集結

 プレイヤーたちの四方を囲んだ『最終防衛システム』、合計四機の、各四門――計十六本のAoEにより地面が赤く格子模様に染め上げられ、安置を求めて逃げ惑うプレイヤーたち。


 次の瞬間、赤く輝くビームが乱舞し……やがて収束する。


「……っはあ、皆無事か!?」


 不意打ち気味の初手をやり過ごし、慌てて周囲を確認するクリムだったが……被害はほとんど無し。

 さすがは、これまでのボスを蹴散らしてきた猛者揃いの攻略班であり、等間隔でシンプルなパターンにより構成された簡単なAoEなどに今更遅れを取るようなことはなかった。


 どうやら残光となったプレイヤーは見当たらず、ホッと安堵の息を吐く。が。


「このままだとまずいな、上空の二機から援護射撃を続けられるのは、たまったものじゃないぞ」


 隣で苦言をするフレイに、クリムも頷く。


 見ると、『最終防衛システム』は初撃後、移動を始めている。

 うち半数の二体は、すでにプレイヤーたちの攻撃など届かない高所まで上昇してしまっていた。

 

「うむ、このままではな。じゃが……!」


 現在、この『フリズスキャルヴの高座』は、敵が上空にも展開するためにドームを開放している。ならば……。


 

「――どうやら困っているようね、あんたたち!」


 おそらく拡声器のようなもので増幅されているのだろう、甲高い少女の声と共に、彼方から、十三本、光でできた槍が凄まじい勢いで飛来した。

 

 それが、上空にて砲撃形態を取った『最終防衛システム』の片方、その側面に次々と衝突する。

 

 だが、機体は傾ぎ少々バランスを崩しこそしたものの、その攻撃自体は『最終防衛システム』の直前にて展開された、六角形の光を組み合わされたシールドによって防がれている。


「あ、くっそ、そこはかっこよく一体沈められてるとこでしょうが!」

「……ルビィ、来てくれたか!」

「ふん、あんたたちだけだと心配だからね!」


 クリムの呼びかけに、今ではもう懐かしい『刈り取る者』との初遭遇時に着ていた格好で登場したルビィが、上空で腰に手を当てて、ちょっと偉そうに曰う。

 すると攻略班の中から何人かの「ルビィちゃーん!」とコールが上がったが……まあ、彼女を姫と崇めるオタサーの一員が居たのだろう。

 

 また、彼女を先頭に、次々と別の『刈り取る者』たちも、ルビィ同様の衣装を纏って虹の橋方面からこちらに向けて飛翔してくる。

 

「攻撃、通りませんね。あれは?」

「真竜の絶対防護圏を模倣した障壁のようです。展開時のエネルギー量は、記録にある擬似真竜のものと一致します、最大展開数もおそらくは同一かと。データは共有されていますね?」


 冷静に新たな光槍を出現させて構えるペリドットからの質問に、その隣で滞空していた、巨大な光輪と翼を展開したAWACS形態のエメルダが、状況を報告する。

 

「つまり、ある一定以上の威力をもった十五発以上の攻撃を、一斉に叩き込めばよろしいのですね」


 そう言って、光槍をバトンのように回転させ、ピタリと構えたのはサフィアか。その背後では、彼女と同様に近接型の者たちが槍を構えて滞空している。


「ようやく戦線復帰して、初めての戦闘だ。せいぜいリハビリに付き合ってもらうとしよう」

「絶対に、ぜーったいに無理は禁物ですからね!?」


 光の槍と盾を構え、不敵に笑うディアマント副長に、背後で食ってかかっているのはパールか。

 どうやら、一時は絶対安静と言われていたディアマントもすっかり完治したらしく、クリムとしてもホッと一安心というものだ。


「エメルダちゃん、私は演算をサポートするね」

「ええ、よろしく、カトレアちゃん」


 こちらは、仲良く手を繋いで飛行するカトレアとエメルダ。その二人を護衛するように随伴するのは、ルビィとペリドットを含めた砲戦仕様の者達だ。


「とりあえず、このガラクタどもをぶっ飛ばせばスピネルは返してくれるのよね。お姉ちゃんとしては、やってやらない訳にはいかないでしょ」

「ええ、お師匠様としても、今回ばかりは泣き言を言っている場合ではないですね」


 そう言って並走する二人は、周囲に空間の歪みを生み出し、そこから巨大な砲身を無数に展開する。

 

「それでは……これが、私たち『刈り取る者』としての最後の任務となるでしょう――皆、新天地での生活を送る上での不安要素、我らが名前通り刈り取りますよ!!」


 一際大きな光槍を構えて先頭に立ったガーネットの宣言を受けて、展開した『刈り取る者』たち十三人が、二機の『最終防衛システム』と入り乱れて、上空で交戦を開始した。



 

 上空で入り混じり放たれる、無数の火線。

 まるで花火か流星群のような輝きを背景に、高座にいるクリムたちもまた、改めて低空に残った『最終防衛システム』と相対する。


「……と、増援が来てくれた訳だが。あれは、お主の試練的にはアリか、ナシか、どちらかの?」

「許可しましょう。彼女らの信頼を得られたこともまた、あなた達の培ってきた力の一部と認めます」

「では、この期に及んでお主の期待を裏切る訳にはいかんな」

 

 そう、愉快そうに告げるイァルハに、クリムもまた不敵な笑みを浮かべ、プレイヤーたちの方を振り返る。

 

 今更、指示を出すまでもなく、すでに役割分担を自主的に済ませて二機の『最終防衛システム』前に分散し展開している攻略班、総勢五百名以上。


 そんな彼らに向けて、クリムは大きく息を吸い込んで、声を張り上げ号令を下す。


「では、我らも行くとしよう! これで長かったこのグラズヘイム攻略も最後じゃ、上で協力してくれる彼女らに、この星の代表として遅れをとるでないぞ!!」


 そのクリムの号令に、プレイヤー一同から、戦場に盛大な鬨の声が響き渡るのだった。


 

 


【後書き】

年末は色々予定が重なるため、本年中は最後の更新になると思います。来年も、よろしくお願いします。

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Destiny Unchain Online 〜吸血鬼少女となって、やがて『赤の魔王』と呼ばれるようになりました〜 @resn

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