会話文の効果

こんにちは、浅川です。

1回目でもちょっと触れたように果たして2回目はあるのか?と不透明だったこのシリーズですが、せっかくなのでやっぱり2回目も書こうと決めました。


今回は「会話文」に焦点を当てて、その技術的な事を解説していきます。ただしこのシリーズでご紹介している知識、技術というのは「ライティング講座」で教わった事を元にしておりまして、基本は小説を書く人向けに教えられたものではないというのは頭に入れておいてください。それでも人を惹きつける文章を書くには?というのがテーマなので小説を書く上でも応用できる部分はあるはずですのでシェアしたいと思います。


それでは本題に入っていきます。



では「人間同士の会話」というのはどのような性質を持っているのか?

その基本形を説明します。その形が・・・、


「その人物が発した言葉とは必ずしも本心、本音とは限らない」


です。これはご自身の実生活を振り返ってみれば分かると思いますけど、普段の生活で人と話をする時、全てがその人の本心、本音だという事って殆どないです。これは年齢が上にいけばいくほど、もう学校を卒業して社会人として働いていれば、なおさらそんな場面が多くなります。


それこそ「本音」は苦手だなと思っている上司に対して、はっきりとあなたは苦手なので、できれば関わりたくありませんと明確に態度や言葉で示す人ってそうそういませんよね?多くはその「本音」を隠して、指示された事に対してその本音とは裏柄に笑顔で「わかりました」と快く応えたりもするです。


・上下関係の影響で本人に直接、本音は言えない。

・不味い料理を出されたけど、本音を言ったらその人が傷つくから美味しいと言ってしまう。


このように本心とは違う言葉を発してしまう。態度をしてしまうのはそんな珍しい事ではないですよね。


そして、このような本音を言えない「人間関係」や「心境」にこそ会話の面白さがあると言えるのです。


この部下と上司の関係性、どこかで我慢の限界がきて衝突してしまう時がくるのか?料理が不味いという本音を隠したままこの局面を乗り切る事ができるのか?といったように隠している部分がある事でこの先が気になり、この後どうなるのか?と思い読み進めようという気に読者はなります。


「はっきりさせない、隠している部分」があった方が良いって事ですね。そしてその「本音」「真実」をぶちまける場面を書くとするのならそれはラスト、一つの山場にとっておく事によって、よりクライマックス感が演出できると思います。いきなりズバズバ本音を言い合う喧嘩から始まって、最初からクライマックス感を意図的に出したいのなら別ですが、ここまでをまとめると・・・、


「人間、特に大人は本音を言う事なく人と会話している場合が多い」という事になります。まだ本当に小さな、幼稚園児くらいの子供ならズバっと本人が傷つく事を平気で言う子がいますが、それは年齢的にも仕方がないと思ってください 笑 まさに子供だからしょうがないです。しかしそこに親がいるのなら「そんな事、言っちゃダメでしょ!」と叱る事もあると思うのでこうして子供は学んでいき、最後はしっかり本音を隠す大人になるのです。



ではここからは小説でも使えるような会話の種類をご紹介していきたいと思います。こんな会話を使えばこのような効果があるといった類いのものです。おそらく皆さん無意識にでも使っているとは思いますが、改めて言語化すればこういう事なんだよというのを確認して、より効果的に使っていってほしいと思います。



先ずは基本的な最初にご紹介した、

「本音とは逆の言葉を言う会話」です。


例えば「知っている」のに「知らない」と言う。


あるアイドルが利用した店の店員に酒に酔った勢いで暴言を吐き警察沙汰になったニュースが流れました。そのニュースをスマホで読んだ男が、


「お前、この子知ってた?」と聞き、

「いや、知らない」と答えた時、


勘の良い読者ならいや、知っているんじゃないか?むしろ大ファンで内心、相当ショック受けているんじゃないか?とそこまで想像する人もいると思います。

「知らない」と言っているのに逆に「知っている」と言う以上に、もしかしたら好きなんじゃないか?とまで思わせてしまう効果があったりして、やはりここでも真相はいかに?と先を読みたくもなってしまいます。


聞いた男も微妙な動揺が見られて引っかかる部分があったりと、正直に言わない事によってこの先の会話が続くなら心理的な駆け引きも生まれますよね。このように本音とは逆のことを言う事によって、実は本音の部分が際立つ、浮かび上がる使い方です。


「本音を直接的に表現せず、あれこれ言葉を羅列して遠回しに言うセリフ」


部活で公式試合に負けて部員に向けて話しをする部長。


「そんなに落ち込むなって。当初は圧倒的大差で負けるだろうって言われてたのに結果は3点差だったじゃないか。しかもこっちも2点取ったんだぜ?俺たちみたいな弱小校があの高校から点を取った、それだけでも大したもんだろう。その事実だけでも胸を張ってもいいはずだみんな」


このセリフを読んだ人はきっと部長が一番「悔しい」んだろうなっていう風にしみじみ思う人もいるのではないでしょうか。逆に「ちきしょう!」と言いながら物を投げたりして正直に悔しさをあらわにすると誰だって悔しいのはもう分かっているので、それを改めて表現するよりもこんな感じでそれを隠しつつ、大人な対応を見せた方がより悔しさを滲ませていると印象付かせる事もできます。


