最終話 それぞれの光(※三人称)

 自分のできる事を信じて。それが今の自分にできる事であり、これからの自分がするべき事だった。自分が思うままに突き進む。その道がどんなに険しくても、それを一歩ずつ進んでいくしかなかった。彼等は、自分の道を思った。自分の道を思って、そこに未来を感じた。誰もが幸せに生きられる未来を、無意識の内に思ったのである。


 彼等は町の人々に断りを入れて、ここから旅立つ旨を伝えた。「最後までいられないのは、残念だが。俺達にも、やるべき事がある。『この世界を救う』と言う役目が」


 そう謝ったマティに誰も文句を言わなかった。町の人々は「それ」が仕方ない事、「彼等は、冒険者である事」を思って、その謝罪にも「分かった」と言いつづけた。「あんた等は、恩人だ。本当はまだ、残って欲しかったけれど。それは、『ワガママ』と言うモノだ。あんた等には、あんたらの都合がある」


 マティは、その言葉に頭を下げた。彼が人に頭を下げるのは珍しかったので、彼の事を知るゼルデはもちろん、元仲間であるリオも、その態度に思わず驚いていた。彼は二人の反応を無視して、目の前の人々にまた向きなおった。人々は、彼の視線に息を飲んでいる。


「それじゃあ、な?」


「はい。ゼルデ君達も」


 ゼルデは、その言葉に微笑んだ。それが伝える人の温かさに触れて。その口元を思わず笑わせたのである。彼は町の人々に「行ってきます」と言って、マティの顔にまた視線を戻した。マティの顔は、あの無愛想を浮かべている。「マティさん」


 マティは、その声に応えた。彼が差し出す右手を握って。「もう一度、聞くが?」

 ゼルデは、その声に首を振った。彼の言わんとする事を察したからである。


「お誘いは、嬉しいです。でも、俺は」


「そいつ等と一緒に行く、か?」


 ゼルデは、その質問にうなずいた。「はい」と言う、絶対の返事を消して。


「俺達は、チームです。誰一人が欠けてはならない、大切なチーム。そのチームで、本当の平和を手に入れたいんです。あの子が泣かないような、俺達のような人間が生まれない世界を」


「そうか……」


 少し残念そうな声。その表情もどこか、寂しい感じだった。マティはかつての仲間達、そして、今の仲間達に目をやった。「戦いは、辛い。自分がどんなに励んでも、大事なモノが失われていく。硝子の小瓶が割れるように、その命も……。だが」


 それでも生きたい。生きて、本当の自由を得たい。自分の命がたとえ、潰えても。その未来に確かな光を感じたかった。「お前達には、それを叶える力がある」


 ゼルデは、その言葉にうなずいた。ライダルも、彼の思いに微笑んだ。二人は互いの顔をしばらく見ると、相手の前に歩みよって、それぞれに握手を求めた。


「ゼルデ」


「うん?」


「僕はずっと、憧れていた。君の力に、君が生きる世界に。僕は君に重ねて、自分の時間を生きてきた」


「そっか……」


 ゼルデは、彼との握手を解いた。そうする事で、彼の未来を照らすように。


「ライダル」


「うん?」


「君は、俺じゃない」


「うん」


「俺と似た境遇でも。君は、俺と同じじゃない」


「うん……」


「ライダル。君は、君の道を進めばいい。君だけしか進めない道を、君だけの足で進むんだ。周りの人と寄り添って、君らしい道を進めばいい」


「うん!」


 ライダルは、嬉しそうに笑った。ゼルデも、それに笑いかえした。二人は自分達の仲間に向きなおって、それぞれに「頑張ろう」と言い合った。「また、笑いあえる世界のために」


 ライダルは、マティの前に立った。「行きましょう?」


 ゼルデは、ミュシアの前に立った。「行こう!」


 二人は仲間達の返事を聞いて、それぞれの道をまた歩みだした。「新しい道が、待っている」


 だから、進もう。どんなに苦しくても、前の光を見よう。自分の技能が死んだって、また新しい世界が待っているのだから。それに落ちこむ事はない。自分が自分を諦めない以上、必ず新しい自分が現れるのだ。誰かがそっと、手を差しのべてくれるように。その希望は、絶対に現れるのである。


 彼等は無言の内にそれを感じたが、ヴァインだけはそれを感じられなかった。彼女は仲間達の励ましも虚しく、無感動な顔で切り株の上に座りつづけた。


「私の未来は、消えた」


 私の人生も、消えた。


「復讐に生きる意味も、これからの人生も。私は」


「まだ、消えていない」


 そう返すハルバージの目は、真剣だった。ハルバージは彼女の手を握ると、穏やかな顔でその頬を撫でた。「君が生きる意味は? 君は自分の復讐を止められて、悔しくないの?」


 ヴァインは、その言葉に「ハッ」とした。確かに悔しい。自分の生きる意味を奪われるのは、この上もなく悔しかった。彼女は少年の手を払って、切り株の上から立ちあがった。「私は、生きる。生きて、あの二人を殺す。私の復讐を潰した、あの二人を。あの二人は、私の光だ! どんな光にも勝る、目映い光。私は『それ』を、絶対に潰してみせる!」


 ハルバージは、その言葉に微笑んだ。それに微かな希望を感じて。「なら進もう、その光を信じて。君の明日を輝かせよう? あの太陽が」


 そう彼が指さす先には、美しい朝日が昇っていた。彼は朝日の先に未来を感じて、彼女にも「今日を照らしているように」とうなずいた。「君も、自分の未来を照らそう?」


 ヴァインは、その言葉に微笑んだ。自分の未来を、世界の未来を照らすように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

得意の技能(スキル)が死んだ俺は、所属の組織(パーティー)から追い出されたが、代わりの最強技能(スーパースキル)が目覚めたので、新しい冒険生活(ライフ)を送る事にした 読み方は自由 @azybcxdvewg

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