第114話

「当然それは民心だ」

 フランの質問にエルヒンは即答した。しかし、本当に知りたいことはこれではない。これは本当の質問につながる口実に過ぎなかった。

「それでは、ロゼルンでの行動について説明していただけますか?」

 その言葉は、すなわち自分の嘘を明らかにすることに他ならなかった。記憶が完全だということを。

 しかし、そんなことよりも重要な質問だった。

 真剣な話を切り出したのは、エルヒンが先だったからだ。

「どの行動のことだ?」

 やはり器の違う男だという気がした。欺いていたということに気付かせる質問なのに、まったく平気で質問にだけ集中していたからだ。

「ブリジトの虐殺で死んだ城内のロゼルンの国民を埋めたことです。いくら悪臭がひどくても、城の外で休ませればいいのです。十分疲れている兵士に、あえてそんな命令をする必要はありますか? それも、他国の国民ではないですか」

 ブリジトを追撃しながら、彼らが犯した虐殺の痕跡を見るたびに、この男は疲れた兵士たちを動かして死体の処理を先導した。

 それは戦後に整備する際にロゼルンがすればいいことだった。それでもエルヒンはそのように行動し、フランはそれが全く理解できなかった。

「国民がいない国は何の役にも立たない国。つまり、それは国と民心は同じだということだ。この大陸を統一するのもそうだ。それは民心がついてくる時に可能なことだ。そうでなければ、統一すると言ってもすぐに崩れるはずだ」

 しかし、やはり疑問は消えていない。そのためフランは再び尋ねた。

「それが死んでしまった他国の国民と何の関係がありますか? 自国民でないのに、そんな必要はありません。むしろ自国の兵士を気遣うことが本当の王だと思いますが」

「まあ一般的にはそうだろう。しかし、俺がした行動は、死んだ国民のための行動ではなかった」

「え?」

 理解できない言葉に、フランは眉を顰めた。理解できないことにぶつかったとき、彼はいつも頭を固いものにぶつけていた。しかし、今はそうすることもできず、さらにもどかしかった。

「都市の中の人はみんな死んだが、城の外の数多くの村をすべて整理する時間はなかった。彼らは近くの山奥に入って、しっかり隠れている。戦争が終わったことを知れば再び出てくるだろう。これを処理しないと、山にいる人たちがこの悲惨な場面を見ることになる。言葉で虐殺があったことを聞くのと、目で見るのとは全然違う。もし民衆がこの場面を見たら、彼らは考えるだろう。ロゼルンは自分たちを守ることができなかったゴミのような国だと。そんな考えを誰もが思い浮かべるはずだ」

「他国のことなので、むしろごたごたが起きればいいのではないですか? しかも、それを阻止してくれたのがルナンなら」

「それはそれぞれの事情次第だ。しかもルナン王国という名の好感度を高める必要はなかった。『ルナン王国』という名前をな」

 え?

 その瞬間、フランは雷に打たれたような気分になった。

「ロゼルンの生き残った国民はそこで生き続けなければならない。ロゼルンが滅亡したのではないからな。生き続けなければならない人々の心に、大きな釘を打ち込む必要はない。あちこちに散らばっている残酷な死体を見ながら浮かぶ考えは、国の発展に全く役に立たない。大陸統一を論じる者なら、ロゼルンの国民もいつでも自分の国民になることを考えるべきではないか?」

 散らばっている死体を見て、そこまで考えたと?

「そして記憶が完全な君をそのままにしてあげるつもりなのもまた、いつか君が俺の味方になるかもしれないからだ。君と俺が戦略を立てると、怖いものなしだろう?」

 フランは一瞬呆気に取られた。またもや一発殴られたような気分だった。会話をしながら二度も後頭部を殴られたような気がするなんて。

 このすべての会話の核心は、国民でも何でもなかった。自分との会話を利用して、結局自分のしたい質問を引き出すとは。

 笑いたかった。同時に泣きたくもあった。

 大胆にも、このバルデスカ・フランを引き込もうというのか。ナルヤがまだ健在で、ナルヤの王は元気なのに?

 しかし、驚くべきことにフランは好奇心が生まれた。

 自分に生じる好奇心を抑えようとしても、その好奇心が抑えきれなかった。

 なるほど。

 自分の王とこの男のうち、真の帝王は誰なのか。

 まさにその好奇心が強く燃え上がったのだ。

 民衆を大切に思う君主は歴史上多かった。

 しかし、それが大陸統一をもたらすだろうか?

 フランは違うと思った。

 慈愛に満ちたことは、時として最悪の弱点だ。

 大陸の統一を論ずるならだ。

 この男は反対だった。

 自分が見てきたエイントリアン・エルヒンは、単に民衆を大切にする君主ではない。

 影で民衆を操って何とか自分に従わせる人物。

 すなわち、民心を操ることができる人物だった。

 ケベル王国を利用した今回の戦略を見てもそうだった。

 だからこそ恐ろしい人物だった。

 しかし、だからこそ偉大だった。

「私にはすでに主人がいます。その方も帝王の器だと思います。あなたとは、必ず決着をつけたいです。もちろん、三度も負けましたけどね」

 第一次ルナン戦争。

 そして、エイントリアン領地での大敗。

 最後に今の会話。

 この会話でも、フランは自分が負けたと思った。

 だから三度の敗北だった。

 こうなると、一度ぐらいは必ず勝ってみたかった。

 その器が偉大だからこそ、だ。


 得たものもあるし、結局は失ったものもある。

 いや、フランの場合は得るものではなかったから、失ったと表現するのは違うか?

 今すぐには得られない人材だ。手放すのは惜しかったが、結局このすべてのことが後のためのビルドアップなら、少しは成果が出てほしいと願うほかなかった。

 苦い気持ちを後にして、ベイナとエルヒートを登用したまま、また南ルナンの兵士たちと国民を連れてブリンヒルに移動した。

 南ルナンの人口が合わさると、人口はさらに増えた。

 総人口数は202万。

 総兵力数は8万2千人になった。

 まだ徴兵を新たにしていないので、徴兵の限度が残っている。

 兵力の養成にはもう少し余裕があったが、すぐには実行しなかった。

 農地の開発がもう少し先だったからだ。

 農業の活性化。

 それがまさに国家の兵糧であり、資金になることだ。

 新たに合流した南ルナンの民心は、むしろ全領地の平均的な民心より高かった。そのため、現在の全地域の民心は[88]であり、非常に遵守した水準だ。

 南ルナンの滅亡により、もはや建国に至ることはなくなった。

 領地連合という極めて曖昧なポジションから脱し、国家の建設が目前に迫った。

「セレナ」

「はい、エルヒン様!」

 その前にセレナを呼んだ。

 家臣たちの意思を知りたかったからだ。 反対する人がいるとは思わないが、もし違う考えの人がいたら、その理由を知るべきだったからだ。

 彼女ならエイントリアンの家臣になったばかりで、まだ何か職責を持っているわけではなかった。だから利害関係なく意見を聞くことができた。

 貴族出身にやらせたら反対側が、また反対側にやらせたら貴族側が何か残念に思うだろうからな。

 いずれにせよ、もうすぐみんな貴族になるだろうが、今のところは妙なところがあった。

 また彼女の魅力値は、答えを肯定的に引き出すのに役立つだろう。

「ちょっと頼みがある」

「いいですよ! その頼みが何でも、命を捧げます!」

「いや、命まで捧げることはないが……」

 セレナは目を輝かせながら手を組んだ。あまりにもすごい勢いで、後ずさりするほどだった。


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