第三章 『二度目の余命宣告』

「なぁ~いいじゃね~かぁ、俺らと行こうぜぇ~」柄の悪い男達が、若い女性に絡む。


「本当にやめてください、何なんですかあなた達」女性は肩を震わせながら、男達に問う。


「へへ、俺たちはこの先の村の領主様に、腕っぷしを認められて、用心棒として雇われることになった強者達よ」一人の男が誇らしげに話す、するともう一人の男が話を続ける。


「そんでよぉ、お祝いにアンタみてぇな綺麗な女と、一杯やりてぇ気分てなわけ」男達は声を合わせて笑い合う。


「お父様……、私はこんな所で立ち止まっている訳にはいかないの。そこをどいてください!!」

 女性は瞳に涙を浮かべ、唇を震わせながらも男達にお願いする。


 その時、一人の男が女性の腕を掴み引っ張る。


「「「誰だ、てめぇ!!いい度胸してんじゃねーか!!!」」」

 男達は、食べ物を横取りされた猿の様に、逆上する。


 女性の腕を掴んだその手は、時半真人ときなかまなとのものだった。


「お前ら、女性一人取り囲んで。発情期ですか?この野郎!!」俺は日頃の鬱憤うっぷんを晴らす様に、男達を罵る。


「チビ一人で、何が出来るって言うんだ」男達は、俺の体格を見てあざ笑う。


「チビ……お前ら、俺に一番言っちゃいけない事を言ったな……だが、今は逃げるが勝ちだ!!」

 俺は女性の腕を引っ張り、逃げ様とすると。


「あなた、その身体」女性は、俺に向けて言葉をこぼす。


「え?あぁこの怪我は、さっきの村でいざこざに……」俺は聞かれたくない事を聞かれ、口をごもらせる。


「違う。怪我じゃなくて……」女性は、心配そうな顔を浮かべる。


「ん?どーゆう事」

 そんな事を話している間に、周囲を男達に取り囲まれてしまった。


「へへ、馬鹿め。さっさと逃げればいいものを、まぁ逃がす気はないんだが……少々痛い目に遭ってもらうぜ」男達は、ブンブンと音を立てナイフや棍棒を振り回す。


 流石にこれはヤバい。ヤバすぎる。

 勢いで飛び出して、カッコつけたはいいものの、全くのノープランだ……それに加え、俺の体はもう怪我でボロボロだ。

 あの魔法はあるが、下手をすればこいつら数名の命を奪ってしまうかもしれない。


「私は大丈夫です……。あなただけでも、逃げてください」女性は俺にそう言うが、女性の手の震えが、掴んだ腕を通じて俺に伝わる。


 馬鹿か、そんな事出来るはずがない。

 こんな震えた女性を置いて逃げるくらいなら、俺は男として、このまま死んだ方がマシだ。

 だがどうする、何か方法は無いのか……俺が辺りを見渡していると。


「「「しねぇぇぇ」」」

 男達が、俺目掛けて飛び掛かる。


 女性は、恐怖で瞳を閉じ。

 その場にしゃがみ込む……。


「「「【ライ・エイド】」」」


 俺は、飛び掛かってくる男達の後ろにそびえ立つ、大岩に向かって手を伸ばし、全力で魔法を叫ぶ。

 すると伸ばした手のひらから、綺麗な光を放つ魔法陣が空間に浮かび上がり、腕の周りに赤黒い雷の様な物質がバチバチと音を立てて、停滞しだした。


 痛みは無いが、もの凄いパワーが俺の腕に溜まっている事は分かる。


 それを見て男達が動きを止めた瞬間。

 俺の手から魔法が放たれ、雷鳴と共に周囲が赤黒く光り、言うなればレールガン【超電磁砲】の様な高圧のエネルギーの塊が大岩にぶち当たる。

 物凄い突風と共に、大岩が跡形も無く弾け飛んだ。


「次は、お前らがこうなる番だぞ?」俺はあまりの驚きに、心臓が飛び出そうなほど心拍数が上がっていたが、冷静を装い見栄を張る。


「ど、どうなってんだ。こんなに弱そうなのに」男達は腰を抜かしながらも、散り散りに逃げていった。


「はぁー、良かった。まじで死ぬかと思った」と言いながら、突風で体制を崩した女性の手を取り起き上がらせる。

 

