第七章 『囚われし黒竜』

「はぁ、はぁ。ド、ドラゴンはどこだ!?」


 俺達はロタケケ村に着いたが、ドラゴンらしき姿は見えない。

 それどころか、村の様子も何も変わらない。

 そして今気づいたが、肝心のペドラばぁーさんを、全力疾走で来たせいで置いてきてしまった。


「なんだ、ドラゴンなんていないじゃないか」俺は、少女に疑いの目を向ける。


「皆さんこっちです!!」少女は俺達を、村の広場まで案内した。


 村の広場には人だかりができていて、何やらただならぬ雰囲気だ。

 少女と共に人だかりを搔き分けて先に進むと、そこには鉄製の檻が置いてあり、中でティシュ箱程の大きさの、黒い何かが動いている。


 すると少女は、俺達に助けを求める。


「「「良かった、間に合った!! 助けて……このドラゴンを助けて!!!」」」


 少女の言葉を聞き、俺とレイラは勘違いしていた事に気づいた。

 俺達は、勝手に村の危機を心配していたが、少女が心配していたのはドラゴンの事だったのだ。

 確かによく見ると檻の中に、羽の生えた真っ黒いトカゲの様な生き物が捕まっている。


「あれは、まさか……【黒竜】の子供!?本当に実在するなんて……」レイラは【黒竜】について説明してくれた。


 どうやら、この捕まっているドラゴンは【黒竜】と言うらしい。

 黒竜は普通のドラゴンとは違い、伝説の存在と言われるほど、珍しい魔物みたいだ。

 正直俺には、羽の生えたトカゲにしか見えないのだが、成体の黒竜は普通のドラゴンの倍の体格があり、力も比べ物にならないと言い伝えられていて、とても恐ろしい魔物だそうだ。


