第五章 『レイラのお買い物』

「おぉー!!ここがロタケケ村かぁ、良い雰囲気の村だな!!」俺は、初めてしっかり見る異世界の村に、感動する。


「はい。ここはとても穏やかな村で、農業が盛んだと聞いていますよ」レイラはにっこりと、微笑みながら言う。


 この村の雰囲気と言えば、レンガ調の家がギュギュウに並び、路地がとても狭い。

 その間を牛の様な動物が、農機具や野菜を荷台で運んでいる為、圧迫感がとてもあるが、その中で、村の人達が気さくに笑い合い、子供達が楽しそうに駆け回っている。

 狭い路地だらけで、決して綺麗な村とは言えないが、明るい雰囲気のとても良い村だ。


 だが、あの牛の様な生き物が気になる。

 パッと見ると牛だが、よく見ると目が無数にあり、足も六本ある。


「レイラ、あの生き物何?」レイラに尋ねる。


「え、知らないんですか?あれは【ブフ】と言って、主に農家などで買われている魔物ですよ」

 

「ま、まもの!?そんなのいるの!?」俺は【魔物】と言う、おぞましい言葉に怯える。


 どうやらレイラの話を聞くと、この異世界には魔物がいるらしい。

 中には、人間と共存している魔物もいるが、もちろん人間を襲う魔物もいるみたいだ。

 そして、強力な魔物を従える時には、その魔物と【契約】をしなければいけないらしい。

 そんな話はさておき、レイラが提案する。 


「まなと。まずは、お洋服を買いに行きましょう!!」何故か、レイラのテンションが上がっている。


「そうだな、でも俺……お金持ってないよ」俺は、そもそもこの異世界で、使われている通貨すら知らない。


「大丈夫です。私、お金は沢山持っているんです!!」レイラは、袋いっぱいに入った硬貨を見せびらかす。


 俺は、もしかしたらレイラは裕福な家庭のお嬢様なのかもしれないと、心の中で思った。

 普段の俺であれば、絶対に断っているが、一文無しでボロボロの身なりと言う状況なので、今回はレイラに甘えるとしよう。


 俺達は村の人達に聞き、洋服店まで辿り着いた、その時……。


「おえぇぇええっ」また、吐き気が俺を襲う。


「大丈夫ですか?少し休みましょう」レイラは心配そうな顔をして、俺の背中をさする。


「ごめん。大丈夫だよ、いつもの事だから……」俺は、この吐き気が現実を叩きつけてくる様で、嫌いだ。


「いいえ、駄目です。少し休みます!!」レイラに手を引っ張られ、木陰で休息を取る。


 少し休み。体調が戻ったので、洋服店に入った。

 するとそこには、俺からしたら見慣れない服が、ズラッと並んでいた。


「わぁー、いっぱいありますね。どれがいいでしょうか、迷いますね」そう話すレイラの瞳は、キラキラと輝いていた。


「俺は服のセンスが、圧倒的にないんだよなぁ……レイラが選んでくれるか?」俺は、服のチョイスで人に褒められた事が無いので、いさぎよくレイラに委ねる。


「「「はい!!選ばさせて頂きます!!!」」」

 レイラのテンションが、跳ね上がった。


 それからは大変だった……。

 そっちが良い。こっちが良いと、俺はレイラの着せ替え人形の様に、何着も着替えさせられた……。

 流石に店の人も呆れていたので、レイラを止める。


「レ、レイラ。そろそろ決まらないかな」俺は、ぐったりしながら聞く。

 

「で、でも、まだまだお洋服は沢山ありますよ……?」レイラは、シュンとしながら言う。


「でもさ……これから、鑑定魔法師の所にも行かないといけないしさ?」レイラを傷つけない様にさとす。


「そうですね。じゃあ、これにします!!」そう言って、レイラは一着の服を広げる。


 その服は黒色ベースで、淵に金色の装飾がしてあり、フードがダボっと大きい、高級感漂う一着だった。


「いいね!!かっこいいよ。でも、高そうだけど……大丈夫?」俺は着せ替え人形にされて、クタクタだったので、取り敢えず賛成する。


「大丈夫です!!私に任せて下さい」レイラは、その服を精算台にもって行き、袋いっぱいに入った硬貨と一緒に、ドサッと置く。


「このお洋服、一着お売り頂けますでしょうか?」


「お、お客様!?こ、こんな大金必要ありません!!!」店主のおばさんが、袋に入った硬貨を見て慌てふためく。

 

「でしたら、この硬貨何枚で買えるのですか?」レイラは困った顔をして、店主に尋ねる。


「この洋服は一着、三プレロ硬貨あれば足りますよ。この袋に入っている硬貨は、一枚百プレロ硬貨ですので、一枚でもかなりオーバーしてしまいます。そして、こんな大金のお釣りはご用意出来ません……」

