タルト・ネオーズ【4】

「お前ら、いつもいつも楽しそうだよなあ。

 いいなあ、あたしもアッコルと激しい言葉のキャッチボールがしたいよ」


「嫌よ。言い合いなんて、言葉の無駄遣い」


 急に目の前に現れたのは――、

 いいや、いつの間にかそこにずっといたのは、正反対の二人だった。


 片方は日に焼けた色黒で、鍛え抜かれた肉体を持っていた。


 片方は色白で、ロワお姉ちゃん譲りの冷たい目で、クール……、メガネをかけてメモ帳と辞書をなぜか持ち歩く、わたしを苦手とし、わたしが苦手とする教室に一人はいる委員長タイプ。


 アッコルお姉ちゃんとリフィスお姉ちゃんだった。


「タルトの方は久しぶりっ。

 いつの間にかいなくなってたからびっくりしたよ。な、アッコル」


 肌というよりも、筋肉を露出させている、健康的な褐色の肌を持つリフィスお姉ちゃんがにかっと笑って、アッコルお姉ちゃんに同意を求めた。


 長い青髪を後ろで結ったポニーテール。背中を剥き出しにした水色のドレス(……にはとても見えないけど)を着ている。

 ぴたりと張り付く、ボディスーツのような密着度の服だ。


 ボディラインというか、服の上から裸が見えている感じだった。


「別に心配なんてしてないわ。

 タルトの生命力なら数十年、放っておいてもなんだかんだ死なずに生きてそうだし」


 まるでクマムシね、と言われた。


 熊虫? 強そうだけど、虫っていう文字から、良い言葉を連想できない……。


 褒められているのか、バカにされているのか分からない言い方だった。


 群青色のお下げを肩に垂らし、露出を抑えた真っ白な制服で、よく目立つ。

 なんかもう、見たまま『正義』って感じの印象を抱かせる。

 白い制服がそれに拍車をかけていた。


「またまたー。タルトが失踪した日の夜、一晩中、貴族街を駆け回って探したのはどこの誰だったっけー?」


「そ、それはあんたが手伝ってと言うから、仕方なく手伝ったのよ!」


「逆逆。アッコルが、あたしに手伝ってって頼んだんだよ。

 お得意の鉄仮面をはずしてまで――ね」


 言い返そうとしたアッコルお姉ちゃんは言葉に詰まり、メガネをくいっと上げた。

 こほん、と咳払いし、これ以上は詮索するな、と視線でわたしを牽制する。


 鉄仮面……、ゆるゆるだなあ。

 そもそもその鉄仮面も、ロワお姉ちゃんを真似たものだ。


 冷静沈着、無表情で無感情、まんま、ロワお姉ちゃんの要素を取り入れようとしているらしいんだけど、すぐにカッとなる性格のため、守られていることは少ない。

 リフィスお姉ちゃんは体の方が活発だけど、アッコルお姉ちゃんは精神的に活発だった。


「一か月ぶりくらい? タルト、ちょっとこっちにきて」


 アッコルお姉ちゃんに言われたら一目散に逃げるけど、リフィスお姉ちゃんなら無警戒でいいと思う。手招きされたまま素直に近づくと、ハグをされて頬にキスをされた。

 別の国のあいさつらしく、出会う度にやられていたのを思い出した。懐かしい……。


「ちょっと! 風紀が乱れてるわよ! 

 たとえ姉妹でもそう軽々しく抱き着いたりキスをしたりするもんじゃ――」


「アッコル、嫉妬しちゃった?」


「ち、違うわよ!」

 と、アッコルお姉ちゃんはすぐに否定したけど、顔を真っ赤にしてそう叫んだら、強がりにしか見えない。

 褐色のリフィスお姉ちゃんとは真逆で色白なので、ちょっとした紅潮も分かりやすい。


「ただのあいさつだからさ、ちょっと待ってて」


 わたしが終わったら、今度は隣にいたサヘラだった。


 前例を見ていれば、されることは分かっている。


 サヘラは過剰なリフィスお姉ちゃんのスキンシップの手から逃れようとしたけど、お姉ちゃんに、反応速度と運動神経で勝てるわけがない。


 全てのスポーツをやり尽し、極めてしまってすることがないと不満を漏らすくらいだから。


 そんなわけで、案の定、すぐに捕まった。


「そだ、調子はどう?」

「う、うん。調子はいいよ」


 なら満足、とお姉ちゃん。

 わたしと同じようにハグをしてから頬にキスをする。

 わたしの時よりちょっとだけ時間が長いのが気になった。……はっ、これが嫉妬か!


「…………」

 アッコルお姉ちゃんが持つメモ帳が、ぐしゃり、握り潰されていた。


 わたしとサヘラ以上に、二人とも仲良しだと思うけど……、双子よりも仲は深そうだった。


 不満そうなアッコルお姉ちゃんに気づいたリフィスお姉ちゃんが、アッコルお姉ちゃんに近づく――同じようにハグをしようとして、


「い、いや、いい! 私には必要ないわ! 今更、ハグは恥ずかしいし――」


「それもそうだよね……じゃあ、やめとく。アッコルにできないのは、寂しいけど……」


 目に見えて、しゅん、としたリフィスお姉ちゃん。

 加害者じゃなくても胸が痛い光景だった。


 無理して笑って、明るく場を盛り下げないようにしてくれている。

 その努力の様子が、なんだか罪悪感……。


 わたしでこれなら、じゃあアッコルお姉ちゃんは相当なものだろう。


「…………じゃあ、いいわよ。毎回は嫌だけど、節度を守ってくれるなら、まあ」


 慣れているはずなのに、ちょっとぎこちなくあいさつを交わす二人。

 ……妹の前で、二人は恥ずかしがりながら、なにをしているんだろう――。


 百合の花が舞い散っている空間に、置き去りにしてほしくなかった。


 ―― ――


「タルト・ドラゴンズ」

「タルト・ネオーズ」


 完全版 ↓↓


「エゴイスターズ」

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054934118540


「エゴイスターズ:姉妹戦争」

 https://kakuyomu.jp/works/1177354055419748574

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ガールフレンド・アーマーズ/惑星脱出 渡貫とゐち @josho

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