第六章 『魔具』
「おぬしの魔力属性は……無い。それどころか、魔力そのものが無いんじゃ」
「う、噓でしょ……そんなの有り得ない」レイラは老婆の言葉を聞き、動揺を隠し切れないでいる。
「そうじゃ、有り得ないのじゃ……この世界の
「魔力がない?どーゆう事だよ。チート級の魔法は?特別な魔力属性は?」自分に特別な力があるだろう。と期待し過ぎた余り、俺は老婆の言っている事を理解する事が出来なかった。
「おぬし、何を訳の分からない事を言っておるのじゃ。おぬしの体には、この世界の
どうやらこの世界で生きる人達には、必ず魔力があるらしい。
魔力は、人によって多い少ないがあるが、魔力属性は魔力量に関わらず、決まっているみたいだ。
だが、全員が魔法を使える訳ではなく、魔法を使えるだけの魔力量と鍛錬を積んだ者が、魔法を使える様になる。(魔力量は個体差があるが、鍛錬で増やす事は出来る)
そして、今問題になっているのは、俺の魔力が無いと言う事だ。
これはかなりの大問題らしい、なぜかと言うと、それは【死んでいる】のと同じ事だからだ。
人は、身体を少量の魔力で無意識に動かしている。心臓、肺、脳、身体全てを魔力で動かしている、なので魔法が使えても使えなくても、魔力は必ず必要なのである。
この世界で死者か生者、それを分けるものこそ【魔力】。
生きているにも関わらず、魔力を一切持たない俺の存在は、この世界の常識を
「マジかよ……お決まりの展開は、どこに行ったんだよ……」老婆の話をしっかり聞いたうえで、自分が特別な魔法が使えないと言う事にしか、気が回らなかった。
「で、でも、まなとは魔法が使えるんです!!」レイラは、使うと寿命が縮まる魔法の話を、老婆にする。
「そんな魔法は聞いた事が無いのぉ。もしそれが本当なのなら、その魔法は魔力の代わりに、寿命を使って魔法を発動しているんじゃろうなぁ」
「あ、それとこの魔法、俺の寿命が少なくなる程、威力が強くなるみたいなんだけど……」
俺は、老婆に意見を求める。
「魔法は等価交換じゃ、魔力を沢山使えば、強い魔法が使える。そして、おぬしが差し出しているのは寿命、等価交換には重すぎる。 必然的に魔法の威力は、とんでもない物になるじゃろう。寿命が少なくなれば、おぬしにとっての寿命の価値が高くなる。と言う事は、等価交換で得られる魔法の力も大きくなるじゃろう」
老婆が、俺の魔法について仮説を述べる。
「なるほどなぁ、それだと威力が上がるのも納得できるな」俺は、素直に仮説を聞き入れる。
「じゃが、その魔法は禁術じゃろうな……おぬし、身を亡ぼす魔法など使ってはならんぞ!!」
老婆は、鋭い目つきで俺を注意する。
「こんな魔法言われなくても使わないよ。そんな事より俺、魔法使えないってヤバくね……」
俺は、魔法が使えない事実に、
「そう落ち込んだ顔をするな、魔法を使う方法ならまだある」老婆は微笑みながら、俺を励ます。
「そ、それは本当ですか!?神様!!!」俺は嬉しさのあまり、老婆を神様と錯覚する。
「まぁ落ち着け、【魔具】を使えばいいんじゃよ」聞きなれない言葉が、老婆の口から飛び出す。
「魔具?なにそれ」俺が、困惑していると、レイラが魔具について説明してくれた。
魔具とは、魔法の力が宿された武器や防具、道具の事だ。
魔具を使えば、魔法が使えない人でも、魔法の
魔具によって使える魔法は異なり、宿している魔法は、魔具一つに対して一つだ。
例えば、火の魔法を宿している剣は、振るえば火の魔法攻撃が放たれるし、物理攻撃・カウンターの魔法を宿している防具が物理攻撃を受ければ、相手にも同じダメージを与える事が出来る。
魔具は、宿している魔法以外の事は出来ないが、とても凄いアイテムなのだ。
「でも、魔具はとても貴重で、滅多にお目にかかれない代物ですよ」レイラが、悪気無く俺の希望を潰す。
「まぁそうじゃがな。ワシの家に何個かあるから、欲しいのを持っていくといい」そう言う老婆が、俺の目からは輝いて見えた。
「「「マジで!!あんの!?くれるの!?」」」
俺の目から、喜びの涙がこぼれる。
「命を助けてもらった、恩があるからな」老婆は、にっこりとした顔で答える。
俺達は、老婆の家に案内された。
家に着くと老婆は、押し入れからホコリが被った魔具を、三つ持ってきた。
【雷撃の剣】下級の魔物なら、一撃で倒せる程の攻撃力を持つ。