 店主はとても困っている。


 へぇー、この異世界の通貨の名前は、プレロって言うのかぁ。俺は心の中で思う。


「そうですか。ではお釣りは結構ですので、このお洋服を下さい!!」レイラは、即決で答える。


「レイラちゃん!?それは、まずくね!?」俺はすかさず、止めに入る。


 この異世界の通貨の価値は、よく分からないが、この服の価値が三プレロ硬貨なのなら、レイラが袋いっぱいに持っている、百プレロ硬貨達はとてつもない大金だと言う事ぐらい、俺にでも分かる。

 それと同時にレイラが何故、こんな大金を持っているのか、怖くて聞く事は出来ないなと思う。

 更に言えば、レイラも、通貨の価値をよく分かっていない事についても、触れるのはやめておこう……。


「でも、まなとのお洋服を買ってあげたいですし……いいんです。買います!!」レイラは、俺の制止を無視し、話を進める。


「分かりました。ですが流石に申し訳無いので、他に欲しい物はございませんか?」

 店主は言う。

 

「じゃあ物は大丈夫なので、一つ聞いてもいいですか?」


 俺は、鑑定魔法師の老婆の事を聞く事にした。

 すると店主は、窓から見える山を指差し、あの山のふもとに一人で住んでいる。と教えてくれた。


 俺とレイラは店主にお礼を言い、その山のふもとに向かう事にした。


「レイラ、服ありがとな。大事に使うよ」俺は、レイラに心からお礼を伝える。


「いえ、いいんです。まなと、とても似合っていますよ」レイラは、照れながら答える。


 にしてもこの服を着るだけで、見た目は魔法使いの様な、風格が出るなぁ。 

 自分が、色々な魔法を使っている光景を想像し、俺は早く魔力属性が知りたくて、ウズウズしていた。


 取り敢えず、俺達は山の方に向けて歩き出した。

 すると、ブフに乗ったおじさんに声を掛けられたので、鑑定魔法師の家に向かっている話をした。


「なんだ、オラもそっちの方に行くから、乗ってけ乗ってけ」

 鑑定魔法師の、家の近くまで荷台に乗せて行ってくれる事になった。

 道中、荷台に揺られながら穏やかな時間が流れる……。


「お兄ちゃん!ついたぞ。この道を、真っ直ぐ行けば家が見えてくる。そこが鑑定魔法師の家だ」

 おじさんは、とても親切にしてくれた。


 俺達は、おじさんにお礼をし鑑定魔法師の家を目指す。

 すると、俺達が歩いている道の先に、何かが落ちているのが見える。

 近づくにつれて、それが人である事に気付く。大慌てで駆け寄ると、老婆が苦しそうに倒れていた。


「レイラ!!どうにか出来ないのか?」レイラに、助けを求める。


「と、取り敢えずやってみます!!」レイラは、状態異常回復の魔法を唱える。


「「「精霊達よ、この者を苦しみから解放しなさい。【キュア】」」」


 すると、老婆の周りに魔法陣が出来て、老婆が紫色の光で包まれる。

 老婆の顔色がみるみる良くなっていき、危機は脱したと安堵あんどする。


「これは毒です。もしかしたら魔物にやられたのかもしれませんね」ホッとした表情を浮かべながら、レイラは分析する。


 程なくして、老婆の意識が戻る。


「いやぁ~、助かったわい。アンタ達ありがとうねぇ~」元気そうに、老婆はお礼をする。


「助かって良かった!レイラ、お手柄だな!!」俺は、レイラの頭を撫でた。


「や、やめてください。そんな事ないですよ」顔を手で隠し、レイラは嬉しそうに言う。


「でも、アンタ達見慣れない顔だねぇ~。こんな所に、何か用でもあるのかい」老婆は、俺達の顔を見て聞く。


「実は、ここら辺に住んでる鑑定魔法師を探してまして、ご存じないですか?」


「鑑定魔法師を探しておるのかぁ~、それはワシじゃよ」老婆は、サラッと答える。


「えぇぇぇぇ!!おばぁちゃんがそうだったの!?」驚きと喜びで、俺の心の中はお祭り状態だった。


「命を助けられた恩があるからの~、何か用があるんじゃったら、言ってくれ」老婆は俺らにとって、願ったり叶ったりの提案をする。


「マジか、じゃあ話は早い。俺の魔力属性を……鑑定してくれ!!!」俺は、単刀直入にお願いする。


「なんじゃ、そんな事でいいのかい?では早速」老婆が、俺に触れる。


 俺は、自分の魔力属性を想像して、顔のニヤケを抑える事は出来なかった。

 異世界転移して来たのだから、普通の属性の筈がない。

 かつて前例が無い程、レアな属性。チート級の攻撃力や防御力を持つ、属性。

 そんな特別な、俺だけの魔力属性を想像し、心躍っていたのだ。


「こ、これは……こんなの見た事がないわい……」老婆が青ざめる。


「きたきたきたぁー!!待ってました、お決まりのパターン!!!」俺は、老婆の反応を見て、自分は特別な魔力属性だと確信する。


「わしも信じ難いが、おぬしの魔力属性は……」老婆は、あまりの驚きによろめきながらも、話を続ける。


 そして遂に。老婆の口から、時半真人ときなかまなとの魔力属性について語られるのだった。

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