第四章 『幻の果実』

 腰ぐらいまであるサラッサラの黒髪に、透き通る程透明感のある顔立ち。  

 露出度の高い、黒基調の魔法使いの様な服装。すらっとした体格に、弾けんばかりのおっぱ……。

 いやいや、俺は何を考えているんだ。それにしても綺麗な人だなぁ、おまけにいい匂いもするし……。


「ちょっと、ちゃんと話し聞いてます?」女性は少し怒った様に、頬を膨らませながら言う。


「あぁ、ごめんごめんっ」俺は女性の事を考えていたため、ドキッとして頬を赤くしながら答える。


「ですから、この世界にはどんな病でも治す幻の果実があると、古くから言い伝えられているんです。」女性は、真剣な顔をして話す。


「おぉー、それそれ!そーいうのを待ってた!!して、その果実とやらは何処に?」俺は、欲しいおもちゃをねだる子供みたいに、女性にすがる。


「いえ、それが分からないんです。実は私のお父様も、あなたと同じ様に魔法では治せない病で苦しんいるのです。私はお父様の病を治すべく、昔おばぁ様から聞いた幻の果実を探す旅に出ました。ですが……そんな物は昔話しの迷信だと。聞く人、聞く人に笑われ……」女性は瞳に涙を浮かべ、今にも泣きだしそうな顔をしながら語る。


「そうかぁ、あるのか無いのか分からないんじゃなぁ……」俺は露骨にガッカリする。


「で、ですが昔おばぁ様は、私に言って聞かせてくれたのです。幻の果実は確かに存在すると……おばぁ様は私に嘘を付いた事など、一度もありません!!」女性は大粒の涙をこぼし、肩を震わせながら言う。


「なるほどねぇ、分かった。俺もその果実……探す!!」俺は、満面の笑顔で誓う。


「わ、私の話を信じて下さるのですか?」女性の涙は止まり、きょとんとした表情で言う。


「信じるよ!!魔法で治せないんじゃ、どの道俺にはそれしか希望は無いだろうし。そう言えば、君の名前は……」俺は女性に、名前を尋ねる。


「レイラ、と申します」女性は恥ずかしそうに答える。


「俺の名前は時半真人ときなかまなと!!レイラ……俺と一緒に、幻の果実を探してくれないか?」

 俺はレイラに手を差し伸べ、一世一代のプロポーズの様に誘う。


「「「はい!!」」」

 レイラは嬉しそうに涙をこぼし、俺の手を取る。


「「「よし!!じゃあ決まりだな」」」

 俺とレイラは顔を見合わせ、笑い合う。

 

─────────────────────


 【回復魔法師】 レイラが仲間になった。


─────────────────────


 とは言ったものの、何をすればいいか分からず考えていると……。


「そーいえば、時半真人ときなかまなと様。体の怪我、お治ししますね」レイラはそう言うと、魔法を唱えようとする。


「ちょっと待てレイラ、今俺の事なんて呼んだ?様何て付けなくていい。これからは仲間なんだからフレンドリーに行こう!!まなとって呼んで!!」俺は、様付けで呼ばれた事に距離感を感じ、注意する。


「まなと、分かりました。では回復魔法を」レイラは照れながら俺の名前を呼び、魔法を唱えだす。


「「「精霊達よ、傷ついたこの者に無償の愛を与えなさい。【ヒール】」」」


 レイラが魔法を唱えると、俺の足元に魔法陣が描き出され、暖かな光が俺の全身を包む。

 すると、俺の体の痛みが糸が解けていく様に無くなっていき、全身のあざも嘘の様に消えていった。


「こりゃスゲー、怪我が無くなっちまった!!レイラありがとう!!!」俺は回復魔法にとても感激し、レイラにお礼を告げる。


「私の魔法で、こんなに喜んでもらえたのは初めてです。私は軽い状態異常や軽い怪我ぐらいしか治せないですけど、熟練の回復魔法師は切断された手や足も、元通りに出来る人もいるらしいですよ」

 レイラは嬉しそうに答える。


「それは凄いね!その回復魔法って俺も使えたりするの?」


「もしかして、自分の魔力属性分からないんですか?」レイラは俺の質問に対して、質問で聞き返す。


「魔力属性?」俺は、聞いた事の無い単語に首を傾げる。


「魔力属性を知らない人に、初めて会いました……人は、体の中に魔力を秘めているんですけど、人それぞれ魔力の属性は違って、同じような属性でも上位互換や下位互換があります。それによって扱える魔法は違うんです。私は精霊属性と言って、自分の魔力で精霊を呼び出し、精霊にお願いして回復を行ってもらうって感じです。ちなみに精霊属性はとても少ないので、おそらくまなとは回復魔法を使う事は出来ないと思います」