【静寂を与える杖】対象の動きを十秒間止める。だが、同じ対象にもう一度使う事は出来ない。
【翻訳のピアス】魔物の言葉が、分かる様になる。
どれも激レアな魔具だ。
俺は迷わず【雷撃の剣】を手に取る。
「「「ぎやぁぁぁぁあああぁあ」」」
その瞬間、俺の体中に雷の様な衝撃が走り、頭から地面に倒れる。
レイラは慌てて回復魔法を使い、俺は一命を取り留める。
「まなと、大丈夫ですか?」俺は、レイラの太ももの上で目覚めた。
「ど、どういう事だ……魔具は誰でも使えるんじゃないのか……」俺は、幸せと絶望の間で苦しむ。
「その筈なんじゃがなぁ、おぬしは普通ではないからのぉ」老婆も、頭を悩ませる。
俺は、めげずに【翻訳のピアス】を手に取り、耳に付ける。
「大丈夫だ!!何が変わったか分からないけど!!!」何の変化も感じられないが【翻訳のピアス】は問題なく付ける事が出来た。
さて、もう一つの魔具【静寂を与える杖】だが、これはレイラが持つべきだ。と提案した。
そもそもこの老婆を助けられたのも、レイラの回復魔法があってのものだし、何なら俺は何もしていない。
レイラは嬉しそうに、老婆にお礼を伝え【静寂を与える杖】を受け取る。
すると老婆が、俺達に提案する。
「アンタ達、今日はもう遅い。今晩は止まっていきなさい。それと紹介が遅れたね、ワシの名前はペドラ。ペドラばぁーさんとでも呼んどくれ」
俺達は、ペドラばぁーさんの好意に甘え、泊まらせてもらう事にした。
それから、レイラは晩ご飯の手伝い、俺は薪割りをした。
辺りが暗くなり始めた頃。
美味しそうな匂いと共に、エプロン姿のレイラが「ご飯が出来ましたよ」とやり切った感満載の顔をして、迎えに来た。
食卓に着くと、そこには美味しそうな料理が並んでいた。
「うひょー!!美味そうだな」俺は、異世界に来てから何も食べていな事もあり、ヨダレがこぼれる。
「これは、ロタケケ村の郷土料理みたいですよ」レイラも、早く食べたそうな顔をしている。
「よし!アンタ達、たんとお食べ」ペドラばぁーさんの合図とともに、俺は料理にかぶりつく。
ご飯も食べ終わり、俺の割った薪で沸かした風呂に入った後は、ペドラばぁーさんの若い頃の話を聞いて、楽しい夜を過ごし、眠りに着いた。
─────────────────────
時半真人の寿命 【残り179日】
─────────────────────
「「「コッケ、コッコー」」」
聞き覚えのある鳥の鳴き声で、目を覚ます。
「ふわぁぁあぁ。よく寝た」俺は目をこすりながら、あくびをする。
「まなと、おはようございます」レイラは既に起きていて、身支度を済ませていた。
「おぬしは寝すぎじゃ!!」ペドラばぁーさんが、笑いながら言う。
すると、ペドラばぁーさんの家のドアが叩かれる。
「「「ドンドンドン!!ペドラばぁーさんいる!?いるなら開けて」」」
少女の様な、慌てた声が家中に響き渡る。
ペドラばぁーさんも、
そこに立ってたのは、一人の少女だった。
そして少女の口から、身の毛もよだつ言葉が飛び出す。
「「「村にドラゴンが出たの!!ペドラばぁーさん助けて!!!」」」
「ド、ドラゴンじゃと!?こんな村に、そんな魔物が……」有り得ない異常事態に、ペドラばぁーさんは言葉を詰まらせるが、少女が嘘を付いている様には見えない。
「ドラゴンは上級の魔物です。低級の魔物しかいないこの辺りにいる筈無いですし、もし本当にドラゴンが出たのであれば、ロタケケ村は跡形も無く破壊されます」レイラは、震えながら話す。
俺は、ドラゴンと言う言葉を聞いて、ゲームや漫画などに出てくるあの恐ろしい姿を想像し、この世界に本当にそんな生き物がいると思うと、怖くて仕方がなかった。
だが、それと同時に「守らなければ」と思った。
この素敵な村を。
お世話になった、ペドラばぁーさんの平和な日常を。
壊されてたまるか、そう思った。
俺がドラゴンの様な怪物に勝てるとは思はない。怖いと思う気持ちも変わらない。
それでも、「守らなければ」それは俺の抱えている恐怖よりも、強い思いだった。
「村に行こう!!村を守らないと!!!」俺は、覚悟を決めて、家を飛び出す。
「はい。まなとが、そう決めたのなら」レイラも、俺に続いて家を飛び出した。
そして、村に着いた俺達は、目を疑う光景を目にする事になる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます