第6話 パワハラに御用心。
殺しの標的に連続する形で依頼を頼まれたジャスティスとニックだったが、指示通り教えられた道を辿ると行き着いたのはとあるビルの前だった。
「…ここって、どう見ても会社だよな?」
〝
「油断するなよ、城というものには主の思想が強く込められている。この高さから察するに、世界を獲るつもりとも考えられる。」
「世界って..企業は大概取りたがるだろ。」
大雑把なイメージを持ちつつ今回も正面から堂々と入る。
「頼もう!」
「道場破りかお前は」
「違う、我は勇者だ!」
「どっちでもねーだろ?」
自動で開く扉を抜けるとシンプルなロビーがあり、奥に受付。端には2階へ続くエレベーターが存在する。分かりやすく会社の中だ。
「御用件は?」
受付嬢が事務的な口調で問いかける。
「オブラーって奴はいる?
..それよりお姉さんかわいいね、彼氏いる?
連絡先教えてよ!」
「…はっ倒しますよ?」「怖っ..‼︎」
軽快な誘いは鋭い視線に殺された。標的でも無い相手に失敗るとは、随分と幸先が悪い。
「居場所はわからないか?」
「分かりますよ、社長室ですね。
只今既に〝我が主〟が向かっております。
こちらのカードキーをお使い下さい。」
「我が主?
オリバーが社長なら、主はオリバーだろ?」
「……。」
返事をしない、しかしこれ以上聞けば思い切りはっ倒される可能性があるので容易に言葉を紡げない。結局連絡先も聞けぬまま受け取ったカードキーで社長室に向かう。
「..16階か、高過ぎねーかここ。」
「魔王め、貴様の好きにはさせんぞ!」
「あの女...オレらを見てるようで見てなかった。どっか覇気が無いってーか..。」
遠い目をして闇の中に居た、そんな感じだ。洗脳とはまた違う、崇拝に近い雰囲気。
「....むぅっ! 全然進まん!!
なんだこの窮屈な箱はっ!!」
「エレベーターに文句付けるなよなぁ?
..まぁわかるけど。」
只今八階、あと半分の辛抱だ。
最上階・社長室
広く大きな頂上の部屋は、物を無くせばより広く見晴らしが良くなる。
「フ〜ン、フンフ〜ン..うふふ♪
さぁてどう死にたいかしら?」
「んー! ん..んんぅっ!!」
蝋燭が立てられ道を作った薄暗いカーテンの閉めきられた部屋で、男が口を塞がれ手足を拘束されながら涙を流して狼狽えている。
「あら、逃げる気? ダメよ?
アナタが恨みを買ったのが悪いんだから、そもそも逃げれるような場所無いでしょ。」
眼鏡を掛けたリクルートスーツの女が纏めた鞭を指で弾きながら眼前でニコリと微笑む。
「んー! んんっー!!」
「うるさいわね、何が言いたいのよ」
余りに叫ぶ男に腹が立ち、口を覆っているガムテープを思い切り剥がした。男は暫く痛みに悶えていたがその後直ぐに口を開く。
「お前...何のつもりだっ!?
こんな事をして..ただで済むと思ってるのか!
ここは私の会社だ、どうやってこの部屋に入ったかは知らんが直ぐに警備の者がお前を追ってここへ来る!」
怒りの丈をぶちまけた。突然部屋に侵入し、拘束され目の前で「殺す」と言ってくる。無礼に留まらず狂った振る舞いだ。
「来ないじゃない、そんな人。
ここに来てまぁまぁ経つけど、それに言ってくれたわ。受付の人もアナタのいう警備の方も、〝お通り下さい〟ってね。」
「..なんだと? そんな筈は..。
貴様、一体何者だ! 誰に雇われた!?」
問われた女は短い髪の毛先を掻き分け不敵な笑みで男を見下しつつ、応える。
「ツメが甘いわねぇ..アナタが築いた社員や他の信頼なんて、私が壊せないと思う?」
「どういう意味だ!」
「いい?
