迷路の出口で

平 遊

チャンス!

「あの、姉貴から券もらったんですけど。」

そう言って、ルームメートのカッちゃんが見せてくれたのは、遊園地の券。

「何枚あるんだ?」

そう聞いたのは、同じ寮の光弘先輩。

「4枚です。」

「なぁ、いつにする?」

「あのっ、おれ別にこれ全部使うつもりじゃ」

いつものように、釈然としないカッちゃんを残して、光弘先輩と、光弘先輩のルームメイトの翔先輩と、ボクの3人で日程を決め始めた。

ボクたちは、4人で行動を共にすることが多い。

揶揄いがいのあるカッちゃんと、先輩にも動じないボクのことを、光弘先輩と翔先輩はいたく気に入ったみたい。

それは嬉しいことだし、楽しいからいいんだけど。

光弘先輩と翔先輩は、学校でもよく一緒にいるところを見かける。

クラスも部活も違うのに。

よっぽど気が合うのか、それとも・・・・なんて、考えてしまうくらい。でも、違うと思うけど。

光弘先輩が『陽』なら、翔先輩は『陰』だ。

きっと、2人でちょうどバランスが取れているんだと思う。

カッちゃんとボクは、学校ではそれほど一緒にはいない。

クラスも違うし。

でも、カッちゃんとは気が合うし、一緒にいて面白いし飽きないから、ボクはルームメイトがカッちゃんで良かったと思っている。

ただ。

学校も男子校だし、おまけに寮になんて入っていたら、女の子と出会うチャンスは、皆無。

だから、ボク達は全員、彼女無し。

あ、でもどうかな。

光弘先輩も翔先輩も、イケ面だし要領いいから、もしかしたら彼女、いるのかも。

特に、光弘先輩は何故だか女友達が多いし。

『友達だ』なんて言ってるけど、本当はそのうちの誰かが彼女なんじゃないかと、ボクは睨んでいる。

翔先輩はイケ面のうえに頭もキレるけど、どうなのかな。モテると思うんだけど。

光弘先輩はお話上手だし、人をからかったり笑わせる事が多くて楽しい人だけど、翔先輩は余計な事は言わないし、言葉が少ないからちょっと突き放すような感じになってしまうんだよね。だから、取っつきにくい印象を与えちゃう。

あの涼し気な目も、冷たく見えちゃうのかな。本当はすごく、優しいのに。

カッちゃんは・・・・いないな。うん。学校以外、四六時中一緒にいるルームメイトのボクが言うんだから、間違いない。

で、なんだかんだで、いつもこの4人。

何でも、4人。

でも、ボク、本当は・・・・



「しっかし、野郎4人で来るもんじゃねぇなぁ。」

暑さと人混みと周りの景色に、光弘先輩が早くもゲンナリとした声を上げる。

休日の遊園地。

混んでないはずなんかない。そんなの分かり切っている事なんだけどな。

でも、そう。

周りには、親子連れの他に、カップルの姿がたくさん。

・・・・光弘輩って、女友達多い割には、ボクたち4人と出かける事多いんだよね。何でだろう?

・・・そう言えば、翔先輩だって。何も男4人で遊園地に来るほど、暇でも無いと思うんだけどな。

チラリと視線を流すと、翔先輩はあらぬ方を向いていた。

「せんぱーい、何見てるの?」

小走りに駆け寄って、すぐ隣に立つ。

「ん?あぁ、迷路がある、と思ってな。」

「迷路?あ、ほんとだっ!」

翔先輩の視線の先。

『巨大迷路』の文字を見つけ、ボクは思わずはしゃいだ声を上げた。

「ねっ、迷路行こうよっ!おもしろそうだよ!」

「何だ、迷路好きなのか、夏希?」

驚いた様にボクを見る翔先輩に、ボクは大きく頷いた。

「うんっ。いつも・・・迷っちゃうけどね。」

小さな嘘を、1つつく。

本当はボク、迷路得意なんだ。大抵迷わずに出口まで行ける。それも、誰よりも早く。

でも・・・・

「よしっ、じゃあ、迷路行ってみっか!」

「えぇー、ほんとに行くんですかぁ?」

「嫌なら、お前1人でここに居てもいいぞ、カツ。」

「えっ、そんな・・・わかりました、わかりましたよ・・・行けばいいんでしょ、行けばっ!」

背後から、光弘先輩とカッちゃんの、いつものお決まりのやりとり。

その隙に、ボクは翔先輩の腕を取って、歩き出した。

「翔先輩、迷路とか得意でしょ?」

「あぁ、まぁな。」

「ボク、翔先輩と一緒がいいな。あの2人と一緒だと、めちゃくちゃ迷いそうだもん!」

「いい選択だ。じゃあ、オレと一緒に入ろう。」

「うんっ!」

思い通りの筋書きに、ボクの頬がにんまりと緩む。

これでやっと2人きり。

いつも、光弘先輩が立っている場所に、今ボクは立っている。

 

 ・・・このチャンス、ものにしなきゃ・・・

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