 レイラは誇らしげに、魔力属性について説明してくれた。


「そうかぁ、魔力属性ねぇ……それってどうやったら分かるの?」俺は、レイラに魔力属性の判別方法を尋ねる。


「普通であれば、十二歳の誕生日に鑑定魔法師に、鑑定してもらう筈なんですけど……あっそうだ!!この先にあるロタケケ村の外れに、鑑定魔法師の老婆が住んでると聞いた事があります。そちらに行ってはみませんか?」レイラが俺に提案する。


「マジ?それは行くっきゃないでしょ」俺は瞳を輝かせて賛成する。


 そうして俺達は、他愛もない話をしながらロタケケ村に向けて山道を歩いていた。

 すると前方からボロボロの服を着た、三人の男がナイフをチラつかせて歩いてくる。

 俺は内心、ここら辺の治安の悪さにうんざりしていた。

 レイラの顔がこわばっているのが分かる、俺も生唾を飲み込んでその男達とすれ違う。


 何事も無くすれ違えたことに、俺とレイラは「ふぅーー」と緊張を口から吐き出す。

 すると後ろから───。


「「「おい!!そこのあんちゃん止まれよ」」」

 男の一人が、俺の事を呼び止める。


 嘘だろ、結局こうなるのかよ……。そんな事を考えていると、レイラが不安そうな顔をして俺の服の袖を掴む。

 そうだ、一番不安なのはレイラなんだ。俺がしっかりしないと……そう決心して、男達の方に笑顔で振り向く。


「なんですか?俺達に何か用でも?」俺は出来る限り、好意的に答える。


「俺達はあんちゃんにしか用はないよ。あんちゃん、とても珍しい服着てるねぇ。素材も良さそうだ……その服って売ったらとても高そうだよねぇ……ねぇあんちゃん、その服俺達にくれない?」

 男がナイフを咥えながら言う。


 クソッ、追い剥ぎか……こりゃもう下手に出ても仕方がないな、俺は心の中で思う。


「あげる訳ねーだろ、俺の着る服が無くなっちゃうでしょうが」俺は少し強い口調で言い返す。


「やだなぁ、そんな俺達が追い剝ぎみたいな言い方しないでよぉ……俺は奪うとかそー言うんじゃなくて、俺の服と交換しようって、そう言ってるんじゃないかぁ」そう話す男の後ろで、二人の男がニヤニヤと笑っている。


「あんまふざけた事ばっか言ってんなよ?今すぐ俺達の前から消えないと……」そう言うと俺は、魔法を唱える為構える。


「だめですっ!!まなと、もうあの魔法は二度と使ったら駄目!!服ならまた買えばいいんですから、やめてください……」レイラが俺の腕を強く掴む。


 そうだ、俺は馬鹿だ。レイラの言う通り服ならまた買えばいい……レイラを危険に晒し、こんな所で寿命を縮めている場合ではないんだ、ここは穏便に済ませよう。


「あぁ、この服?欲しいの?いいよいいよ。あげる、あげる……」俺は、怒りを押し殺し男の要求を呑む。


「わぁ、優しいあんちゃんで良かったぁ……でも」男は俺に近づき、俺の腹部にナイフを突き立てる。


「な、なんだよ……」俺は生唾を飲み込み、男に尋ねる。


「俺、傷ついたんだよねぇ、あんちゃんに追い剝ぎ扱いされてぇ……ねぇ、謝ってよ」男の瞳は、どす黒くにごっている。その後ろで二人の男が腹を抱えて笑っている。


「そ、それはすまなかった……俺の勘違いだったよ」俺は心の中で、この異常者が。と思ったが奥歯を噛みしめ、謝る。 


「「「違うよねぇええ!!!人に謝る時はさぁぁああ!!!そんなんじゃ駄目だよねぇえええ」」」

 男が狂った様に逆上する。腹部に突き付けられたナイフがチクッと少し刺さる。


 レイラは、恐怖のあまりこれでもかと言うほど体を震わせていた。

 俺は膝を折り、手の平を地面につけ、ひたいに土を付ける。


「「「本当に申し訳ございませんでした!!!私の粗相をお許し下さい!!!」」」

 恥を捨て頭を下げる。俺は悔しさで、唇を強く噛んだ、唇から血が滴る……。


「うんうん、あんちゃんの気持ち伝わったよぉ……許してあげる」 男はそう言うと、俺の服を追い剝ぎ、自分のボロボロの服を投げつけた。


 そして、レイラに「俺達、女の子には酷い事しないからねぇ」と不気味な笑みを浮かべながら言うと、男達は何処かに消えていった……。


「レイラ、ごめんな……。怖い思いさせて」俺はあまりの悔しさに、瞳から涙がこぼれる。


「いいえ、まなと。魔法を使わないでくれてありがとう……まなとは偉い。そして強い人です」

 レイラはそう言うと俺の頭を撫でる。


 レイラにそんな事を言われ、余計に涙が溢れる。

 俺はボロボロの服に着替え、涙を拭きレイラにありがとうと伝える。

 

 そして俺達はまた、ロタケケ村に向けて足を進めるのだった。

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