ポイ活の奨め(落語調2)

MenuetSE

 

「熊さん、おいら、またいい商売を思いついたんだ」

「八っつぁんは『水』といい、『ダイエット食品』といい、アイデア豊富だからなあ。で、今度のは何だい?」

「『宝くじカード』さ」

「えっ、宝くじを売るのかい?」

「いや、売るんじゃなくて『贈呈』するんだ。景品みたいなもんさ。近所の『鶴亀スーパー』と一緒にやるんだよ」

「ああ、鶴亀スーパーには良く行っているよ。でも、スーパーと宝くじと関係あんのかい?」

「スーパーのお客さんが買い物をすると、『宝くじ』を貰えるんだ」

「おっ、面白いな。買い物すると、その場で貰えるのかい?」

「いや、お客さんはまず『宝くじカード』を入手する。これは俺が発行する」

「なんだか、ややこしいねえ。それで?」

「お客さんはだな、買い物をする時、この『宝くじカード』をレジで提示するんだ。そうすると、それが記録されるんだ」

「記録されるって、どこに?」

「ウチのコンピュータさ」

「八っつぁん、コンピュータ持ってんのかい、こいつはすげえや」

「そして、このお客さんが何回か『宝くじカード』を提示すると、ウチからこのお客さん宛てに『宝くじ』を送るってえ仕組みよ」

「すると、何かい、スーパーのお客さんは、普通に買い物しているだけで『宝くじ』を貰えるのかい。こいつはお得だ。で、『宝くじ』を買うお金はどうするんだ。八っつぁんの貯金からかい? こりゃあ大した慈善事業だな。立派なもんだ」

「違うよ。最初に言ったようにこれは『商売』だよ。慈善事業じゃないよ」

「じゃあ、誰がその『宝くじ』を買うんだ。お金が要るだろ」

「それは鶴亀スーパーが出すんだ。俺はあそこの店長と知り合いなんだけど、この話しに乗り気だよ」

「おめえは顔が広いな。でも、スーパーがそんなお金を出すかい? 損しちゃうじゃないか」

「そこがミソだ。『宝くじカード』の噂が広まれば、宝くじ欲しさに今よりお客さんが沢山来るっていう仕組みさ。だから、少しくらい宝くじ代を出してもいいって寸法よ。まあ、要するに宣伝費みたいなもんだな」


◇ ◇ ◇


「八っつぁん、どうだい、『宝くじカード』はうまく行ってるかい?」

「聞いてくれよ、熊さん。それが予想以上で、常連のお客さんのほとんどが『宝くじカード』を作ってくれたんだ。隣町からも噂を聞いて、お客さんが鶴亀スーパーまで足を運んでいるってえ話しだ。店長は大喜びさ」

「そいつは、すげえ。でもなあ、八っつぁん、よくよく考えてみると、おまえさんの取り分はどうなっているんだ。だって商売だろ」

「ちょっと説明が難しいが、こんな感じだ。鶴亀スーパーは『宝くじカード』を使った買い物の2%を俺にくれる。俺はその半分、つまり1%を使って宝くじを購入する。残った1%が俺の懐に入るという仕組みだ」

「良く考えたねえ。ちょっとまだ良くわかんねえが、つまりこういう事か。お客さんが100円の買い物をすると、1円がおめえの懐に入るという事か」

「ああ、その通りだ」

「じゃあ、例えば鶴亀スーパーの年商が1億円だったとすると、おめえさん100万円も儲かるのかい! ただ宝くじを発送してるだけだろ」

「ああ、そんな所だ」

「こいつは驚きだ。まるで魔法だな。でも、鶴亀スーパーは大変だろ。売り上げの2%も差っ引かれちゃあ」

「いや、店長はご機嫌だ。売り上げが結構伸びたらしいよ。だから、2%くらいは平気だって。これは、正にウィンウィンって感じだねえ」


◇ ◇ ◇


「熊さん、おいらもっといい事を考えたんだ。『宝くじカード』をやめて、『点数カード』を発行しようと思っているんだ」

「おめえのやる事だから、これまた巧妙な事だと思うが、それはどういう仕組みなんだい? おいらのオツムじゃあ、理解できねえかもしれねえけど」

「お客さんが買い物する時に、この『点数カード』をレジで提示すると、『点数』が記録されるんだ。もちろんウチのコンピュータにね」

「で、その記録された『点数』はどうなるんだい」

「お客さんが、後で自由に使える。例えば点数が100点あれば、今度買い物する時に100円引きにしてもらえる」

「でもそれじゃあ、お客さんがやっぱり『宝くじ』が欲しいと言ったとき困るだろ。だって鶴亀スーパーじゃあ『宝くじ』売ってねえもんなあ」

「熊さん、そこがミソなんだ」

「えっ、またミソかい。で今度はどんなミソなんだい。合わせミソかい?」

「そう、その通り、『合わせミソ』だよ。この『点数カード』は実は他のスーパーや、スーパー以外の業界にも採用してもらっているんだ。宝くじ店にもね。だから、点数が貯まってきたら、お客さんはそれを宝くじに換える事もできるんだ」

