第5話 勇者とチャラ男

 殺し屋は基本隠密の孤独な仕事だが、バディを組んで仕事をしたがる者もいる。それは単純に効率の良い仕事を行う為、数多く揃えた方が良い仕事を貰える為と様々な理由からであるが中にはやむを得ず〝組まなければ〟ならなかった者も少なくは無い。


「ここか、依頼の現場ってのは!」

茶髪の毛先をハネさせた今風の見た目の男が首に下げた趣味の悪い首飾りを揺らしながら古ぼけた城を眺めながら言う。


「ここが魔王の城か?

魔術を多く使うなよ、回復も怠るな。」


「またそれかよ、いつでも言ってんじゃん。今日たまたま都合よく城だしよ」

腰に剣を下げた鎧姿の男が真剣な顔をして茶髪の男に忠告する。


「仕方があるまい、勇者に転生したからには世界を救うしかあるまいし。常に危険を伴う戦いにお前を巻き込んでいるのだ、命を預かっている身としてお前の事は護りたい。」


「殺し屋が何を言ってんだ。

..つーか一人で手続き出来ないだけだろ?

ターゲットは資産家のオッさんだよ、城に住む資産家なんか聞いた事無ぇけどな。」

古い城など殆ど廃墟と変わらない、もしくは風呂の付いたボロアパートだ。金が有り余る程懐に有ろうとやはり承認は欲するようだ。


「魔王デスゴルドか、手強いな..。」


「どんなヤツか知らねぇだろ!」

彼の中では悪のイメージが浮かんでいる、殺しはあくまでも正義の形。闇に堕ちた世界を救う一つの遣り方に過ぎない。


「こっちだ、事前に裏口を教わってる。

正面から入ると数がメチャメチャ増えるからな。オレたちは殺し屋だ、バレたらいけねぇ裏方の遣り方で...ってあれアイツ何処だ?」


「頼もうーっ!!」「……まさか。」

正門が音を立てて開く音がした、折角距離を取り迅速な抜け道を見つけたというのに全てを打ち壊す勇者の正義感。当然相手方はこちらを一斉に振り向く。似たような鎧を着た警備の兵隊達、類は友を呼ぶのだろうか。


「貴様、何者だっ!!」


「我が名は勇者ジャスティス!

貴様らの主、魔王デスゴルドを打ち倒しに来た。勇気のある者は剣を抜くがいい!!」


「あのバカッ!! 何やってくれてんだ!」

天井を伝い、二回の天窓から入る予定が正面突破を余儀なくされた。仕方なく天井から降り城の前にて加勢する羽目に。


「おいこらジャスティスッ!!

何勝手な事してんだテメェは、お陰で手間が増えちまったじゃねぇかっ!」


「む、貴様も仲間か! 手間が増えただと?

エルポス様を狙っているのか!!」

 資産家エルポス、依頼内容に記されていた名前だ。茶髪の男はスーツを着ているが、傍にいる鎧男のせいで殺し屋であるという可能性は限りなく消している事だろう。


「済まぬニック、手を煩わせる。

共に危険を伴わせる事を、謝罪させてくれ」


「はっ、今さらか?

まぁいいって事よ。いってもこういう状況、嫌いでもねぇんだよねオレってよ‼︎」

背中合わせで中心で兵隊達に囲まれる。兵隊が剣を構えるのと同時に、ジャスティスも腰の剣を抜いて刀身を煌めかせる。


「..ほう、我々相手に剣技で攻めるか」


「他に何使うように見えたんだ?」

あからさまな鎧のヒントはそれを見る相手に〝そんな筈は無い〟と思わせる。素直な心で挑むのはそれこそ勇者くらいだろう。


「そういう貴様の武器は何だ?

見たところ拳を構えているが、見るに堪えないその骨身が素手を振るうとは思えんな。」


「両脇で話すなよオッさん、どっちが隊のリーダーなんだ?」

金の鎧が二人、ジャスティスとニックの目の前に立ちはだかり、他の兵士はギャラリーのように円で囲んでいる。


「どっちでもいいか。

それよりオレの武器が知りたいか?