「本当にありがとう。あなた強いのね!!……ちょっとまって、これは……あなた何をしたの!?」

 女性の顔が青ざめる。


「あぁ、この岩はしょうがなかったと言うか、正義の犠牲と言うか……」俺は、ここの地形を変えてしまった事の弁明を図る。


「それはそうだけど、違うの……。あなたの寿命が……」女性はとても暗い顔を浮かべる。


 俺は「寿命」と言う言葉を聞いて、医者の言葉を思い出しゾッとする。


「寿命?寿命ってどーゆう意味?」


「いや、何でもない……」女性は答えてはくれなかった。


 すると、後ろの方から声が聞こえた。


「いました!アイツです兄貴。アイツにやられたんです!!」そこには先ほど逃げていった奴らが、兄貴と呼ばれる二メートル近い大男を連れて戻ってきていたのだ。

 その大男は、手に俺の身長程ある大剣を握り、ズシズシとこちらに向かって来ている。


 俺はとっさに女性の腕を掴み直し、魔法を唱える為、構える。


「あいつら……救えねぇ、足無くなっても文句言うなよ」俺は、向かってくる大男の足元の地面を狙い、魔法を唱える。


「「「【ライ・エイド】」」」


 そして先ほどの様に魔法陣が形成された、その時。


「「「その魔法を、止めてぇぇぇ」」」

 女性が俺の手を振り解き、俺の事を押し倒す。

 その衝撃で魔法陣が消え、魔法が止まる……。


「ちょ、何するんですか!?魔法が……」俺は、女性のいい香りに気を取られながらも、魔法が止まってしまった事に焦る。


「いいから逃げましょう!!」女性は俺の腕を掴むと、全速力で走り出した。


 それからどれだけ走っただろうか。

 女性は、男達が追って来ていない事を確認すると立ち止まり、俺の腕を放す。


「ぜぇ、ぜぇ、急にどうしたんですか??」俺は走り過ぎで、肺が爆発しそうになりながら、女性に尋ねる。


「「「それはこっちのセリフです!!何なんですかあの魔法!!!」」」女性は俺に向かって怒鳴った。


 急に怒鳴られて動揺したが、あの魔法は何だと聞かれ、自分でも考えたが答える事が出来ず、困惑した表情を浮かべていると、女性が話し始める。


「まさか、何にも知らないでその魔法を使っていたんですか!?その魔法は……あなたの寿命を縮めています!!!」


「えぇぇぇぇぇ!!嘘だろ!?でも何でそんな事が分かるんだよ」俺はあまりの驚きに顎を外しそうになるが、率直な疑問を女性にぶつける。


「そ、それは私が……」女性は言葉を詰まらせる。


「それは私が?」俺は女性を問い詰める。


 すると女性は、何か決心を決めたかの様な顔をして、驚きの言葉を放つ。


「「「そ、それは私が特殊体質で触れている間その人の寿命が分かるからです!!」」」

 とても早口だったが、女性の口から衝撃のカミングアウトが飛び出した。


「それ、マジ?」俺は、最も簡潔な言葉で問いただす。


「はい。この事は、家族以外に話した事は無いのですが、あなたが魔法を使う度、急速に寿命が縮んでいくのを見て、言わずにはいられませんでした……ただでさえ短いのに」

 女性の話す事は信じ難い内容だったが、女性の瞳を見ると噓などついている様には見えなかった。


「一つお伺いしたいのですが、俺の寿命ってあとどれくらい?」正直、聞くのは恐ろしかったが、一度医者から余命宣告されているんだから一緒だろ、と自分に言い聞かせて聞く。


「正直にお伝えすると、あと丁度半年です……私が初めてあなたに触れた時は、195日だったんですけれど。あなたが魔法を使った後、寿命は185日……つまり十日も減っていました。そして二回目に魔法を使おうとした時は、物凄いスピードで寿命が減っていくことに気付き、私が途中で止めたので五日で止まりましたが、あのまま魔法を発動させていたら恐らく、もっと寿命が縮んでいたと思います。なのであなたの寿命は、今は180日丁度半年です」と女性は俺に淡々と説明した。


「そうか、やはり異世界に来たといってもがんは治んないかぁ。てかあの医者が言ってた寿命あながち間違ってなかったんだな」

 俺は現代医療に関心している中、ふと気になった事を聞いてみる。


「この世界には回復魔法とかあったりする?それで俺の病とか治せたりしないかなぁ」

 俺は、異世界ならではの可能性に期待をする。


「回復魔法ありますよ。何を隠そう私が回復魔法師です!!!」なぜか誇らしげに女性は言う。


「マジか!?じゃあ俺の病を治してくれ!!」魔法ありのこの異世界ならではの希望に、胸を躍らせる。


「それは、出来ません……魔法で治せるのは、魔法による状態異常や物理的な怪我のみです……」

 女性は、悲しそうな顔を浮かべる。


「そんなぁ、そんなのあんまりだ……」俺の心の希望は打ち砕かれ、絶望に落ちる。


「で、でも……」女性は何かを言いたそうにしている。


「でも~?」俺はそんな女性を更に問い詰める。


「でも、魔法では治せないですけど……治せる可能性はあります……」女性は自信なさそうに言う。


「そ、それは本当ですか??」再び到来した希望の光に、俺の顔も照らされる。


「はい。それが私が一人で旅にでた理由です」


 そして女性は、話し始めるのだった……。

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