第7話 洗脳の殺し屋

 カリザキ霊媒場

 様々な相談者が足を運んでは〝除霊〟をして貰うというこの施設では、スタッフを設けずただ一人の霊媒師と名乗る男が施術を行い切り盛りをしていた。


「……はぁっ‼︎」

どんよりとした女性の姿が一気に晴れやかになり、快活な表情を取り戻した。


「..もう大丈夫だ、カラダが軽いだろ?」


「はい! すっかり元気です‼︎」

規定された金額を机に置き、男に礼を言う。


「有難う御座いましたっ!!」


「お大事に。」

頭を下げると扉を開け、外へ出ていく。


「お疲れさんですね、先生♪」

すれ違い様に、新たに男が中へ入ってきた。


「何用だ麻松。

客として来た訳では無いだろう?」


「流石、わかってんね先生。

だったらハナシは早そうなもんだけど」


「勧誘ならお断りだ、キナ臭い話は特にな」


「かー! 誰が言ってんだよオイっ!!」

額に手を当て腹を抱えて笑い上げる、スピリチュアルの類はお気に召さないようだ。


「用が無いなら帰れ」


「だぁからあるんだっての!

第一さ、霊能者名乗ってんのに〝殺し屋〟やってんのってなんかおかしくねぇか?」


「..詐欺師がいうな。」


「詐欺師じゃねぇ〝マジシャン〟だオレは!」

しなやかな腕はカードを切る為のもの。

間違えても札束を数える為の繊細さではない


「似たようなものだ、鼠工め。」


「勝手に悪さのグレード上げんな!

てか同じ意味だろそれ殆ど!」

殺し屋にも様々な種類がいるが、詐欺師と平行する者は余りいない。騙し取らなくても殺しの額がそれを上回るからだ。


「話くらいは聞いてもいいだろ?」


「お前と組む気は無い、所詮利益を効率よく獲得したいだけだろう。」


「違うんだなそれが、オレの頼みじゃないぜ?これは〝ボス〟からの指令なんだよ」


「‥ボスからだと?」「流石に反応するよな」

ピクリともしなかった坊主頭の男の目元がギョロリと動いた、額には汗を流している。


「オレたちに狙って欲しい標的がいるらしい。名前は....黒豹のトライブ。」


「黒豹の、トライブ...」


「他の連中にも話は付けてあるぜ」


「まさか、アイツも来るのか?」


「アイツ...あーあいつか、来るぜ。

そういやお前苦手だったっけなアイツの事」


「苦手では無い、嫌いだ。」「はは、いうね」


忌み嫌われる〝アイツ〟は既に、ターゲットとなる獣の元へと接触していた。



「これが見えるか!」


「..お前のバカ面か?

おかしな化粧で素顔はわかんねぇけど、ていうかなんでピエロなんだよ。」


「顔じゃない! こっちだ!」

垂らした硬貨を指差して道化師の装いをした男が怒鳴りつける。


「あん、なんだよそっちか。

五円玉ブラブラ揺らして...暇なのか?」


「暇なワケあるか! 絶賛お仕事中だ!」

五円玉の揺れが加速する

感情と比例して幅が拡がっていくようだ。


「サーカスの出し物か、くだらねぇ。

そんなもんでガキが喜ぶワケねぇだろうが」


「うるさいわ!」

怒りにまかせお手玉を放り投げる。

街中である事から容易に銃は取り出せず、素手で軽く捌く事にした。しかしそれが悪かった


「痛って..!」


「ダッハーッ! 引っかかってんノー!

針千本お手玉爆弾ミゴトに大爆発ってナー!」

手元で破裂したお手玉は無数の針を吐き出しトライブの身体を傷つけた。


「姑息な事しやがる..」


「これでもごアイサツだけど?

本当なら腕なんて無くなってただろうナ!

初対面のテカゲン感謝しろバーカ!」


「調子乗るなよ馬鹿ピエロ。」


「…え?」

道化師が赤く染まっている。

それを自覚した辺りから、徐々に痛みが伝わり〝弾丸を受けた〟という事実をつたえた。


「いっテェッ〜!!

なにしやがんだてめぇコラァッ!!」

転げ回り無様に痛みを実感する道化師を見下ろし改めて銃を構える。


「街中でおかしなもん投げるからだろ?

..こっちだって痛い思いしてんだお互い様だ」

言いながら深く針の刺さる腕を下へ落とす。


「……へっ!?」

転がる腕を見て目を見開く。


「義手だけどな」

トライブの腕はしっかりと生え揃っている。床に転がる偽物の腕を脚が蹴飛ばし吹き飛ばす


「吹っ飛ばされる想定で作ったが、まさか針仕込んでただけとはな。」

様子見などするべきではなかった、催眠術に気付かない男が人の配慮に気付く筈も無い。


「こっちも打ち込んでやらねぇとな。」


「ひっ..ひぃぃーっ!!」

悲鳴に重なり響く銃声、鳴り止む頃には全てが終わっていた。情け無く無惨な死体がカラスに突つかれ嘆き苦しむ。


「..弾の無駄遣いだ、元も取れやしねぇ」

殺し屋が最も嫌がる仕事。

それは弱者を殺める事では無く、時間のかかる案件でもない。


まるで金にならない仕事だ。

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