優しいお坊ちゃまと口裂け女

駄作プロ

第1話

 「つい遊びに夢中になってしまいましたね……。 はやくお家に帰らないと……」


 その日、小学校の制服を着ているお坊ちゃま、宮泉省吾みやいずみ しょうごは自身の住むお屋敷を目指し、車が何とかすれ違える程度の住宅街の道を小走りで駆けていました。

 そこはいつも通り慣れた道、しかしいつも夕方通る道は、暗闇一歩前である今は、人の気配が全くありません。


 そんな道を歩いていた時、目の前からマスクをしたOL風の女性がフッと現れた様な気がした。

 そして。


 「ねぇ君……」

 「はい?」

 「私、綺麗……?」


 省吾お坊っちゃまの両肩を掴んだかと思うと、重々しい雰囲気でそう尋ねてきたのです。


 マスクはしているが、長い髪に大きく綺麗な吊り目、スッと伸びる高い鼻、それらは美人であるような雰囲気を漂わせています。


 「んー……。 美人だと思いますよ、お姉さん!」


 そんな女性を真剣な表情でじっくり眺めた後、省吾お坊っちゃまは素敵な絵柄を浮かべてそう仰いました。


 「ホントに? 私、綺麗……?」



 そんな省吾お坊っちゃまに対し、女性はマスクを取りながら再び尋ねます。


 ですが、そんな女性の口は耳元近くまで避けてるのです。

 そう、女性は口裂け女だった……のですが。


 「大丈夫ですかお姉さん!? 口が大変な事に!? さぁ早く、うちに専属の医者がいますから、すぐ手術してもらいましょう!」

 「へっ? いや、私、口裂け女なのだけど……」

 「きっとお姉さん、DVされてきたのですね……。 大丈夫です、うちの専属医達は超一流ばかり! お姉さんの怪我も、綺麗に治してくれますから!」

 「だ、だから私は口裂け女だから……!? あーれー……」


 省吾お坊っちゃまは怖がるどころか、口裂け女をDVにあった女性と認識し、引きずる様に自宅であるお屋敷にまで連れ帰ったのであった。


 …………。


 二週間後……。


 「良かったですね、お姉さん!」


 屋敷のテーブルにて、省吾お坊っちゃまは目の前の女性にそう微笑みかけていらっしゃいました。


 口裂け女はいなくなった。

 そこには、そんな過去を感じさせない綺麗な女性が一人いるだけ。

 きっと彼女には、素敵な未来がやってくる。

 そう願いたいものではないでしょうか?


 「あのっ!? 私、これじゃ口裂け女としてやっていけないのですけど!? 私、どうやって生きていけと言うのですか!?」

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