仕事というものは己のテリトリーを確立させてから行うものよ、まぁ簡単に言えば..この場所はもう既に私の支配下って訳ね。」
キラーズ・デリバリー
〝クイーン〟エキドナ・ズ・リペイン
環境総てを支配下とし、拷問を加えた上絶命させるサディストの女王。
「さぁ..どこの関節を壊されたい?」
「うひ..ひっ、ひぃぃっ...!!」
最早救いは無い。命を諦めたその時
『ウィーン..ピンポーン』
「...誰?」
エレベーターが到着し、中から二人組の男が部屋へ踏み入る。
「暗ッ! なんだこの部屋!
趣味悪りぃ〜..社長室ってこんな感じなのか?」
部屋に直結しているエレベーターを降りれば直ぐに社長の元へ辿り着く。薄暗い部屋に蝋燭の道、奥にはしゃがむ人影が。
「ニック、誰かいるぞ。
魔物かもしれん、用心を怠るなよ?」
「.,社長室に人がいるってそれ、社長以外になんか可能性あるのか?」
「そうなのか?
だとすれば..社長というものは強引だな、ああやって皆武器を所持しているのか?」
「ん、武器..」
正面を改めて見ると、しゃがんでいた人影が立ち上がり、鞭を持ってこちらを鋭く睨みつけていた。
「..おい、あれ社長じゃねぇ!」
「なら誰だ?」
「決まってるだろ、同業者だよっ!!」
凄まじい速さで駆け寄り鞭を振るう女の一撃を、勇者が咄嗟に剣を引き受け止める。
「..なんだ、アナタ達も武器持ってるの?」
「当然だ、私を誰だと思っている。」
「知ってるわよ。〝勇者ジャスティス〟に、アナタは..なんだったかしら?」
「ニックだ! ダンサブルニック!
ていうかアンタ女かよっ!?」
勇者の剣でも断ち切られない硬度の鞭を、短剣のような身のこなしで扱う戦闘スキル。
「この女..かなり強いぞ。
ニック気をつけろ! 死ぬなよ⁉︎」
「死ぬかっ! ていうかちげーんだよ!
オレたちはここに依頼を受けてきたんだ、ソイツを殺ったら直ぐに帰るからよ!」
「…あら、そうなの?
てっきり私の邪魔をしにきたのかと。」
誤解を解くと、腕をピタリと止め平静に戻る。
戦闘をやめた事で、女の奥にいる縛られた男の存在に漸く気付いた。
「あれがオリバーか?」
「いいえ、オリバーは社長。
あれは代表取締役、私の標的よ?」
「…なんだかよく違いがわかんねぇけどまぁいいか、オリバーはどこだよ?」
「ここよ。」
部屋の隅のロッカーを開けると同じく口を塞がれ手足を拘束された男が飛び出した。
「お前が魔王か!」
「んー! んんっー!!」
「おいおい一人で殺すなよ?
取り分ちゃんと二人分でわけるんだからな」
事前に頂いてはいるが、貰う額が均一で無ければ割りを食う。しっかりと分けねば。
「そっちは任せたわよ?
私は、この男をたっぷり可愛いがるから..」
「な、なんなんだお前らはぁっ!!」
「決まってるでしょ?」
「殺し屋だよ。」
「違う、我は勇者だっ!!」
出会うのはバラバラ、殺すのは一緒。
そこに感情も思い入れもまるで有りはしない
「ふぅ..。
あんたエグいな、どんだけ弄んでんだ?」
「早い段階で息をしていなかった..貴様、もしや悪魔か! いや...魔物の類かもしれんな」
一突きの勇者やニックと異なり散々いたぶり時間を掛けながら殺すのが女王の流儀。
「殺し方なんて決まっていたかしら?
ルールが無ければ好きにすればいいの、まぁこの世界では私がルールだけどね。」
「おっかねぇ女..震えるぜ。」
自己中を超えた個人主義、報酬以前に殺しを心から満喫しているのがわかる。
「…もしもし、後片付けお願いね。」
『はい、エキドナ様。』
「何処に電話を掛けてんだ?」
「部下よ、即席だけど。」
死体のポケットから電話を掛けると床に落とし、踏みつけた。無機質な機械の破片が細かく散らばり、床を汚している。
「終わったわ、報酬お願いね。」
今度は自らの端末を取り出し電話を掛ける。
「あ、オレらも報告しなきゃな」
「..また一つ、世界を救えたようだ。」
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