「八っつぁん、いつのまにそんなに手を広げたんだい。すごいな、それは」

「ああ、映画や旅行、レストランなんかでも、この『点数』は使える。だから、宝くじに興味の無いお客さんにとっても、点数を蓄えるのは魅力的という訳さ」

「今度も、売り上げの何%かをいただいているのかい?」

「うん、今度は3%だ。だって、いろいろな用途に使える『点数』だからね、付加価値が高いってえ訳よ」

「良く鶴亀スーパーの店長は承諾したね」

「『宝くじカード』の成功で気が大きくなったみたいだね。使い道の広い点数なら、お客さんは点数欲しさに、もっとウチのスーパーに来るだろうって」

「それって、他のスーパーでもやってるのかい? 例えば鶴亀スーパーのライバルの『万年屋スーパー』なんかも」

「ああ、熊さん、いい所に気が付いたね。もちろん万年屋スーパーも導入してくれたよ」

「でもだよ八っつぁん、そんな事したら、お客さんはどっちのスーパーに行ってもいい訳だから、鶴亀スーパーのお客さんが減っちまうんじゃあねえかい」

「それが面白いところで、お客さんから見れば、より『便利』になる訳だ。だから、どちらのスーパーのお客さんも増えるという訳さ。逆に、『点数カード』をやっていないお店はどんどんお客さんが減っちまう」

「ずいぶん、あこぎな商売だな。なんだかお客の減るお店が可哀想になってきた。で、おめえの実入りはどうなんだ」

「お店の売り上げの3%を貰って、1~2%を点数として還元しているよ。だから儲けは1%以上あるよ」

「そいつはすげえ。宝くじの時の様に、発送の手間隙もないんだろ。みんなコンピュータがやってくれて、それを見ているだけで1%以上か。濡れ手に粟だな。それにしても、お店も良く3%も出すな。3%出すくらいなら、3%割引した方がお客さん来るんじゃないか?」

「さすが熊さんだ、いい指摘だ。でも、それもちゃんと考えていて、おいらの『計画』の内さ。今、その計画を準備中だから、ちょっと待ってな」


◇ ◇ ◇


「八っつぁん、で、この前言ってた『計画』はどうなったんだい。もうやっているのかい」

「ああ、始めた所さ。鶴亀スーパーと万年屋スーパーの間に『5%引き屋』というお店が新規開店したのに気が付いたかい?」

「知ってるよ。何でもお店の商品はぜーんぶ、周りのスーパーより5%安いのが売りだってよ。いっぱいお客さん来てらあ。俺はおまえの『点数カード』なんか面倒くさくて持ってないから、普通に安くしてくれる店の方が好きだ。だから、『5%引き屋』に行っているよ」

「熊さん、その店は実はおいらの店さ。『点数カード』で稼いだお金で作ったんだ」「こりゃあ、おったまげた。でも、おめえがやっているのに、その『5%引き屋』では点数カードどころか、何にもカード類は使えなくて、現金払いのみだよ」

「そう、そこがミソさ。こういう仕組みなんだ。最近の店は『点数カード』だけでなく、電子マネーなんかでも手数料を払っている。だから、これらの手数料で、商品の値段を5%も6%も高くしなくちゃいけない。慈善事業ではないから、カード業者や決済業者に持っていかれた分は値上げしないとね。だから商品は安くできないんだ。やってたとしても、一時的な『点数キャンペーン』が関の山さ」

「ほお、段々難しくなってきたんで、なんだか良く分からねえが、それで?」

「それでだ、『5%引き屋』では点数カードも電子決済もぜーんぶやめてみた。昔ながらの現金だけの店にしたんだ。そうすれば、どこにも手数料払わなくていいから、その分で全ての商品を少なくとも5%は安くできる。正確に言うと、安くしているんじゃなくて、高くしてないだけなんだけどね。つまり、本来の値段さ」

「ちょっと分かってきた。ということは、お客さんから見たら、同じ商品を買うなら『点数』が1点や2点くらい付く店で買うより、最初から商品が『5%』安い店で買った方がお得という事か」

「ああ、それをちゃんと計算しているお客さんは迷わず『5%引き屋』に来ているね」

「でもなあ、八っつぁん、そんな店を作ったんじゃあ、鶴亀スーパーや万年屋スーパーには申し訳ないだろ」

「いや、それがそうでもないんだ、熊さん。鶴亀スーパーの店長も意外と平気だったよ。『点数』を貯める魅力に取り憑かれたお客さんはなかなか抜け出せないらしい。点数が溜まると得した気分になっちゃうらしいんだ。例えば『点数3倍!』なんてキャンペーンを打つと、飛びついちゃうらしいんだ。それでも隣の『5%引き屋』の方が安いんだけどね。キャンペーンの日には買い溜めもするらしい。それを『点活』とか『ポイ活』って言って趣味的にやっている人まで現れたらしいんだ」

「その気持ち、分からねえでもねえなあ。特に若けえ連中は、映画やコンサート、ネット通販なんかにも使えて便利だろうからな。単にそのスーパーのものが安くなるだけじゃあ、物足りねえんだろうなあ」

「熊さん、俺が言うのもなんだが、結局『点数』ってやつは、お客さんが出したお金が返って来ているようなもんさ。しかも、半分くらいしか返って来ねえ。それでも人気があるってえのは、そんな若者の志向にうまく応えてるんだろうなあ」

「俺はとにかく安けりゃいいけどな。ま、いずれにしても、お客さんがどの店に行こうが八っつぁんは儲かるって仕組みかい。こいつぁあ、恐れ入ったよ。おめえさん、これで大金持ちになったら、レインボーブリッジを見下ろせるタワマンの最上階かなんかに引っ越しちゃうんだろ、羨ましいねぇ」

「熊さん、俺はそんな事しないよ。おいらはいつまでも熊さんと長屋暮らしさ」















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ポイ活の奨め(落語調2) MenuetSE @menuetse

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