第12話 ダレモイナイ 番外編 その4
リクを膝にのせたままサエコとの静かな時間がすぎてゆく。会話があるでなし、何かをするでもなく……。
時折、かすかに遠くを通り過ぎる電車の音や踏切の音が聞こえていたがそれも聞こえなくなってかなりの時間がたっていた。風の音さえ止まったかのようだ。
ふと、カズヒコがあまりの静かさに気付き壁の時計をみる。
「うわっ、こんな時間?明日仕事だろ。ゴメン、気付かなくて」
サエコは小さく笑い手をふって
「1週間休みとったんだ。大丈夫」
今度はカズヒコが目をまん丸にして
「大丈夫なの?」
と一言。サエコは小さく笑い、ウンとだけ応えた。
お互いが欲していて、手に入れることができなかった小さな幸せな時間。
どちらも永く続いてほしいと願いながらもそれが叶わないと予感めいたものを感じてはいた。が決して口にはしなかった。
リクを抱き上げ、抱きしめ、匂いを吸い込む。密着した肌からの温もりがすごく愛おしい。そろりとベッドにおろし、布団をかける。ベッドの横に膝立ちで座りかなりの時間その寝顔を見つめていた。はじめてあったその瞬間から何一つ変わらない、その寝顔を脳裏に刻みつけるかのようにただ見つめていた。
リビングに戻るとサエコは意味ありげに笑っていた。
「大きくなったよね、リク。重くなった。サエコ、ありがとうな」
「1週間も一緒にいれなかったよね」
「いたかったさ、いたかったよ。でも行くしかなかったじゃん」
半分泣きそうなカズヒコの顔をみてサエコはいたずらっぽく笑う。
「ね、突然帰ってきて、知らない男性がいたらどうした?」
「それはないって分かってた。それよりそっちも突然きて、さ」
ナイナイ、とお互いに手を叩いて笑いあう。
「再会を祝し」
「何もなかったことを祝し」
もう少しまともなことはなかったの?とサエコが笑いながらお互いに手を出し。
グータッチ。からのハイタッチ。
部屋に澄んだ音が響く。
平和な時間をあざ笑うかのように
夢百夜噺 【ユメヒャクヤバナシ】 神稲 沙都琉 @satoru-y
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