作戦成功・・・・?!
「こっちだな。」
「うん、ボクもそう思う。」
何しろ、翔先輩と一緒っていうのがめちゃくちゃ嬉しくて、ボクは暑いのも構わずにずっと腕を組んでもらっていた。
だって、ボクは迷路オンチって事になってるし。
・・・・ボクの外見ならば、翔先輩に迷惑がかかる事もないはず。
パッと見、普通のカップルみたいだと思うし。
「あれっ!まーた来ちまった・・・・なんか迷ったみたいだな。」
「だーかーらーっ!あっちだって言ったじゃないですかっ!もぅっ!」
壁越しに、聞き慣れた声が聞こえてくる。
思わず、翔先輩と顔を見合わせて吹き出した。
「良かった、ボク、翔先輩と一緒で。」
「ふっ・・・・」
目を細めて笑う、涼しげな笑顔。
気づいてるのかな、翔先輩。
ボクが今、どんな気持ちで隣にいるか・・・・
笑顔を浮かべながらも、ボクの胸は少しだけ切なかった。
「もうすぐ終わりだな。」
「うん・・・・」
そう、もうすぐ出口。
ちょっと、誤算。
いくら翔先輩でも、少しぐらい迷うかなって思ってたから。
なのに、こんなに早く出口に着いちゃうなんて。
一緒に迷いながら、出口に向かいながら、その間にボク、ちゃんと翔先輩に言おうって・・・・
せっかくのチャンスなのに。
でも、いつ言えば・・・・
「夏希。」
「え?」
「何故嘘をついた?」
「・・・・え?」
言い出すチャンスばかりに気を取られていて、ボクは、自分のついた小さな嘘の事なんかすっかり忘れていた。
ポカンとして翔先輩を見ると、つつっと腕が引っ張られて、出口ではない方向へと連れて行かれる。
「お前、迷路得意なんだろう、本当は。」
「・・・・え?うん・・・・あっ。」
思わずコクリと頷いて、それから慌てて口を押さえても、もう遅い。
だいたい、翔先輩は最初から気づいていたみたいで。
「オレが動く前に、お前の足は先に動いていたからな、正しい道へ。しかし、何故嘘をつく必要なんかあったんだ?」
「そっ・・・・それは・・・・」
カーっと顔が熱くなる。
チャンスは、今だ。
間違いない。
でも・・・・恥ずかしい・・・・めちゃくちゃ恥ずかしいっ!
まともに先輩の顔が見られない・・・・どうしよう?
「そんなにオレと一緒に居たかったのか?」
「・・・・えぇっ!」
声が、裏返って壁に反響した。
焦りまくるボクを、翔先輩は静かに笑いながら見つめている。
「夏希、おいで。」
「・・・・ん・・・・はい。」
カチコチに固まった筋肉をどうにか動かして、翔先輩の隣に立った時にはもう、ぐったりで。
スッと伸ばされた腕に反応する間もなく、ボクは先輩の広い胸に抱きすくめられていて・・・・
(・・・・・☆♯×♭○※!!!)
「オレが、お前の視線に気づいて無かったとでも思っていたのか?」
気づいた時には、先輩の涼しげな瞳が、ゆっくりとボクから離れて行くところだった。
・・・・えっ!
えぇっ?!ボク・・・・ボク今っ!
先輩と、キ・・・・キキ・・・・キス、しちゃったのーっ?!!
「せんぱーいっ、こっち、こっちですってばっ!」
「なーに言ってんだよ、カツっ!お前の言葉は当てにならねぇ・・・・こっちだよ、こっちっ!」
「だーっ!そっちはさっき行ったじゃないですかっ!」
賑やかな会話が近づいてくる。
「さて、と。あいつらもやっと追いついて来た事だし。オレ達もそろそろ行くとするか。」
「・・・・う、ん・・・・。」
先輩の指が、ボクの手に絡められる。
ボクは、先輩に引かれるままに、足を動かす。
・・・・これって、もしかして、作戦成功?!
チラっと、先輩の整った横顔を見て、慌ててまた下を向いて。
改めてじわじわと歓びが湧き起こってきた。
もしかしてもしかすると・・・・先輩とボクって、両想い?!
だって、キスしちゃったしー。手、つないじゃってるしー。
「夏希。」
低い囁きに、ドキッとしながら顔を上げると、前を向いたままの翔先輩は、ボクにだけ聞こえるくらいの小さな声で言った。
「誰にも言うんじゃないぞ。」
「・・・・うんっ!」
それって、2人だけの秘密、って事だよね。
なぁんて心の中で呟きながら、ボクは先輩に体を擦り寄せた。
「・・・・暑いんだから、そんなにくっつくな。」
そう言う先輩の顔がうっすらと赤かったのは、きっとボクの気のせいじゃないと思う。
もちろん。
暑さのせい、だけでもないよね?
翔先輩♪
【終】
迷路の出口で 平 遊 @taira_yuu
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