第5話 記憶

 持ってきたよりも多くのお土産を持たされ、僕は実家をでた。

 姉の幸恵は南海本線の天下茶屋駅まで送ってくれた。

「また帰ってきなさいよ。広志も楽しみにしてるんだから」

 車を降りる僕に姉は言った。


 電車に乗り、僕は帰路についた。

 独り暮らしのマンションに戻ると賑やかな実家がどこか懐かしく思えた。

 名古屋に帰り、一週間ほど過ぎたころ、滝本からEメールが届いた。

 仕事を終えた僕は自室でそのメールを読むことにした。

 

 面白い記事を見つけたからこれを送るよ。たぶんこれがお前が言っていた幼馴染みに関係することだと思う。でもな、忘れていていい記憶ってのはたしかにあると思うんだ。だからそこまでして知りたいと思わなければ、このメールに添付されたファイルは開かずに消してしまってくれ。


 メールにはそう書かれていた。

 そんな思わせ振りなことがかかれていたら逆に好奇心がわいてくるではないか。

 僕はそのメールに添付されたファイルを開いた。

 ファイルの中身は昔の新聞記事だった。

 日付をみると今から二十年近くまえのものだった。

 その記事の内容はある誘拐事件に関するものだった。

 僕の実家の近くで起こった事件であった。

 連続して幼い少年少女が誘拐され、性的虐待を受けた末に殺されたというものだった。

 被害者の一人の名前が蛍光ペンでぬられていた。

 それは滝本がぬったものだろう。

 その塗られた名前は三津谷葉子とあった。

 ああ、そうだみっちゃんの名前だ。

 ミツヤヨウコそれが彼女の名前だ。

 みっちゃんの記憶がなぜとぎれているのか。

 彼女が卒業アルバムになぜのっていなかったのか。

 それは誘拐犯に殺されたからだ。

 記事には犯人は公園で遊んでいる児童をねらい、一人になったところを誘拐していたという。

 そうか。

 みっちゃんはかくれんぼで一人になったところを誘拐されたんだ。


 僕は記事を読んでいて何か違和感を覚えた。

 記事には被害にあった子供たちの顔写真がのっている。

 そのうちの一枚がどうにもおかしい。

 その写真の下には三津谷葉子ちゃんと書かれていた。

 そうだ、これはみっちゃんの写真だ。

 その写真が動いているように見えた。

 僕はその写真を拡大した。

 口がごもごも動いている。

 なにか話している。

 僕は震える指でスマートホンにイヤホンを指した。

 すると少女の声が聞こえた。

 その声はあの児童公園で聞いた声と同じものだった。

 聞き取りにくかったので音量をあげた。



「やっと見つけてくれたね、コウちゃん」

 少女はそう言った。




 

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亡くした記憶と幼馴染みとかくれんぼ 白鷺雨月 @sirasagiugethu

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