作者がフランスのワイナリーで経験した、数々の経験を綴った紀行エッセイです。
……だけではなく、エピソードごとに一本ずつワインを取り上げ、紹介とともに料理まで用意し、ワインとのマリアージュを堪能させてくれるグルメエッセイでもあります。太っ腹!
私はお酒が飲めなくて、ワインにも詳しくありませんが、美味しそうな料理と現地での貴重な経験の数々に、毎回惹き込まれました。
現地の人たちとの出会いと別れ。ワイン作りに関する知識。よい葡萄を作るための苦労と心意気。
読むうちに、温かで真剣な、ワインに携わる人たちの思いが押し寄せてきて。
それらすべてがこのエッセイにぎゅうっと集められ、熟成していくような感覚を覚えます。
さらに、作者自身が流した汗と熱い思いが加わって、ここでしか味わえない、極上のマリアージュが結実していくのです。
ワインがお好きな方も、そうでない方も。
この一作、どうぞじっくりとお召し上がりください。
『カミーノ・チニ・オボレール
2021
デ・パナーシ』
こちらは大人向けのエッセイジャンルという位置づけであり、
その中でも高品質なワインエッセイである。
では、さっそく読んでみよう。
読み口は軽やかでフルーティー、だが読み進めるにつれてどっしりとした芳醇な香りが広がる。
果実味を感じさせるみずみずしさと、経験に裏打ちされた観察眼のマリアージュが素晴らしい。
●●●
と、読んだ人にしかわからない冒頭はこれくらいにして。
エッセイはどれも同じ構成で書かれており、冒頭にワインの紹介がある。
その味わい、香り、特徴などが見事な表現で描写され、ワインの魅力が伝わると同時にとにかく飲んでみたくなる。
続くのはワインに合わせる料理。それがまた鼻孔をくすぐり、空腹を刺激してくるのだ。
しかも各国を旅した著者ならではの、多国籍な料理の数々がまたとにかくおいしそうなのである。
しかもこれすら前菜。
本文にあたる後半からは著者のワイン修行の日々が描かれる。それこそ本当に多数の国をまわり、ワイナリーで働き、世界を旅してまわった経験が素朴に語られる。
ワイン造りのこと、ブドウのこと、畑のこと、ワイナリーの仕事。
旅した国々で出会った人々、異国の空気感や国民性、独特の美味しい料理の数々。
美しい女性たちもたびたび登場するが、こちらはあまり甘い話にならなかったり。
とにかくこの本編が異世界を旅するように魅力的なのである。
著者が旅して実地に経験してきたワイン造りの日々。
さまざまな人生が交錯する数多の人々との出会いと別れ。
それらが混然一体となって見事なエッセイに昇華しています。
読み口は軽くとも、芳醇な味わいが舌に残るそんなエッセイです。さらにノートでは本編に登場する料理の写真があり、その日に飲んだワインの解説がありと、とにかくいろいろと楽しめる作品です。
ワインがすでに好きな方はもちろん、興味がある方はぜひ!
きっと世界が広がりますよ!
美味なるワインと、ワインに相性抜群の料理達。そして、作者様がフランスで過ごされた経験談とで構成される味わい豊かなエッセイです。
1話ごとに紹介されるワイン&料理は表現力豊かに描写されており、その度に食欲がダイレクトに刺激されてしまいます。そして、それに続くフランスでの作者様の経験談がまた何とも魅力的。異文化ならではの明るく陽気で解放的な空気に、自分たちがいかに日々せせこましく息苦しい空気を吸って生きているのかを痛感させられます。
こんなふうに大らかに人生を楽しむことを、私たちは忘れているというか、そういう楽しさを全く知らないというか。せめて日々を生きる心の持ち方だけでも、何か少し変えてみたい。そんなことを思わせてくれる、広々と豊かな空気が作品に満ち溢れています。
生きることは、悩みや苦しみがひっきりなしに続くけれど、だからこそ生きる事に楽しさを見出すべきだ。もっと大らかに積極的に。
この国ではなかなか感じることのできない豊かな空気をたっぷりと堪能できる、明るい太陽の匂いのするエッセイです。