最終話:死が二人を別つまで
麗音が箱の中身を知ったのは、美夜と海が再会した日のこと。
「……これって……」
「帆波の遺書のコピーだよ。計画書と一緒になってる。見たかったら見て良いよ」
「このビデオカメラは?」
「……本当に一度も見なかったんだな」
「偉いでしょ。褒めて褒めて」
「はいはい。……預かってくれてありがとね。君に預けて正解だったよ。ビデオカメラの中身は今からDVDに焼き直す。美夜宛てのメッセージなんだ。……結婚祝いの」
「結婚祝いって……」
「……二人は、同性同士で結婚できるようになる日が来ることを信じていたんだ」
「……希望は捨ててなかったんだね」
「……帆波は言ってたよ。『差別が蔓延るこの世界では、誰もが殺人者になりうる。それを知らしめるためには、多少の悲劇が必要だと思うんだ』って」
「……だから二人は自ら悲劇を作り出したの?」
「そう。だけど、悲劇で終わらせないために、僕に一縷の希望を託した。『私達の選択を、可哀想な二人の同性愛者の悲劇で終わらせないために、希望を振りまき続けて』って……めちゃくちゃだよなぁ」
「……なんだかんだ言いながら言いつけ守ってるじゃん」
「……あそこまでされたらやらないわけにはいかないだろ。よっぽど強い意志がないとあそこまで念入りに計画を立てることなんて出来ない。……何も考えずに死のうとした僕には無理だ。まぁ、どちらにせよ、僕はあの日、古市さんに、寿命を迎えるまで死ねない呪いをかけられてしまった。どうせ死ねないなら『死ぬのが勿体ない』以外にも生きる理由があった方が良いだろ」
「……そっか。だから君は、誰かの心のオアシスになるって決めたんだね」
「……あぁ。そしてようやく、時代は変わった。けど……」
「けど?」
「……僕は、寿命が尽きるまで死ねない呪いにかかってるんだ。迎えが来るまでは死ねない。だから、それまでの間、これからもよろしく頼むよ」
「ん。よろしくされました。こちらこそ、あと数十年、よろしくね」
「改めて数字にされると長いなぁ……」
「一人なら長いかもしれないけど、俺も一緒だからすぐだよ。ここまでもあっという間だっただろ?」
「……そうだな。あっという間だった。……仮に、僕が先に向こうに逝ったとしても、絶対に追いかけてくるなよ」
「追いかけないよ。けど、ちゃんと俺が来るまで待っててね」
「それは保証出来んな」
「ええー!愛してるなら待っててよ!一緒に転生して、来世もまた一緒になるんだから」
「うわっ、重っ。怖っ」
言葉とは裏腹に、海は楽しそうに笑った。心からの幸せな笑顔だった。その笑顔を見て、麗音は言う。
「ねぇ海ちゃん。俺達もさ、ちゃんと結婚式挙げない?」
海と麗音は、結婚はしたが、式は挙げなかった。海が挙げたくないと望んだからだ。当時の海は、異性を愛したことに罪悪感を覚えていた。とても祝ってもらう気にはなれなかった。
「……いや……今更良いよ」
「俺は挙げたいです」
「どうしても?」
「どうしても。今ならちゃんと、誓えるだろう?神の前で」
「……はぁ……分かったよ。けど、ウェディングドレスは着ないからな」
「いいよ。海にはきっと、タキシードの方が似合う」
「人も呼ばないから」
「うん。二人だけで挙げよう」
後日、二人はお揃いの真っ白なタキシードを着て、他に誰も居ない教会で、改めて神の前で誓い合った。死が二人を別つまで互いを支え合い、愛し合うと。
悲劇と希望 三郎 @sabu_saburou
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