加帕里私花集

月下 猫一疋 - ねこいっぴき

#フレンズは人だ(旗の記号)

『フレンズは人だ!』と書かれたパネルを持って、拡声器越しに叫んでいる人物が居る。

彼が主導するあの辺りの集団は、熱心な『ヒト派』の活動家の中枢的存在で、地理的でも電波的でも、何処にでも現れるものだった。

見分け方としては自作したであろうTシャツや、Twitterのヘッダーに使われている特徴的なロゴで、こうして大勢の人混みの中でもすぐに見つけることができる。

「フレンズにも最低限度の生活を!!」

「フレンズに結婚と労働の自由を!!」

と頑なに「フレンズ」と呼称する彼らにとって、アニマルガールは愛すべき隣人であり、同時に”可哀想なので”助けてあげるべき弱者であった。


今回のデモに参加しているのはこの主要団体だけでなく、一般市民の参加者も多くいた。

先月、アニマルガールとの交際を続けている人間の男性のブログが一躍話題となり、世界各国のニュースサイトで異質なデート写真が無限に転載されていたが、その彼も個人参加を行っているのだそうだ。

彼の今朝のツイート内容は

『今回の #フレンズは人だ(注釈:デモ名)のデモは過去最大の島内デモです。私も参加しますが今回はあの子は連れてきません。我々がなんとかすべき問題なのだから、彼女達には迷惑など絶対にかけたくない、そう思っています。デモはいつでも参加できますしいつ帰っても構いません、あなたの出来るタイミングで!(注釈:交際相手の睡眠中の写真を添付)』

とのことで、要するに確定的な人間の中での問題に、罪のない自分の愛するアニマルガールを巻き込みたくないという話であった。


一方、デモというのはいつでも穏便なものではなく(というか最近穏便なデモは少ないが)、時折ブッキングによる喧嘩というか、煽りというか、そういうものも起こりうる。

言うなれば #フレンズは動物だ!的な『動物派』のデモが、同時刻同場所で行われる事になっていた。

なお、『動物派』のデモの名は大々的に発表されておらず、この団体は正直な所マイノリティであった。

「フレンズには動物の時と同じ、野性的な自由が与えられるべきである」

と言うのが彼らの主な言い分であった。

このデモ団体がマイノリティである理由は、そもそも国の方針が『動物派』であり、デモをする必要性がそこまでないことが挙げられるし、サイレントマジョリティ的にも、こちらが優勢だからだ。有識者がそう言っていた。

それと、『動物派』側に立って活動しているアニマルガールが存在する、というのも大きい。

確かに法的な「人」になった場合、野生下における自由度とはかけ離れた生活を営む必要があるし、特に彼女は元食物連鎖の頂点近くにいたので、尚更のことである。


ちなみに『ヒト派』にもアニマルガールの活動家がいて、それは先程挙げた男性が交際中のアニマルガールその本人である。

これに限っては人類の8割方がさっさと結婚しろと断言する程の、見間違えようのない両思いイチャイチャカップルであり、パーク内で人気のある『コンビ』という概念の中でも、くっつきランクは屈指の数値を誇るのである、リア充が。

今回は先のツイートの通り男性一人で活動を行っているようで、アニマルガールはお家でお留守番の様子であった。


午後3時を回った頃、デモの流れが突如止まり、リズムがあっているのかあっていないのか、定かではないドラムが躊躇を始めた。

それは『ヒト派』と『動物派』の物理的な接触であった。

過激派同士がデモ行進の主流から外れて、双方警察のお世話になっている事は数時間前にも合ったのだが、主流同士が鉢合わせとなってしまった。

運の悪いことにこの丁字路を使わないことには、一筆書きで街を横断できなかったのだ。


そこまで激しくなかった人もこうなると少し棘が出てしまうもので、先制したのは『ヒト派』の、無数の拡声器をつけた車の上に乗っていた、過激派の女だった。

「そこまでフレンズが動物だと言いたいのか、下手をしただけで射殺される身を考えてみろ!」

と二年前のアニマルガールによる殺人未遂(注釈:と言うのは実のところ語弊があるのだが、非常にややこしいので今回はこう表現させていただく)と、その後の最早誰一人としてまともに議論できなかった裁判の数々を挙げて声を荒げた。

インターネットよろしく、個人対集団というのは指数関数的に盛り上がるので、こうしてトリガーが引かれては、もうどうにもならなくなるものである。

「こんな税金と鬱の世界にアニマルガールを落とすのか!」

「ヒトになった以上そもそも自然人だ!」

「見た目だけでヒト認定はそもそも雑すぎる!」

「フレンズのアンケート結果はヒト派が優勢だ!」

「アンケートの回答率を見てから言え!」

「統計学も知らねえのか!」

増大する議論はすぐに罵詈雑言に変わり、意見が流れていき、主張がズレていった。

前方過激派に比べて後方の穏便派は比較的静かであったが、それでも流れ弾は飛んでくるもので、議論があちらこちらで勃発しては、議題が揺れ動く戦場と化した。

しばらくして、街宣車の上に居た動物穏便派の女が

「そこにいるアニマルガールに答えてもらいましょう!」と叫び、まさかこの渦中に当事者がいるとは思っていなかった多くの人々が、そのアニマルガールの方を見た。

「これじゃデモじゃなくてただの攻撃じゃない、ひとまず決めてもらいましょう、そしたらそれでこの場は終わり!そのまま丁字路を抜ければいいの!」

そして彼女は、三階のベランダで、先程から少しうるさそうに論争の戦場を観ていたアニマルガールを向き、

「あなたはどうして欲しい?」

と尋ねた。

動物派の殆どは、動物と猫撫で声で接したりなどはしない。

そもそも人と動物は対等であるのだ。

論争を続けていた人々も、いまやその対話に耳を傾けていた。


そこにいたアニマルガール、アフリカオオコノハズクのコノハ博士は、

ううむ、と少し考えて言った。

「そっちはネズミとウズラを、こっちはカレーライスをよこすのです」

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