..そうねぇ、取り敢えず一緒に踊ろうぜ。」

ヘラヘラとした軽快な態度に硬い男は苛々を募らせる。安心しろ、それが普通の感覚だ。


「ふざけるな、かかれっ!!」

二人に呼応し兵士が一斉に剣を握り中心のゴロツキ目掛けて攻め入る。


「ふざけてねぇって、オレこう見えても結構マジメよ? 相方がこんなんだからさ!」


「まったくだ。」「..意味わかってる?」

右足のかかとから突出した仕込みナイフが次々と兵士を斬り刻む。拳は使わない、寧ろ地べたを這いつくばり足のような振る舞いをしている。


「この男..踊りながら兵を斬っている、舐めた真似をしおって...首を落としてやる!!」


「武器知りたいって言ったのアンタだぜ?」

専らブレイクダンスが主流。それ以外は地味だと頑なに踊らないが、単に遣り方を知らないだけだ。


「雷神剣....大帝っ!!」

大声で思いきり剣を振るうだけの技だ、彼曰く伝説の剣でのみ行える秘技らしい。


「凄い力だ..!

これほどの剣技を扱うこの男...貴様何者だっ!」


「我が名はジャスティス!

この地に舞い降りた勇者なりっ!!」


「勇者..だと...!?」


「ちげーよ、ただの殺し屋だ。」

キラーズデリバリーのチラシを見せて自己紹介する、初めからこうすればよかったのだ。


「殺し屋..! やはりエルポス様を!」


「そうだよ、いい加減察せよな。

...ジャスティス、決めるぜ?」


「いいだろう、連携技だな?」

振り乱れる脚と剣、竜巻の如く円を乱し見える標的に細かく刻み斬り傷を付けていく。


「...なっ、にぃ..。」

鮮血が兵士の山に降り掛かり金の鎧が赤に染まり汚される。


「ブレイクスルーラッシュ!!」


「ただ剣振り回して横で踊ってただけだろ。

勝手にそれっぽい名前付けんな」

雑魚は堕とした、後は魔王デスゴルドのみ

伝説の剣は刃毀れ一つしていない。


「気を付けろ!

..まだ中に魔物がいるかもしれない。」


「いねーよ、こんだけ古びた城だ。

外に配置するだけで中のケアまでしてねーよ、中にいるのは標的だけだ」


「……抜ける床とかハリの天井とか..」


「ねーよ! ただの家だぞ!」

恐る恐る入ってみると言葉の通りもぬけの殻だ。用意したにしては兵士の鎧が高価に見えた、一国の主でも無い古い廃墟のような城に住んでいる個人的な資産家が己以外に金を無駄に使う訳も無い。鎧を新調するのであれば内観のリフォームをするだろう。


「どっかの隊から適当に強そうな奴雇っただけだろな、家の中がこんだけ煤けてりゃ..」


「階段があるぞ。」

目の前の階段を登りますか?


はい←

いいえ


「普通に聞け! 勿論〝はい〟だっ!」

部屋同様煤けた階段を登ると二階の大きな部屋へと辿り着く。天井には大きな天窓、奥の高い椅子に大柄な男が座っている。


「天窓...教わった通りならホントに直ぐだったんだな、マジでしくじった。絶対オレのせいではないんだけどな」


「貴様が魔王デスゴルドか!」


「自由だよなお前ってホントに。」

聞こえないフリでは無い、鼓膜が常人とは別の次元に存在するのだ。


「……デスゴルド?」


「..じゃねーのは知ってるけど、殺すぜ?」


「…あぁ、テメェらが雇われ暗殺者か。

どうせオブラーの野郎から頼まれたんだろ」

端末に届いた依頼メールを確認する。

確かに差出人は〝オブラー〟と記載されている、殺しを自覚しているにしては随分と焦りが無く逃げる素振りもまるで見せない。


「アンタがエルポスで合ってるよな?」


「あぁ、そうだよ?

大富豪エルポス、といっても泥棒だけどな。この城も兵士も盗んだ金で繕ったもんだ、だからオブラーが怒り狂ってんのさ。」


「…成程な。」

大概合点がいった、依頼主のオブラーから盗んだ資金で兵を雇い城を築き上げた。しかし元々が盗賊だ、しっかりと己の領域を組み上げる事までせず大雑把に振る舞っていた。


「そんな所だろう」「お前が説くのかよ。」


「アンタら殺し屋なんだろう。

…これで足りるか?」

掌の上で見せているのは大量の重なった札束、「見逃してくれ」とでも言うつもりなのか。


「..それ、いくらあんのさ?」


「160万だ、これで殺して欲しい奴がいる」


「魔王が正義を問うか、馬鹿馬鹿しい。」


「おれの事は殺していい、もう生きる意味も無ぇ。金持ちになってもつまんなかったしな、ただ一緒に冥土に引きずり込みてぇ奴がいる」


長らく夢見た資産家も酷く退屈なものだと理解した。もう思い残す事は無い、怨み以外に。


「誰だ?」


「……決まってるだろ、オブラーだよ...‼︎」

憎しみ返し、殺しに次ぐ殺しの連鎖。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る