これも本音を隠す事によって、実はその隠している本音がより際立つという例でしょう。


「会話の流れに緩急をつける」


これこそ技術的な使い方だと思いますがやはり読む側はいつまでも同じような流れだと飽きる、或いはさっきからずっと緊迫感ある場面、会話だとこっちも気を張ってしまうので疲れてしまうんですよね。それを解消するためには緩い空気ならいきなり緊張が走る言葉を放り込む、要人を誘拐するための計画を練る会話がずっと続いていたのなら「ちょっと休憩するか、外に出て缶コーヒーでも買ってこよう」などと言って外に出るシーンに移って緊張を緩めたりしましょう。


・緩→急、張り詰めた空気にする流れ。


ここはある食堂。男が欠伸をしながら店内に入って来る。テーブル席に座り店主に話しかける。

「いつものやつちょうだい」

「あいよっ」

「昨日の雨、凄かったね」

「そうですね。うちはずっと店内に居たので大丈夫でしたけど、入って来るお客さんのズボンとか水滴が落ちていて、大変そうでしたよ」

「俺なんか外に出た瞬間に降ってきてさ。しかも駅に着いたら一旦あがったの。それで電車降りたらまた降ってきて……」

「はは、それは災難でしたね」

「本当タイミング悪いよ」

『番組の途中ですがここでたった今入ってきたニュースをお伝えします』

店内に設置されているテレビからいきなりやや慌てた様子のアナウンサーが映る。先ほどまで流れていた芸能人の笑い声は消え失せ、それと同時に店内も静かになった。一斉に店内の人々はテレビに視線を向けた。


・急→緩、緊張を緩める流れ。


「ここが狙い目だって事ですね」

「あぁ、どうやら少しは運動をした方が良いと思っているのか、自宅から500メートルくらい離れたところで車に降りてそこから歩くんだ。しかも高台に家があるから自宅に近づくほど人気は夜って事もありさらに少なくなる。このタイミングが絶好のチャンスだ」

「それだと待ち伏せする時でも、人に見られたらそれで怪しい車だって思われませんかね? 普段見ないという意味で」

「周辺住民の層をここ一週間、観察してみたんだが、さすが金がないと住めない地域って事で規則正しく暮らしている人ばかりだった。つまり夜10時くらいからでも殆ど人は見なくなる。1時間くらいは大丈夫な気がする」

「なるほど。でも上手くいきますかね〜絶対に何かありそうで」

「そんな弱音吐いてどうするんだよ。よしっ、大体の流れは決まった。あとは細かい詰めの作業だが、ちょっと休憩するか」

「はい。何か買って行きましょうか?」

「一緒に出よう。外の空気が吸いたい」

 外に出る二人。すっかり陽は落ち暗くなっている。鈴虫の声が聞こえる。この静寂にも二人は落ち着く事はできない。これからどこか遠い世界へ行こうとしている心境であった。



・・・と何か買い出しをする道中に今度は何気ない会話が始まるというのも良いですよね。こんな風に緩急を付ければ長い会話でもなるべく飽きない、疲れないようにする事ができるはずです。

さらにもう少し説明するとこの二つの文、わたくしは何をイメージして書いたかを教えたいと思います。これでよりこの二つの違いというものが理解できるようになると思います。


緩→急の場合、最初は店内全体をイメージして書きました。天井からカメラで撮っているようなイメージですね。そんな視点で男が入ってくる、店主と会話する、そこにいきなりテレビから何やら不穏な調子でアナウンサーの声が聞こえてきた。この瞬間、テレビがドアップで映る。

つまり緩の時は全体が見渡せる視点、そこから急に移る時はその原因となる所へクローズアップするという流れと言えます。


これで言いたい事は分かりましたよね。なら急→緩の場合はクローズアップされていた視点から全体が見渡せる視点へと広がるという事になります。

例文で言うなら計画を練っている時は床に座っている二人のみを映し出していた。そこから休憩という事で外に出た時に町全体や夜空が映し出されて、疲れた目が一息つくように緩む事になります。

こんなイメージが読み手にも伝われば上手く書けたなと言う事もできますが、どうでしたでしょうか?


「テンポ、リズム良く」


時にはじっくり読みたくなる会話のみならずテンポ良く、リズムがある会話を入れるのも良いのではないでしょうか?


「ねっどっか行こう?」

「いやだ」

「えっなんで?」

「暑いから」

「なにその理由?」

「普通だろう」


音読してみれば分かると思いますけどポンポン次のセリフへいくことができますよね。こんなテンポ良い会話やリズムが良い文にする事によって、それだけでも読みやすくなりますし、ラブコメなんかの場合はこんな会話があった方が良いのではないでしょうか?


そこでこんな言葉をご紹介。


「もしその文章にリズムがあれば、人はそれを読み続けるでしょう。でも、もしリズムがなければ、そうはいかないでしょう。二、三ページ読んだところで飽きてしまいますよ。リズムというのはすごく大切なのです。」


これはあの村上春樹氏の言葉です。リズムとかテンポって聞くと音楽をイメージするかもしれませんが文章、小説を書く時にも実は重要になっていきます。わたくしも言われてみれば書き始めた頃から多少、意識してましたね。特に読み直してみて、ここは読み難いという理由で直したりするのですが、それってつまりリズム、テンポが悪いという事なのかもしれません。



これで以上になります。ご自身の小説を読み返してみれば、ここでこの技法を使っている!と気が付く事もあると思いますので、もしも今まではそんな効果があるとは認識していなかったのなら今後は意識的にも使えるようにして、よりクオリティの高い小説に仕上げていってください。


では、最後までお読みいただきありがとうございました。



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