第5話 学食無料?行くしかないな

 お昼は全員学食で食べることになっており、お金を持ってない人も今日は全メニューただという太っ腹な学校の対応によって、お昼に困る人はいないように配慮された。


「普段は弁当持って来ようと思っているから、今日は食べれるだけ食べ回ろう」


「ただなんだっけ?全然金持ってきてないから良かった〜」


「実はそんな中、お弁当を持参している猛者が一人。私」


 生徒の多くが一つの場所に向かっているため、廊下はとても混みあっており、かくいう俺もその一人だったりした。


「全然、先が見えねぇ。教室出たばっかりだぞ」


 一クラスごとの移動とかそんなもんは全然無かった。ただただ人が溢れかえっていた。


 そんな中後ろからひょっこり顔を出てきた楓は、人をかきわけるようにして灰羽の隣にきた。


「ふぅ、大変だった。順番抜かしなんてするもんじゃないね」


「まだ、その地点にもたどり着いてないんだけど」


 順番どうのこうのの問題じゃない。平等とか謳っていっせいのーでで全員が教室から出たからこんなことになってるんだ。


「ちゃんとあるのか?在庫足りないじゃ許されないぞ」


「分からないけど、こうなることは想定済みであって欲しいと願うよ」


 余裕のない表情で、楓は僕の腕を掴む。流されないようにするためだろうか?


「伊波さん。ちょっと、僕も引かれてるんですけど」


「運命共同体、死ぬ時は一緒だろう?」


 食べれないってオチはいやだが、相手が女子である以上振りほどく訳にも行かない。大人しく捕まっておくしかないんだ。


「離しては、、、くれそうにないな」


「ありがとう、悠斗。助かるよ」


「あの、いいかげん灰羽って呼んでもらえないだろうか。ちょっとむず痒いんだけど」


「これからも、名前で呼ぶよ、悠斗くん」


「え、なんかやだぁ」


 彼女は俺の袖を掴んだまま、たまに、人の波に入り、立てなくなりそうになりながら、俺もそれに引っ張られてごっちゃごちゃして大変だった。


 昼休みは特別、一時間延長するというアナウンスが流れ、ほんの少し混みがマシになってきた。ようやく、列も整備され俺の後ろに楓が来た。


「はぁぁ、やっと飯が食べれる〜」


「そうだね、お腹ペコペコだよ」


「嵐が川になった感じするわー」


「分かる!!」


 楓とこんなに意見が合うのは初めてかもしれない。長い昼休みを共にしたこともあってか、灰羽は楓と普通に話していた。


「そういや、伊波さんは何か好きな食べ物あったりする?」


「うーん。私はオムライス結構好きだよ。悠斗は?」


「カレーだな」


「すごい、即答だな」


「やっぱ、男子はカレー一択じゃね」


「あと、すごい偏見。じゃあ嫌いな食べ物は?」


「梅干し。親がたまに出てくるんだけど、まじ食べれない。あれは人間の食べれるものじゃないと思う」


「ふーん。ちなみに私は納豆食べれない」


「ま、好き嫌い激しいからな、食べれない人は食べれないよな」


「そういう悠斗は食べれるって感じだね」


「ま、普通に食べれるな」


「へぇ〜すごいな。私もその舌欲しい!」


「梅干し食べれなくなるぞー」


「えぇ〜それは嫌だな」


うん?あれ!?めっちゃ普通に喋れてる。今まで主導権あっちに奪われてたのに?あれ?もしかして、俺すごい


「なるほどね。好きな食べ物はカレー、嫌いな食べ物は梅干しっと」


「え?なんで、メモ帳開いてそんなこと書いてるの?」


「ほら、悠斗自分の情報喋ってくれたから、悠斗の生体ノートでも書こうかなって」


そんなことを言いながら、楓はペンを止めない。


「え、もしかして泳がされてた?」


「そんなつもりないしー。悠斗が勝手に饒舌になっただけですー」


 楓はブーと頬を膨らませて、私のせいじゃありませんとそういう感じだ。


 僕のことを知りたいなんて、どうしてそんな風に思えるんだ?人と関わってもしんどい事だらけなのに。


 僕には気付かなかったが、楓の頬は赤くなっていた。



 ようやく、長蛇の列を越え俺たちは食券を買うところまでたどり着いた。売り切れになっているものもあったが大概は残っていた。


 ちなみにカレーは売り切れだった。


「やっぱり、あんな人数で押し寄せるべきじゃなかったんだ」


「悠斗すっごい悲しい顔してるよ」


「いや、まぁ、適当に牛丼でも食べるか...」


「投げやりになってるよ」


「もう、いいかなって」


 実際は、そんなに悲しんではいないが、目に映ったとんカレーなるものを食べてみたかった。そう食べてみたかっただけだ。全然気にしてない。


「私は、焼肉定食、いやシーザーサラダ定食にしとこ」


 楓は、俺の顔色を伺ってそう言った。


「いや、そこ遠慮する所じゃないと思うけど...。俺気にしないよ?」


「ん、じゃあ、焼肉定食頼む」


 女子は、やっぱりそういう所気にするんだろうか?まぁ、俺も人前で食べた事さえないけど気持ちが分からなくもない。


 食券を手に持って、受付のおばちゃんに渡すと、代わりにあのフードコートとかによくあるピーピーなる機械と交換した。


 こんなところでお目にかかれるとは思わなかった。


 俺はそれを手に持ち、席を探しに入るが、どこも満タン。食事をし終えても、そこに居座る生徒もいるらしく、先生も手を焼いているようだ。


「どこに行ってるんだよ悠斗?こっちだよ」


 俺の後から来た楓は、こっちと指を指し、まぁ、嫌な予感しながらついて行ってみると見事的中。


 前の方にいた楓の友達二人とかち合う形になってしまった。


 また、他人からの目線が気になりすぎる状態に陥った俺は、楓に言われるがまま席に着くことになった。


 席がないのだから仕方ない。そう思うことにした。というか、実際に俺の前で食べるつもりだったから気にしていたのか?


 てっきり他人に見られるのが嫌だからだと思っていたのに。


「おっ先ー。私らの方が早かったんだな」


「お先です。席が取れて本当に良かったです。なかなか来なかったので先に注文しちゃいました」


如月はサンドウィッチを夜野はサラダ定食をそれぞれ口にしていた。普通に美味しそうだ。


「いや、すまない。なかなか人の波にもまれてしまってね」


そういや、楓はあんな一瞬で作った友達にそれはそれは親しまれているようだけどこんな風に席を取っといてもらえるほど信用されてるんだな。なんだか、感心感心だ。


僕とはほんと大違いだ。


ちなみに、頼んだ牛丼は温かくて美味かった。カレーへの期待が高まるばかりである。僕は弁当になるだろうが...。

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モブは普通の〈モブらしい〉生活を送れない 里道アルト @redo_aruto01

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