第46話、雨が上がっていつか青空が還るために、幻想理想郷での日々はつづく
そして。
校内の中心に位置する大通りまで僕らは駆けていって……。
急に歩きのスピードまで緩めて、そのまま歩き出すえっちゃんの隣に、急ブレーキをかけると、やはり何事もなかったかのように歩き出す。
「……吟さんは、超のつくお人好し。しかもやっぱり歩く女の敵だった」
「うっさいよ、えっちゃんだって相変わらず超友達思いのくせに」
僕らは互いを見ないままにそう言って、そのまましばらく歩き続ける。
「でも、さっきのはちょっと吟さんらしくなかった。……あのままだったらキレてた?」
「いや、まあ。そのことに関しては止めてくれて助かったけども。だって、なあ。あれはやりすぎや。詩奈はもちろん、他の子にも危険及ぶ可能性もあったんやで?」「……しいな? ふうむ。それが今回、吟さんが守ろうとした子?」
「あ? いや……うん。そうやけど」
いきなりえっちゃんにそんな事を聞かれ、正直に僕が答えると。
何故かえっちゃんはそんな僕のすねを蹴り飛ばした。
「いったぁ!? ……なんやねんっ」
「べぇつーにぃ。そうやって全部一人でやろうとする吟さんどうなの、って思っただけ」
「な、なんやと? いろいろ画策しおったおまいが言うか? なんやあの企画、トラブルにいらんおふざけかぶしよって。あんさんにだって責任あんねんど?」
痛いところをつかれて。
僕はとっさに話題を切り替えるようにそんな事を言う。
すると、その言葉を待ってましたとばかりに、えっちゃんは口の端だけで悪そうな笑みを浮かべた。
「いいじゃん別に。結果みろ結果。吟さんのせいではっぴーで終わったじゃないかね?」
「せい、ってトコに引っ掛かりを覚えるが……そう言われるとぐうの音も出えへんな」
確かに、結果だけ見れば僕が憂うようなことは起こってない。
詩奈だって、最終的には笑顔で帰れたのだから。
「だから、サマルェのことも今は許しとけ吟さん。あの子が何背負ってんのか……あの子が話してくれるまで待つがいい」
「そうやな。今日んところは、そうしとくか」
守りたい笑顔、その中には当然サマルェだって入っているのだ。
今ここで無理に真実を知ろうとするのは、その決意に反することだとも言えた。
そんなこんなで。
ご察しの通り、二人の追走劇はやらせである。
本当は、サマルェが何をしたかったのか、何を背負っているのか、聞きたかったのだが。
そんな彼女が守ろうとしていたすぅの手前、無理に聞くのもどうなのかと思い始め、悩んでいた所にうまいタイミングでえっちゃんの登場である。
初めからどこかでずっと眺めていたのか、状況をすぐに察したえっちゃんと一芝居打って、とりあえず今日のところは、とばかりに引いたわけだ。
そういう風にうまいところでフォローしてくれるところこそ、いつもトラブルとヴァイオレンスを引き連れてやってくる悪友の憎めないところなのだろう。
「んで? どうすんねや? このままえっちゃんが全ての首謀者だったって思い込んどるふりして、どっか遊びにいくか?」
「……そうだな。このまま濡れ衣を着せられて、哀れにも吟さんに追いかけられるフリもありだけど。もっとおもしろいこと、あったりして」
そう言って、ぎゅうっといきなり僕の腕にしがみ付いてくるえっちゃん。
それってどういう意味なの!? と、僕が相好を崩しかけたとき。
「吟也さん、まーてーっ!」
その背後から……地鳴りを起こしつつ、僕の名を呼ぶ、そんな声が聞こえてくるではないか!
「え? ちょっ、何!? 終わったんやないの!?」
ばっと振り返ると、鉛の恨み晴らさずにはいれないヒロやセツナに加え、今まで巻いてきたたくさんの女の子たちの姿が見える。
それは、なんだか一見すると、とてもステキでおいしい光景に……。
「実はあの特典、最初のひとりってわけじゃなかったりして。そして今から外解禁」
なるわけが……なかった。
「うああああっ!?って、えっちゃん! 離れてっ、死ぬ、死んでまうっ!!」
「ぐふふ……こなきじじー」
ますます人の悪い笑みを浮かべ、一層しがみついてくるえっちゃん。
それを受けてえっちゃんの言っていた、もっと面白いものがなんなのか、分かりすぎるぐらいにわかってしまった僕は。
「たーすーけーてーっ!」
そんな本当は心にもない絶叫をともにして。
今日も今日とて、終わらない逃避行を続けるのでありました。
それは、欲張ってオンリーもナンバーワンも選ぼうとしない。
どうしようもない僕の大いなる野望の、その一幕。
(つづく?)
雨上がりに橋が架かって願うのは、逃げ場所に選んだ幻想理想郷での思い出 陽夏忠勝 @hinathutadakatu
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