「プルシュカいい加減にしなさい!!魔物を助けるだなんて、何を考えているの!!!」

 少女の母親らしき女性が怒鳴る。


「でも、リアンは悪い子じゃないもん。リアンは私を助けてくれたんだよ?」プルシュカは泣きながら、母親に訴えかける。


「リアンって、まさかこの魔物に名前を付けたの!?」


「うん……リアンは、私の友達だもん!!」どうやらプルシュカは、この黒竜に【リアン】と言う名前を付けていたらしい。


 プルシュカはリアンについて、涙ながらに話し出した。


 プルシュカが、村の外れの川で一人で遊んでいた時、犬型の魔物に襲われらしい。

 そんな時にリアンが現れ、プルシュカの事を守り犬型の魔物を追い払ってくれたそうだ。

 それから毎日、プルシュカは隠れてリアンと川で遊んでいたそうだが、遂に村人達に見つかり、リアンは捕まってしまい今に至ると言う事だ。


 俺は、プルシュカの話を聞いて村人達に尋ねる。


「こいつ悪い魔物じゃないみたいだし、逃がしてあげたら?」


「アンタ何言ってるんだ。この魔物は【黒竜】だぞ?俺らが勝手に判断できる問題じゃないんだ」


「んー、困ったな……この黒竜はこの後どうなるんだろうか……」俺が頭を抱えていると、檻の方から声が聞こえた。


「「「オイラが何したって言うんだ!!ここから出せ!!!」」」

 黒竜が檻の中で暴れ出す。


「うわっ、黒竜が暴れ出したぞ!!この檻壊したりしないよな?」村人達が檻から距離をとる。


 俺は、檻に近づき黒竜に話し掛ける。


「出してあげたいんだけどさー、駄目なんだって」


「お、おまえ、オイラの言葉が分かるのか?」


「え?皆分かるんじゃないの?」俺は黒竜に聞き返す。


「分かる訳無いだろ!!見てみろアイツらの顔を」


 黒竜に言われて振り向くと、村人達が不思議そうな顔をして俺の事を見ている。


「まなと、この黒竜の言葉が分かるの?」レイラも、不思議そうにしている。


「分かるよ。あっ、もしかしてこのピアスの力か!!」俺は、昨日ペドラばぁーさんに貰った魔具【翻訳のピアス】の存在を思い出す。


 俺は魔具の力に感動しつつも、黒竜と話を続ける。


「お前、悪い魔物じゃないんだろ?ここから出ても悪い事しないって約束出来る?」


「オイラはそんな事しない!!そもそも、オイラはあの女の子と遊んでいただけだ!!!」


 俺は黒竜に「わかった」と伝え、村人達に提案する。


「俺、魔物と話し出来るんだけど、こいつ悪い事なんてしないって約束してくれたから、ここから出しちゃ駄目?」


 俺の言葉を聞いた村人達が、笑いだす。


「何を馬鹿な事言ってるんだ。誰がそんな話しを信じる?」村人の男がニヤケながら言う。


「馬鹿な事って、俺は本当の事を言っているだけだ!!」俺は村人にキレたが、レイラがそれをなだめる。


「そもそも、黒竜はとても貴重な魔物なんだ。誰かと契約した使い魔でもない限り、私達が勝手に判断できる話しじゃないと、先ほどから言っているだろう」


「契約した使い魔?……じゃあ俺がこいつと契約するよ」


 俺の宣言を聞いた村人達が、腹を抱えて笑いだす。


「はぁー、面白い事言うな君は。出来るものならやってみるといい」村人達は、完全に俺を馬鹿にしている。


「まなと、それは無茶です。ドラゴンと契約するなんて、上級の魔法使いでも出来ないのに……ましてや、このドラゴンは子供といえど、伝説の【黒竜】です」レイラは笑いはしないが、俺に現実を突きつける。


 俺は、村人とレイラを無視し黒竜に話し掛ける。


「なぁ、お前結構ヤバいらしいぞ。ここから出れる見込みはゼロだ……それどころか、この後どんな目に遭うかなんて想像したくもない。もしかしたら、バラバラにされて身体中調べられるかもしれないし、悪い魔法使いに操られて酷い事させられるかも知れない……」


「そ、そんな……オイラ何も悪い事していないのに……」


「そんなお前に、一つ提案がある……俺と契約しないか?そしたらここから出れる」


「そ、それはダメだ!!契約すると言う事は、その者に全てを捧げるって事だぞ!!契約した者が死ぬまで契約は解除されない!!!」


「そうか。でも俺は、寿命が後半年しかないんだ、半年の我慢だと思ってもいいし。まぁでも決めるのはお前だからな、嫌なら別にいいよ」 


「オマエ、そんなに寿命が短いのか……わかった。でもオイラにも条件がある」


 黒竜は、俺と契約する為の条件を提示した。


「オイラは、何にも縛られたくない。お前とは仕方なく契約するが、自由にさせてもらうぞ!!」


「なんだそんな事か、そんなの当たり前だろ。俺はお前を縛ったりしないよ……じゃあ契約成立だな」


 すると、黒竜の頭上に魔法陣が形成された。

 俺は、檻の隙間から右手を伸ばし、魔法陣に触れると『バチッ』と言う静電気の様な衝撃と共に、俺の右手の甲に、黒い竜のタトゥーが浮かび上がった。


「これで、契約完了だ。だがオイラは、お前を認めた訳じゃないからな!!」


「分かってるって。それじゃあ皆さん、こいつは今から俺の使い魔だ……ここから出して貰おうか?」

 俺は、契約の印のタトゥーを村人に見せつけながら、言う。


「う、嘘だろ……本当に契約しちまうとは……」村人達の俺を見る目が、一瞬で変わった。


 村人は約束通り、恐る恐る檻の鍵を開ける。


 少女が黒竜に駆け寄り、抱きつく。


「リアン!!良かった……お兄ちゃん、ありがとう!!!」


「まなと。信じてあげられなくて、ごめんなさい。あなたには本当に驚かされてばかりです」レイラは、俺を信じ切れなかった自分を責める。


「いいんだ、弱みに付け込んで契約したんだ。間違っているのは俺だよ」俺は、助ける為とはいえ、強引に契約した事を、少し後悔した。


「リアン!!これからよろしくな!!!」俺は、その少しの後悔を振り払うように、リアンに手を差し伸べる。


『ガブッ』リアンは俺の手に噛みつく。


「「「ぎやぁぁぁぁあああぁあ」」」


「「「馴れ馴れしいぞ!!オイラに触るな」」」


「「「なんだ、このくそトカゲ!!俺の少しの後悔を返せ!!!」」」


「「「くそトカゲ?……それはオイラの事かぁぁああ!!!」」」


「やめてください!まなと、リアン!!」レイラが慌てて止めに入る。


 こうして、余命半年の男と黒竜の子供と言う、凸凹コンビが誕生したのであった。


────────────────────


【黒竜】リアンが時半真人の使い魔になった。


────────────────────


 そんなやり取りもつかの間に、一人の男が空を指差し慌てふためく。


「あ、あれ……う、噓だろ……皆逃げろぉおおぉぉお!!!」男が叫んだ、次の瞬間。


『バサッバサッ……ギャオォオォォォォオ!!!』


 上空から、物凄い風を切る音と鼓膜が破れる程の咆哮ほうこうが聞こえた。


 そこにいた全員が、上空を見上げる。


 同時に、そこにいた全員が【死】を覚悟するのだった……。

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余命半年の俺が異世界転移して何が出来る!? いといち @itoite

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