差別されている 三十と一夜の短篇第63回

白川津 中々

 肌の色が違うわけでも別の国の血が流れているわけでも欠損があるわけでもないのに俺は差別をされている。

 グズ。馬鹿。できそこない。それが俺の呼び名であった。白い目で見られ、嘲笑され、暴力を振るわれる毎日は屈辱的で悲しい。けれど誰も助けてくれず一人。親からも「我慢しなさい」とだけ言われ、突き放される。


 鏡で自分を見る。別段他人と変わった場所はない。ただ、人より少し能力は劣っていた。頭が悪く不器用で、当たり前の事ができなかった。だから差別された。


 いっそ思う。肌の色が違えば、別の国の血が流れていれば、欠損があれば、誰かが味方をしてくれるのにと。他人と見てくれが違えばまだ受け入れられるのに、俺は周りと同じで、恵まれて産まれてきたから、誰も救ってくれない。


 そんな風に考えるのはよくないと、間違っていると思うのに。肌の色が違う人も別の国の血が流れている人も欠損がある人もみんな頑張って生きているのに、辛い思いをしているのに、差別と戦っているのに、俺は、逃げたいがために……




 俺は今日も馬鹿にされ、殴られ、嘲笑われた。俺は差別されている。同じ見てくれで、同じ場所で生まれたのに、差別されている。一人、差別されている。差別されている。






 だが、差別がなくなれば俺は幸福になれるのだろうか。今まで俺を虫のように扱っていた人間が手を伸ばし、「痛かったね。辛かったね。これからはみんな仲良くしようね」などと言ってきたら、俺はそれを受け入れる事ができるのか。「もう差別はないよ」「これからは平等だよ」と宣う連中を許せるのか。それに、人より劣る俺をどう平等とするのか。奴らにとっての平等とはなんなのだろう。差別ない世界で俺はどう生きていくのだろう。想像がつかない。


 もしかしたら俺は差別に生かされているのかもしれない。誰かから馬鹿にされ、蔑ろにされる事により、社会に俺という人間が構成されて生きている事が許されるのかもしれない。人以下の俺が存在していていいのは、俺が他者より下であり、他者から愉悦の目で見られるためなのかもしれない。


 惨めではあるが、しかし。どこかで納得し、肩の荷が降りた。生きていていい理由が、命としてそこに居ていい大義があるのであれば、俺は引け目を感じずに生きていく事ができるのだ。




 俺は今日も馬鹿にされ、殴られ、嘲笑われた。俺は差別されている。同じ見てくれで、同じ場所で生まれたのに、差別されている。一人、差別されている。差別されている。しかし、それは同時に俺が俺である証でもある。



 俺は今日も差別されている。

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