ。
「かねてよりお会いしたいと思っていました、刃無鋒。私は組織を統括する者、首領のレジーナ……失礼、今はレジーナだけで十分でしょう」
「……親玉自らご登場とは、随分俺のことが気にかかっているみたいだな」
「ええ。突然の来客には誰だって驚くものです……そして、こんなにも早く、そこのレナトゥスに会ってしまって、私、今焦ってるんです」
「はい……?」
その瞬間、正和の後ろにいたレナトゥスが、突然光りだした。
「レナトゥス……!?」
「……やっぱり」
レジーナはこの状況になることが、内心予想できていたようだ。
「なにこれ……なんなのこれ……これは……闘争心?」
「吞まれてはいけません……今のあなたは、私ほど制御できていない……」
突如、レジーナも光りだし、その場は強烈な光に覆われた。
「駄目……これは、制御できない!」
「……仕方ありませんね」
レジーナはそう言うと、高速でレナトゥスに近づき、彼女を担いでどこかへ飛び去った。
「おい!」
「すみません、ヘイゼル。そこの皆様を足止めしてください、時間稼ぎでいいです。最低でも五分は持ちこたえて」
「仰せのままに!」
レナトゥスを追おうとした四人の前に、ヘイゼルが立ちはだかる。
「五分は私の相手をしてもらうぞ! いざ、参る!」
「どうなってるんだ……」
正和は汗を垂らしながらそう言った。実際、ここにいる誰もが、レナトゥスさえもが、そう思っていた。
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