第3話・三日目〔最終日〕

 次の日──国光は兼定を保健室に呼び出した。

「保健医の先生に話しをして、場所を貸してもらった……ここなら誰も来ない」

 保健室で、兼定と向かい合って立った国光が静かな口調で言った。

「思い出した……事故に会う前、兼定に言おうと決めていたコトを」


 静かな時が流れる沈黙の後に、国光が口を開く。

「こんなコト言うのは変かも知れないけれど……オレの本当の気持ち……オレ、兼定のコトが好きだ……友だちとは別の意味で」

 無表情で国光を見つめる兼定。

「ごめん、やっぱり変だよな……男同士でこんなのって、兼定が嫌なら拒否しても」

  開いた窓から入ってきた微風が、白いカーテンを揺らす。

 少し微笑んで答える兼定。

「変じゃないよ」

「えっ!?」

「拒否はしない、オレも国光のコトが好きだ……友だち以上に」

「兼定……」

 互いの気持ちを確認しあった、国光と兼定は立ったまま抱擁して唇を重ねる。

「んっ……兼定」

「んぁっ……国光」

 二人はそのまま、ベットに横たわり愛撫で愛し合った。


 数十分後──白いシャツ姿でベットに上体を起こした国光は、シャツのボタンをはめて身支度を整えている兼定を、柔らかい目で眺める。

(ありがとう兼定……幸せにな)

 国光は保健室の隅に目を向けると、静かにうなづいた。

 国光が兼定に震える手を伸ばす。

「兼定、横に座って手を握ってくれ……頼む」

 言われた通り、国光の隣に座って手を握る兼定。

 国光が少し悲しそうな顔で言った。

「温かい手だな……あ・り・が・と……う」

 兼定に寄りかかるように、静かに両目を閉じる国光。

「国光? 国光!?」

 動かなくなった国光の体を何回も揺すり、国光の体をすすり泣きながら抱き締める兼定。

「国光! 国光!」

 国光は二度目の死を迎えた。


 亡骸を抱えて泣いている兼定から少し離れて、たたずむ国光の魂。

 国光の魂の隣には、ねじれた角と黒いコウモリの羽を背中から生やした、若い美形の男色悪魔が立っていた。

 男色悪魔が言った。

「これで、本当にいいのか?」

 答える国光。

「あぁ、もう思い残すコトは無い」

「保健室で起こったコトの記憶を、兼定の脳裏から消してもいいんだな?」

「頼む、兼定の心から……死んだオレのコトは忘れさせてやってくれ」


 男色悪魔が、国光の肩に手を添えて言った。

「おまえの死する運命は決まっていて、悪魔のオレでもそれを変えるコトはできなかった……せめて、綺麗な体のまま死亡させてやるコトがオレができる精一杯だった」

「まさか、ずっと悪魔に魅入られていたとは」


 国光が亡くなった時……国光は現世と来世の狭間で、男色悪魔にあるコトを頼んだ。

 死ぬ前に、兼定に伝えたかったコトを伝えたいと。

 男色の悪魔は指を三本立てて言った。

「生き返ってから三日間が限界だ、それ以上は摂理に反する……その間に伝えたかった気持ちを伝えろ」

 うなづいた国光に、悪魔は叶える願いの対価を求めた。

「願いが叶ったら、オレのモノになれ……それで、いいんだな」

 国光は、悪魔の申し出を受け入れた。


 保健室が霧に包まれ見えなくなった。

 現世と来世の狭間で、魂の国光を、自分の方に向き合わせて悪魔が言った。

「約束した通り、今から国光はオレのモノだ」

 国光を抱き締めて唇を重ねる悪魔。

「んっ……んふっ」

 唇を離した国光が悪魔に質問する。

「悪魔の世界って恐ろしい場所か?」

「それは、おまえ次第だ……さあ、行こう」

 国光は男色の悪魔と手を握って、新たな世界へと旅立って行った。


  ~おわり~

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男同士……おまえに伝えたい最後の言葉〔BL〕 楠本恵士 @67853-_-

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