さまよえるオランダ人
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Estella 絵の進捗はどうですか? 201X/12/2X Wen 07:44
あやの☆ アオヒツギの期限! 201X/12/2X Wen 11:09
"絵の進捗はどうですか? Estella"
"銀鶏様、お久しぶりです、エステラです。
年末のお忙しい中ではあると思いますが、
女教皇の絵の進捗は如何でしょうか?
現在出来ているエスキスで結構ですので、
何点かございましたら見せていただけないでしょうか。
勿論それには対価を支払わせていただきます。
何卒ご検討くださいね。
その報酬に関しては今度は「別の者」を差し向けますので、
宜しくお願いいたします。それでは短文ですが失礼いたします。"
……エステラ、エステラである!
私がまるで女教皇について描いたエスキスが溜まったのを、見透かしたかのようなタイミングでのメール。
一体どういうことだ? しかも「別の者」とは……
そうか! もう出口さやかではない者を寄越すという意味なのだ、詰まり彼女からの使者が変わる?
あの時確か出口はこうも言っていた――
「そう、わたしには仲間たちがいるのです」
エステラが私に向かわせるのはその一人、という事なのか。
一体その仲間たち、とは何者なのだ? こうなったら次に接触してきた者を徹底的に問い詰めてやる。
しかし出口さやか同様、あの不思議な雰囲気に飲まれてその機会を逸しては何もならない。肝に銘じておこう。
そしてもう一通、あやのからのメール。
忘れていた! すっかり。私たちはアオヒツギに対して二日の猶予を与えたではないか。それが今日だ。
"アオヒツギの期限! あやの☆"
"こんにちはjane_doe。さてと二日経過したけどあいつの答えはどうかしら?
なかなかに頑固だし素直に言うこと聞くタイプとは思えないけど、
なんとか説得する方向で頑張りましょう
実力行使も含めて、三対一ならなんとかなる!
とりあえず、今晩21時あいつのマイハウスに直接行きましょう☆
(このメールはまるちゃんにも送付しました)"
あやの……相変わらず抜かりないな。
しかし説得するとは、なにかあやのには決定的な秘策でもあるのか?
とりあえずまだ21時までには時間がある。
私は夕食も兼ねて珍しく駅前の居酒屋へ寄った、そこでキャベツや焼き鳥をがっつくと一杯だけビールを飲んだ。
直ぐに出る積もりだったし、この後はゲームも控えていた。
すると不意にスマホが振るえた。
タマキからのLINEであった。
"ごめんなさい、今、通話しても構わない?"
私は直ぐに (安価な)会計を済ませて駅前に出た。
元から飲む予定だったから自転車は置いてきていた。
そしてタマキに通話で呼び出しをかけると彼女は程なくして、それを受けた。
「どうした、タマキ急に」
「御免なさい動揺してる……よね、わたし」
「どうした、タマキ」
「……他でもない、Energy drain名義のメールが届いた」
「そうか」
「矢張り彼は存在しているの?」
「わからないさ、メールの内容にも拠るが」
「それは……見せられない」
しばし沈黙が続いた。その間に私はいつものコンビニに寄り、すっかり正月のディスプレイに変わった其処で缶チューハイとサラダを購入した。
「機密か……それが彼からの条件?」
「それも言えない……ごめんなさい。わたし、勝手だよね」
「タマキ?」
コンビニから出ると、通話はそこで切れていた。
何か彼女はEnergy drainについて確定的な事を知ってしまった?
なにやら底知れぬことを……
いつか私もそれを知る様な事になる気がして――
この冬は終わらない。
陰府これに隨ふ 雀ヶ森 惠 @_dying_chicken
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