とある放課
あんこ
放課後
放課後の教室、クラス委員としての仕事。黒板の掃除や、机の整頓、忘れ物の確認など。
長針が”7”を刺すときに俺は教室に行く。それまでは図書室で勉強したりしなかったり。
放課後にクラスに少し残ったりする人もいるが大体この時間には誰もいない。
「あっ!!」
今日もいつものように仕事をこなしていたら”それ”を見つけたのだ。
氏名 桜川雪
と書かれた水筒を。
つい声を出してしまった。
忘れ物を見てうれしいと感じてしまったから。
水筒を届けるという口実で好きな人に会えると、話せると思った。
彼女は、バレーボール部に入っているクラスメイト。今は体育館で練習中。
早速向かうことにしよう。
よく好きな人のリコーダーを舐めるという行為を漫画とかで見るけど、実際に状況になるとそんな気には全くならない自分に安心した。
水筒だけどね。
「トクントクン」
体育館につき緊張してきた。
「すみませ―――――」
「さ、もう一本!」
「雪!? もう終わりなの!? 限界? やめる?」
「まだまだぁ! さ、こいっっ!!」
……。
何やってんだろう、俺。
一人で浮かれて。
好きな人が頑張っている姿を見て、何も頑張っていない自分自身に激しい憤りを感じる。
くそ!
俺は体育館内から見えない、入り口の脇にうずくまってしまった。情けないなと思いながらも、涙を抑えることは出来なかった。
「じゃあ今から10分休憩」
―――――
「じゃあ今から10分休憩」
「はぁ、きっつい~!」
私は首にかけたタオルで汗を拭き、カバンに手を伸ばして気付いた。
あれ、ない。
「水筒教室に忘れた~!!」
まだ時間あるし取りいけば?
どんまい!
行ってらー
そんな言葉が聞こえる。
とてつもなく面倒だけど、行くしかないかと腹をくくり私は重たい腰を上げた。
「いってきまーすぅ、はぁ」
ため息をつくと、幸運が逃げるって言うけど、なんだか安心するし息も落ち着くから私はため息をするのが好きだ。
そして、入り口のほうに歩いていくと見覚えのある後姿の男子が座っていたので思わず声をかけてしまった。
「ど、どどでぉうしたの!」
やば、噛んだ!
―――――
「ど、どどでぉうしたの!」
噛んでしまったのか、裏返った声で俺を気遣う声が聞こえた。
誰かに慰めて欲しかったのか、思わず言ってしまった。
「好きな人忘れ物を教室で見つけて、届けに来たんです。浮ついた気持ちで。でもその子は必死に頑張って練習をしていて、何も頑張っていない自分が情けなくなって。そう思ったら、ああ俺馬鹿だなって思って」
「……。」
「……。」
人に言ったら少し楽になったけど、冷静になると恥ずかしくなって後ろを振り向くことは出来ない。
「あのこれ、バレー部の方に渡しておいてください!」
顔は見られたくないため振り向かず、半ば強引に渡して逃げようとした。
「そう、なのかな? 私は委員長も頑張ってると思うよ」
い、委員長ってまさか。
さっきは変な声になってて気づかなかったけど、この声ってまさか。
終わった。
「朝誰よりも早く来て教室の掃除とかしてくれてたり。朝もしてるのに放課後もしてるし。きっと他のクラスの人はそこまでしてないよ?」
「それは……委員長なんだからやるのが当たり前だよ」
俺は自分のやるべきことをやっているだけ。桜川さんとは違う。
「だよね! 私も同じだもん! 私もバレーボール部だからバレーを頑張るのなんて”当たり前”なんだよ!」
「!!」
「そしてね、私は人がやりたがらないことでも率先してやって、時には”偽善”とか”点数稼ぎ”とか言われたって、当たり前に頑張れる。そんな人の事が……」
「ドクンドクン」
鼓動が大きく揺れる。
「好きだよ」
そういって、彼女は走って戻っていった。
ああ、好きだな。
―――――
俺がちゃんと告白して付き合うのはまた別のお話。
とある放課 あんこ @so_do
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます