1-11.拷問でした

「腕枕してあげます。けど、やってみて効果なければそれまでなんで、即撤収です。後のことは知りません。わたしのせいだなんて思わないでください」

「……三隅さんて、いきなり男前になるよね」

「お姉ちゃんにもよく言われます。なんか、ある程度は悩んだり考えたりするんですけど。すぐ、まぁいいかってなっちゃうんですよね」


 段ボールの上にすみれはころんと横になる。

「さぁどうぞ。どんと来い」

「え。と……」

「なに躊躇してるんですか、ひとりで転がってるわたしが恥ずかしいじゃないですか」

「あ、はい……」


 そうっと段ボールの端の膝をつき、戸倉はゆっくり体を延ばした。横向きに寝ていたすみれの視界が彼でいっぱいになる。

 しまった、これじゃあ恥ずかしすぎる。すみれは慌てて仰向けに体勢を変える。


「そっち向いていいかな」

 いいですよ、と軽く答えたすみれだったがすぐに後悔した。またまた戸倉の顔が近い。すみれは無の境地で天井を見上げる。

「ど、どぉですか?」

「うん……」

「思ってたのと違うなら言ってください」

「うん……柔らかいだけじゃなくて、あったかいなって」

 かああっと頬が熱くなる。


 やっぱり無理。「ごめんなさい」しようとしたとき、すーっと穏やかな寝息が聞こえてきてすみれは息が止まった。

 寝ちゃったの? ほんとうに??

 戸倉は腕を組んで横向きにねそべり、すみれの二の腕を枕に眠ってしまっていた。

 拷問だ。泣きそうになりながら、すみれは三十分を耐えきった。





「三隅さん! ありがとう!」

 終業間際になって飛び込んできた戸倉は晴れやかな笑顔で、午前中ゾンビになっていた人物と同じには見えなかった。

 普通にさわやかなイケメンさんだ。そのイケメンさんと社内であんなことを……。

 今度はすみれに死相が出ていた。


「おかげで初めて万全の体調でプレゼンに臨めたよ。気分もすごく落ち着いてそんなに緊張しなかったし。すごいなあ、枕の大切さがよくわかったよ」

 無表情の須崎課長と冷たいまなざしの藤井さんが見守る中、戸倉はすみれの手を握って言った。

「責任はちゃんと取らせてもらう。ずっと大事にするから」

 え。

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ぽっちゃりなわたしの二の腕は訳アリ課長の安眠枕 奈月沙耶 @chibi915

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