第115話
* * *
このようなことは、真っ先に家臣になった側から問わなければならない。
どうせみんな建国貴族になるだろう。だからセレナはこちらが最も公平だと思った。
彼女が真っ先に会ったのは、ハディンだった。
当然王位につくべきだという答えを聞き、セレナはベンテを訪ねた。
セレナと二人だけで面談した時、ベンテは目を合わせることができなかった。
彼の目線は宙をさまよった。
顔が真っ赤になり、どうしていいかわからない様子がベンテらしくなかった。
「二人で話すのは初めてですね」
「はい? はい、はい!」
ベンテは三度も答えながら頭を掻いた。指が自然に後頭部を掻いた。目は相変わらずセレナの顔ではなく、何の関係もないテーブルの方に向けられていた。
ベンテはセレナの美貌に魅了されてチラチラと見るだけで、まっすぐに目を向けることもできず、狼狽えていた。下心のようなものではなかった。ただ純粋に圧倒されたという感じというか。
「一つ訊きたいことがあって、お呼びしました」
そんなベンテにセレナが本論を持ち出した。
「え、何ですか? いくらでも聞いてください。ハハハ!」
「エルヒン様が王になることについて、どう思いますか? ベンテ様はエルヒン様を天として尽くす準備ができていますか? 王は天も同然ですからね」
セレナの質問に、ベンテは目を瞬かせた。
だしぬけにスケールの大きい話をされてもじもじしていたが、彼の答えは決まっていた。
まもなくベンテの口が開いた。
「私は馬鹿です。しかし、これ一つだけは絶対に変わりません。閣下が私のような者を見出して重用してくれた時から、すでに主人は閣下だけ。その名称が閣下になっても殿下になっても陛下になっても、関係ありません!」
「そうですか?」
ベンテは強くうなずいた。
セレナは微笑んだ。
そうして考えた。
もう作り笑いはしなくてもいいと言ったけれど。
いや。今は、確かに作り笑いではなかった。エイントリアンのしつこさがただ嬉しかったからというか。
やはり自分と父親が好きだった物語の主人公らしかった。
ベンテと別れた後、セレナが次に会ったのはユセンだった。
彼女が知る中で最も重要な人物であり、多くの功績を残した男だった。
彼女もまた尊敬する人だった。
「突然お呼びしてすみません」
「いいえ……。それより、エストレンのことは本当に残念でした」
見せ掛けではなく、本気でそう思っているのがセレナにも感じられた。
ありがたくなったセレナが、自分も慌てて頭を下げる。
「ありがとうございます。もう忘れたので、大丈夫ですよ」
「そうですか」
「それより今日は、大事な話があって伺いました。エルヒン様がこれから王位に就くべきだと思いますが……ユセン様はどうお考えですか?」
「それは当然の流れでしょう。いつか閣下がこんなことをおっしゃいました。最高になると。そして、ついてきてくれた部下たちもみんな最高にしてやると。それを聞いて、私はここまでついてきて閣下に従っているのです。その意志を受けて、最高になるために、そして私に従ってくれた部下たちもみんな最高にしてあげるためにです」
「そんなことをおっしゃっていたのですか?」
ユセンは微笑んでうなずいた。
そして、一言付け加えた。
「だから、私の答えは一つです」
「私も同じです」
ユセンと一緒にいたギブンもそう答えた。
セレナは再び笑った。今回もやはり嬉しかった。
彼は偽りの笑みを浮かべるなと言ったが、エイントリアンに来てからはその必要はなくなった。
ただ、心から笑みがこぼれた。
偽りの人生を生きたエストレンとは違って。
嬉しい理由はひとつだ。
自分に尊敬する気持ちを抱かせたように。
あの人は部下からも一様に慕われていた。
自分の偶像は、やはりみんなの偶像だ。
その次にセレナが訪れたのはジントだった。いや、ジントを探そうとしたが、引き返した。
彼女の頭の中にいるジントは、他の言葉を必要としない男だ。
それでもとりあえず任務は完遂しなければならなかったが、そのためにはむしろジントよりはミリネに会った方が良いと判断した。
「セレナさん!」
ミリネはそんなセレナに向かって走ってきた。
「ミリネ、突然来てごめんね。忙しいでしょう?」
ミリネはいろんな本を開いて悩んでいた。
「ううん。こっち、うわっ!」
そして、本の山が崩れて床に散らばった。足の踏み場もなくなってしまった。
「えへへ、ごめん……こっちはダメね。あっちへ行こう」
ミリネは頭を掻きながらセレナの手を取って外に出た。建物の外にはベンチがあった。
「それで、どうしたの?」
「エルヒン様が王位に就くことについて、どう思う?」
セレナはやはり単刀直入に聞いた。
「え……?」
ミリネはかすかに首を傾げた。
「そんなことは私、わからないよ。でも、セレナさん。ジントと私はエルヒン様に死ねって言われたら死ぬよ。へへっ」
笑いながらそう言うミリネ。笑いながら言ったが、目には真心がこもっていた。セレナはこれ以上問い詰める必要はないと思った。
次に訪れたのは、フィハトリだった。
「そのことは前から考えていました。あの時のことを悩んでいましたが、南ルナンが崩れた今がちょうど良い時期だとは思います」
「そうですか」
こっちは最初から計画があった。
「勢力は完璧に準備され、閣下は王の器です。あの方が王の器でないなら、一体大陸には王の器と言える方がどこにいますか?」
フィハトリは、ローネンの陣営から出て彼に従うことにした時から、すでにそう思っていた。しかも、エイントリアンの直系だ。古代王国の復興という大きな名分まであった。
いかなる名分もないローネンとは、天と地ほどの差のある正統性のある建国だった。
「そしてですね……」
さらに、絶えず国家論を展開し始めた。あまりにも真剣だった。セレナは、今度は笑うことができなかった。
そのまま聞いていると夜が明けそうだったからだ。
彼女は言い訳をしてやっとの思いで抜け出し、今度はエルヒートを訪ねた。
「ハハハハハハハ! 当然のことではないか。無駄なことを聞くな。俺はすでにそれを知っていて忠誠を誓ったんだ」
「そ、そうですか」
エルヒートは非常に豪快だった。
彼女が思ったとおり、誰も反対しない。少しの躊躇いも見せる人がいなかった。
しかし、それでも彼女が最後まで会えなかった人がいた。
ベイナとヴォルテールまで会ってみた彼女だが、最後まで会いに行けなかったのが一人。
ユラシアだった。
結局ぶつからなければならないことだったので、セレナは固く決心して足を運んだ。
しかも、二人は王宮に住んでいた。
さらに、同じ外宮だった。
目と鼻の先にいたが、最も訪れにくい場所だったので、セレナは深呼吸をしながら外宮に戻った。
そして、ユラシアの部屋のドアを叩いた。
トントン。
すると、すぐにドアが開いた。
「あ、こんにちは!」
目の前にユラシアが登場した。そのため、セレナはすぐに頭を下げた。
ユラシアはそんなセレナをじっと眺めていた。
セレナの魅力数値がうまく働くどころか、むしろ毒になる存在だ。つまり、話を簡単に進めていく彼女の能力が全く役に立たない状況だということだ。
「はい」
ユラシアはただ同じ無表情でそう答えた。
そして二人が目を合わせた。視線が合った二人の目は、離れる気配がなかった。セレナはその瞬間、任務を忘れてしまった。
合った目を離すことができなかったのだ。
俺だけレベルが上がる世界で悪徳領主になっていた(WEB版) わるいおとこ @933650
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