日焼け

ちくわノート

真夏の海へ

 私は海に行かなくてはならなくなった。

 元々私はインドアな気質であるから自主的に行くことは決してない。学生時代の友人に誘われたのだ。

 その頃の私は大学を卒業したばかりで、仕事をしていなかった。では遊んでばかりいたのかと言われればそうでは無い。私は学生時代以上に熱心に勉学に励んでいた。どうも私は天邪鬼なようで、やれと言われればやる気が失せてしまうし、逆にやる必要が無くなれば途端にやる気を出すのだった。そのため、一日のほとんどを小難しい書籍とにらめっこして費やすことがほとんどだった。

 在学中に親が他界し、私のような若者にとっては十分すぎるほどの財産が手元にあったため、金に困ることも無かった。

 友人は私がそのような暮らしを知っていたために、体裁としては家に閉じこもっている私を連れ出すために、本音としてはただの人数合わせのために私を誘ったのだった。私としてはもちろん、その誘いを断ることも出来たのだが、私は友人を大切にする質であるし、そもそも暇をしているのだから断る理由を見つけ出せなかった。

 そうして、数人の友人と海に遊びに来たのだがギラギラと照り付ける夏の太陽に私はすぐ平伏してしまった。友人らは私の体が弱いことを笑ったが、私から言わせればこの灼熱の中、元気に遊び回れる方が異常なのだ。

 結局、遊んでいる友人を見ながらほとんどの時間をビーチパラソルの下で過ごしてしまった。

 その日の夜、肌に痛みを感じ、鏡を見ると自身の体が林檎のように真っ赤になっていることに気づいた。成程、ほとんどパラソルの下にいたのにここまで日焼けするのかと太陽の力に感心すると共に、全身の痛みに舌打ちをし、やはり行かない方が良かったかなとも考えた。

 海へ行ってから少し経った頃、いつものように起床後、着替えをするとべりっと音がした。服が破れたのかと思い、脱いで確認をしてみたが何ら異常は見られない。では何の音だったのかと考えていると床に薄橙色のハンカチのようなものが落ちていることに気づいた。拾い上げてみるとそれは私の皮膚だった。自身の体を確認してみると腹の方にその皮膚がいた痕跡が残っていた。私は恐る恐る残った腹の皮膚を引っ張った。べりっべりべり。

 ああ!なんと愉快なことだろう!

 私はすっかり夢中になってしまって全身の皮膚を剥がしまくった。全身の皮膚を剥がし終えてしまうと私は憑き物が落ちたような清々しい気分になっていた。

 鏡を見ると私は一回り小さくなっていた。

 それからというもの、私は皮膚を剥がす快感に捕らわれてしまった。暇があればベランダで肌を焼き、全身の皮膚を思いきり剥がした。

 鏡をみるとやはり、一回り小さくなっていた。

 そのような生活を続けているといつしか私の体はもとの大きさのおよそ半分ほどになってしまった。少しくらい小さくなったくらいではなんの問題もなかったが、ここまで小さくなってしまうとついに日常生活に支障が出始めた。まず、本棚の上半分の本が取れなくなってしまい、先人の英知の結晶は埃を被るだけのインテリアと化してしまった。ドアノブは背伸びをしないと届かないし、力も弱くなっているようで、小さな物を運ぶだけでヘトヘトになってしまった。

 流石の私もこれは不味いと考え、日焼けを控えることにした。しかし、日焼けを控えることで私は途端に調子を崩した。本を読んでも文の内容が頭に入らなくなり、常にいらいらし始めた。また、食欲もなくなり、私の体はみるみる痩せていった。

 私は変な病気にでもかかっているのかと思い、病院へ電話をかけようとした時、私は自分の指に小さなささくれがあることに気づいた。しばらくぼーっとそのささくれを眺めていたが、気がつくと私は生唾をごくんと飲み込んでいた。私は恐る恐る反対側の人差し指と親指でそのささくれをつまんだ。そして思いきり剥がした。べりっべりべり。皮は私の肘あたりまで剥がれ、真っ赤な血がどくどくと流れていたが、私は気づかなかった。

 ああ!愉快!

 私はその快感に溺れ次々に自身の皮を剥がしていった。

 そうして、がらんとした部屋だけが残った。

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日焼け ちくわノート @doradora91

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